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自らをも救う新作「SALVAGE YOU」メンバー全曲解説で迫る制作秘話

「SALVAGE YOU」全曲解説

01 「奇跡」

──ここからは1曲ずつ話を訊かせてください。まずは「奇跡」から。この曲は、先ほどから話にも出ているとおり、「into the green」と強く共鳴するポップ感があって。ギターのフレーズはUSのインディポップのような軽やかさがあって、全体的に色彩豊かなサウンドに仕上がってますね。

三島 最初はもっとシンプルなサウンドだったんです。Cメロもなかったし、途中のキメや細かいフィルのアレンジも全部ない状態で。

飯田 Cメロを作るまでは、ずっと疾走し続けて、けっこうサラッと聴けるような曲だったんですよね。Cメロがあることで、1回立ち止まって、ラストのサビへ向かっていく高揚感を生むことができたんです。あそこは完全に泣けるポイントですね。

三島 時期的には、自分の精神的に閉塞感から抜けるギリギリ手前の、まさに「into the green」にたどり着く直前に書いた曲なんですけど。

──「奇跡」というタイトルで「奇跡はいらない」と歌っているのがポイントですよね。

三島 最初は「奇跡はいらない」というタイトルだったんです。それを「奇跡」にしたのは、何かに期待するのはやめよう、自分だけの力でなんとかしようという意志が前に出たからですね。

飯田 その意志が伝わってくるし、曲調も相まって「奇跡はいらない」というフレーズが前向きに響いてくる。

久野 普通は「奇跡」っていうタイトルだったら「奇跡を信じよう」みたいな歌詞を書くと思うんだけど、「奇跡はいらない」と書くのが三島らしいと思います(笑)。

──「into the green」と同様、この曲がたたえているポップネスはバンドのイメージをフラットにする力があると思う。

久野 うん、そう思います。cinemaはこういう爽やかな曲をやらないというイメージを崩したかったというのはちょっとありますね。

三島 あるね。

久野 別にこういう曲をやっても俺らのブレない色が出ることを主張したかったし。

02 「WARP」

──2曲目「WARP」は、4つ打ちをベースにスリリングに展開していくバンドアンサンブルとポップに突き抜けるサビメロのコントラストが印象的で。

三島 デモを作っている時期の中でも、最初のほうにできた曲です。サウンド的にもいろいろチャレンジしましたね。最初はサビの抜ける感じも自分の中でNGだったんですけど、固定観念を捨てて踏み込もうと思って。

久野 それぞれが今までNGだったことを踏み込んでやっている曲だと思います。ドラムでいえば、今までは4つ打ちっぽい感じはなるべく手を出さないようにしてきたんですけど、この曲では使いまくっているし。とにかくバンドの幅を広げて、どんどん制限をなくしたかったんです。

三島 無意識に「これはcinema staffじゃない」という制限を少しずつ取っ払っていって、完成まで持っていった。この時期は途中でボツになったアイデアがあまりなかったんです。どんどん新しいアイデアを採用していこうというモードで。

03 「さよなら、メルツ」

──続いて「さよなら、メルツ」。どこか牧歌的な幸福感がにじむミディアムナンバーなんだけど、歌詞がすごくシリアスなんですよね。

三島 この曲はパッと全体像が浮かんで、3~4時間でできたんですよ。

久野 この曲は三島くんのイメージがはっきりしていたから、「こんなふうに叩いて」「こんなふうに弾いて」という指定が一番多かったですね。

三島 でも、瞬発力で作ったからこそ、メンバーにどんな指示をしたのかあまり覚えてないんです(笑)。1カ月に何度か覚醒状態みたいになるときがあって。僕は普段スタジオで1時間に1回くらいタバコを吸わないと作業ができないんですけど、覚醒しているときはずっと作業をしていても集中力が途切れず、気付いたら曲ができていることがあるんです。そんなときは「あ、もうこんな時間だ」ってなる。

──ケルト音楽のような趣のあるメインリフがこの曲の牧歌的なムードを際立たせていますね。

三島 こういうテイストの曲では僕がメインリフを考えることが多いんですけど、これは辻くんが持ってきてくれたんです。

 (三島の)イメージが最初から固まっている曲に自分のギターを付けるのってちょっと難しいんですけど、この曲のフレーズはコード感の面白さに引っ張られてすぐにイメージできました。印象的なフレーズだと思うんですけど、悩むことなく付けることができてよかったなって思います。

──歌詞についてはどうですか?

三島 曲と同じく、やっぱりどういう思いで書いたのか覚えてないんですよね(笑)。失うことについての話を書こうと思ったはずなんですよ。でも、細かいことは覚えてなくて。

──喪失感が書かれているけど「その先に夢を見る」とも書いていて。

三島 そこは後から付け足したんです。

飯田 最初の段階はもっと救いがなかったよね。サビの「舌を抜かれちまったこの喉では。」とか「もう僕は二度と嘘をつけない。」とか、結構すごいこと言ってますよね。僕が歌詞を読みながら理解したのは……誰かと関係していて、裏切られたりして、喪失感を感じているんだけど、それでもずっとその人と関係していく小さな幸福感みたいなものを感じて……って完全に僕の解釈ですけど。

三島 書いた本人が覚えてなくて申し訳ない(笑)。

04 「her method」

──4曲目「her method」。ダークなムードが刺激的な、疾走感のある曲で。cinema staffらしい王道感もある。

三島 確かにこの曲は、昔の作り方に近い状態で取り組みましたね。かなり男臭いモードで作った記憶があります。

飯田 うん。これは自分たちの攻撃的でダークな部分を出そうという思いから始まった曲ですね。

──歌詞の筆致もシニカルだし。

三島 シニカルですよね。これもものすごいスピードで書きました。スイッチが入って。悪女のことを書いた歌詞なんですけど。

──悪女に痛い目にでもあったんですか?

三島 いや、フィクションなんですけど(笑)。インスピレーションがバーッと湧いて。

飯田 シニカルで、上から目線の歌詞なんですけど、サウンドと重なるとめちゃくちゃ気持ち良くて。ライブのときもSな気分になるというか(笑)。お客さんに向かって「お前ら、聴けよ!」みたいな感じで放てる曲ですね。

ミニアルバム「SALVAGE YOU」/ 2012年9月5日発売 / 1800円 / ポニーキャニオン / PCCA-03652

CD収録曲
  1. 奇跡
  2. WARP
  3. さよなら、メルツ
  4. her method
  5. warszawa
  6. 小説家
  7. salvage me
cinema staff(しねますたっふ)

プロフィール写真

飯田瑞規(Vo, G)、辻友貴(G)、三島想平(B)、久野洋平(Dr)からなる4人組ロックバンド。2003年に飯田、三島、辻が前身バンドを結成し、2006年に久野が加入して現在の編成となる。愛知、岐阜を拠点にしたライブ活動を経て、2008年11月に1stミニアルバム「document」を残響recordからリリース。アグレッシブなギターサウンドを前面に打ち出したバンドアンサンブルと、繊細かつメロディアスなボーカルで着実に人気を高めていく。2012年6月にポニーキャニオン移籍第1弾作品の1st E.P.「into the green」をリリースし、同年9月に早くもメジャー第2弾となる4thミニアルバム「SALVAGE YOU」を発表。