chilldspot「Titles」インタビュー|叶わなくても歌い続ける、さまざまな感情を描いた3rd EP (2/2)

バンドのここを見てほしい

──比喩根さんにとって、バンドはあくまでも歌うための場所だったものが、今はバンドそのものに対しての愛着が高まっている?

比喩根 そうなんです。私がメンバーを誘って結成したバンドだけど、みんなの魅力にどんどん気付かされていって。そうなると「このバンドのここを見てほしい、あそこも見てほしい」となってくるんですよね。今は自分が目立つというよりも、みんなで目立つ、みんなで食らいつくにはどうしたらいいんだろう?って考えています。

──chilldspotへの愛着という面で、ジャスティンさん、小﨑さん、玲山さんはどうですか?

ジャスティン (目を逸らしながら)あ、ありますよ。

比喩根 ないじゃん!(笑)

ジャスティン あります、あります(笑)。でも、これは言葉でどう表現すればいいかわかんないんだよね。好きですよ、chilldspotの曲は。普段から聴くわけではないけど、カッコいいと思ってやっているし、高校生で集まったメンバーでこうやって作品をリリースできたり、ライブやツアーができるなんて、なかなかないことだし。

ジャスティン(Dr)

ジャスティン(Dr)

──そうですね。

ジャスティン それに今回、新しいアー写を僕が好きな写真家の小見山峻さんに撮っていただいたんです。バンドに愛着がなければ、「この人に撮ってもらいたい」と直談判しなかったと思うんですよね。EPのジャケットもそうで、今回アートワークを担当してくださったイトウタカヤ(KIKIORIX)さんも、僕がファンで作品を聴いている小袋成彬さんの「piercing」(2019年12月発表の2ndアルバム)のアートワークを担当している方で、いつかお願いしたいと思っていたので今回提案したんです。愛着があるからこそ、そうやって世の中に出す写真やアートワークもちゃんとこだわりたいというか。

chilldspot。小見山峻が撮影を担当した。

chilldspot。小見山峻が撮影を担当した。

──そうしたデザイン周りの部分は、ジャスティンさんが担われることが多いんですか?

ジャスティン なんとなく僕がやりたいことを伝えることが多いですね。例えば「ingredients」(2019年9月発表の1stアルバム)のときは、ジャケットなしでディスクに直接デザインをプリントしましたけど、あのアイデアも僕が出していて。「ほかのバンドがやっていないことはなんだろう?」と考えることは多いです。

──バンドへの愛着、玲山さんはどうですか?

玲山 僕も愛着、ありますよ。楽しくてやってます。

玲山(G)

玲山(G)

比喩根 練習するにしても、みんな前よりchilldspotのためにやるようになってきてるよね。最近はみんな前のめりになってきて、玲山がトランペットを始めたり、自分たちがやりたいことをchilldspotに還元しようとしている気がする。

──小﨑さんはどうですか?

小﨑 表現するのは難しいですけど、「chilldspot、楽しいな」と思うし、それを一番実感するのがライブで。僕はライブ中、みんなと目を合わせようとしちゃうんですけど(笑)、そういうときに顔を見ると、みんなもめっちゃ楽しそうなんですよ。

ジャスティン 客観的に見て、小﨑がここ最近で一番バンドへの愛着が目に見えて強くなっているような気がします。前は比較的静かだったけど、バンドのことを思って発言してくれることも増えてきて、僕としてもうれしいです(笑)。

──小﨑さんがライブ中に目を合わせようとするのは、どういった気持ちの動きがそこにはあるんですか?

小﨑 もちろん音を合わせるためというのもあるんですけど、単純に目を合わせたほうが息も合いやすいし、楽しい。楽しいんですよね、ライブがとにかく(笑)。

──今月から初の全国ツアーもあるし、ライブを楽しめているのはすごくいいですよね。

比喩根 chilldspotは、ライブがうまくいっていればいっているほど、みんなの口角が上がってくるんです(笑)。特にステージ上での小﨑のテンションが高いと、中音のボルテージが1個上がる感じがあって。小﨑はライブでみんなの起爆剤になるんですよ。

ジャスティン 逆に、前に演奏が合わなかったことがあって、そのときは小﨑の顔が般若の面みたくなっていて(笑)。

一同 (笑)。

小﨑 でも、うまくいっていないときも目は合わせるようにしてます(笑)。

chilldspot

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比喩根らしさが滲む歌詞

──EPの話に戻ると、リード曲としてリリースされた「shower」はどのようにして生まれた曲なんですか?

比喩根 昔の私を置いていかないためにもchilldspotの初期の曲も欲しいなと思って、高校生の頃に弾き語りで作っていた「shower」をメンバーで改めてアレンジしたんです。

──歌詞は、どこか人間関係の中にある切迫感を感じさせる部分もありますよね。

比喩根 「shower」はコードを弾きながらポロポロッとできた曲で、歌詞は男の子目線で書きました。相手の女の子にどうしても惹かれてしまうんだけど、自分では手が届かないとわかっていて、どうすればいいのかわからなくなっていく。そこにある焦燥感と、憧れと、底なし沼に引きずり込まれるような危うさと……みたいな。でも危うさを表に出すというより、男の子の視点から見た相手の美しさや麗しさを曲全体で描きたくて。だから歌詞の部分部分はツンツンしているけど、全体としてはきれいで滑らかな仕上がりを目指しました。

──EPの最後を飾る「BYE BYE」はHonda「VEZEL e:HEV」のCMソングですが、クライアントからの要望などはありましたか?

比喩根 いや、そんなにかっちりした要望とかはなかったです。打ち合わせで「chilldspotらしさを詰め込んでもらえれば大丈夫です」と言ってもらったので、自由に作らせてもらいました。「チルズらしさ」ってなんなんだろう?と悩んだんですけど、最終的には「好きに作ってみよう」と思って。それで車について考えてみたときに、私が車に乗っていていいなと思うのって、窓を開けて、音楽をかけて……そういう空間に1段階上がるような感覚があって。その感じを曲にできたらなと、疾走感強めの曲になりました。

──なぜ、「BYE BYE」というタイトルにしたんですか?

比喩根 最初、私は曲名を付けていなかったんですけど、データのやり取りをしていくうちに、誰かがこの曲に「BYE BYE」と付けたんです。「Don't kill my vibe」という歌詞が「BYE BYE」に聞こえたらしくて。発端はそれなんですけど、実際に曲にタイトルを付けようと思ったときに、この曲は過去の悲しいことや嫌なこと、暗いことに対して「もう私を止めないでください」と、軽く、でも強く言い放つような曲だなと思って。そういうところで「BYE BYE」の語感の軽さと、でも「さよなら」という意志をちゃんと持った感じがいいなと思ったんです。それで、そのままタイトルにしました。

──この悲しさと意志の強さが混ざり合っているところは比喩根さんらしいですよね。

比喩根 それ、スタッフさんにも言われました。「私今バラードを聞いてるの 落ち込んでるわけじゃなくて 浸ってるの たまには落ち着きも必要でしょ」という最初の部分とか、「この歌詞の出だしは比喩根ちゃんしか書けないと思う」と言われて。そう思ってもらえるならうれしいです。

chilldspot

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最終的には原点に戻る

──「Ivy」からも、比喩根さんらしさを色濃く感じました。「私、私 どうしようもなくって 逃げて走っていく なんでなんでって 思いながら 今日もにこやかに健やかに」というラインとか、悲しさと穏やかさと前向きさと諦念が混ざり合った、本当になんとも言えない感情だなと思うんですよね。「Ivy」のような曲には、どんな自分自身が出ていると思いますか?

比喩根 性格が明るくないってことですかね(笑)。「Ivy」は女の子同士の同性愛をモチーフにしていて、ハッピーな恋愛ソングって、私の心には響かないことも多くて。「みんな本当に幸せなの? みんな本当に一生誓ってんの?」みたいな(笑)。「Kiss me before I rise」も終わり間際の歌だったし、私はハッピーエンドの恋愛ソングって書いたことないんですよね。

──「shower」もそういう部分がありますよね。誰かへの思いがあり、報われない現実があり、でも思いはどうしても消えなくて……という。

比喩根 私は根本的にはいろんなことを考えすぎる性格で、結局何を考えても、何を思っても、自分は無力な1人の人間で、自分にはどうすることもできないんだなと思うことがすごく多いんです。思ったことを実行に移せばいいんだけど、実行しちゃいけない考えだってあるし。いつもどこかで自分が想像する範囲内では、自分は何かを変えることのできない人間なんだって。

──なるほど。

比喩根 いろんなことを考えても、結局それは関係なくて、今日も生きていくしかなくて。そうやって考えて、考えて、結局、無に戻るということを繰り返しているんだと思います、私は。だから最終的には原点に戻る曲が多いんですよね、私が書く曲は。この曲にもそういう自分の性格が出ているのかなと思います。

chilldspot

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──確かに「shower」は原点に戻っていく感覚がありますね。でも「Ivy」はそういう部分もありつつ、「今日もにこやかに健やかに」というラインはあきらめにも聞こえるし、まっすぐにポジティブなメッセージにも受け取れますよね。「それでも生きていくしかない」という前向きな力もまた、比喩根さんの曲の中には入っていると思うんです。

比喩根 1日で世界を救えるわけじゃないとわかっているけど、「救いたい」と思ったなら、じゃあ書いてみよう、みたいな。「BYE BYE」もそうですけど、私の曲にある切なさって、願望を歌ってはいるけど、最終的に叶わないことはわかっていて、それでも歌っているというところから出てくるのかなと思います。「どうせこうなる未来じゃない」とどこかでわかっていて、それでも、その未来に近付くために、とりあえず書いている。そういうことなのかなと思います。

──あきらめて、打ちひしがれて終わるわけではないんですよね。

比喩根 前まではあきらめることが多かったです。でも例えば玲山がそうなんですけど、「とりあえずやってみようよ」って言ってくれる人が今の私の周りには多いんですよね。

玲山 そうだね。

比喩根 プロデューサーさんもそうだし、親もそうだし。私の周りにいる人たちが、私の可能性を潰さないでいてくれる人たちだったんです。向いてる / 向いてないじゃなくて、「とりあえずやってみたら?」と言ってくれる。じゃあ、やってみようかなって。私自身はあきらめがちな性格だけど、周りがそう言ってくれるからできている、という部分はあると思います。

──なるほど。「Ivy」や「Like?」「shower」といった恋愛的なモチーフの曲が並んでいるという点では、今作はchilldspot的「愛の歌」集とも言えそうですね。

比喩根 そうですね、1曲1曲に主人公がいて、EPタイトルの「Titles」というのは、その主人公たちが集まったっていうニュアンスで付けたんです。曲の主人公たちに私の思いも乗せて、いい感じにカモフラージュしながら書けたかなって思います(笑)。

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ライブ情報

One man tour "Road Movie"

  • 2022年9月23日(金・祝)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2022年10月1日(土)福岡県 BEAT STATION
  • 2022年10月7日(金)北海道 札幌mole
  • 2022年10月16日(日)宮城県 darwin
  • 2022年10月23日(日)大阪府 BIGCAT
  • 2022年10月26日(水)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

chilldspot(チルズポット)

2002年生まれ、東京出身の比喩根(Vo, G)、玲山(G)、小﨑(B)、ジャスティン(Dr)からなる4人組バンド。バンド名は“chill / child / spot / pot”の4つの単語を組み合わせた造語。2019年12月に結成され、高校在学中の2020年11月に1st EP「the youth night」をリリース。2021年1月にSpotifyが注目の次世代アーティストを紹介するサポートプログラム「RADAR:Early Noise 2021」、7月にYouTube Musicが世界中の注目アーティストを支援するプログラム「Foundry」に選出される。9月には1stアルバム「ingredients」をリリース。2022年9月には3rd EP「Titles」をリリースし、月末から初の全国ツアー「One man tour "Road Movie"」を開催する。