茅原実里|ベストアルバムに刻まれた歌手活動15年の軌跡、そして未来へ

すべては長門有希から始まった

──「SANCTUARYⅡ」のDISC 2は茅原さんのキャラクターソング集になっています。こちらもめちゃくちゃ面白いですね。

ありがとうございます! 私もキャラクターソングを収録したアルバムはいつかリリースしたいと思っていたので、めちゃくちゃうれしいです。それこそ1曲目の「負けない」(OVA「天上天下 ULTIMATE FIGHT」より)は私が声優デビューした「天上天下」という作品で演じさせてもらった棗亜夜のキャラソンで。声優になりたいという夢と歌手になりたいという夢が同時に叶った曲ですし、この歌謡曲テイストな曲調も当時の私にすごく刺さったんですよね。

──DISC 1を聴いてからDISC 2を聴くと、歌声の違いに驚きます。

違いますよね! 声が若い!

──いや、どちらかというとキャラクターを演じて歌っているという意味で。

ああ、そうか(笑)。確かにキャラクターソング集ですからね。過去に私が歌わせてもらったキャラソンも本当にたくさんあるのでどの曲を入れようか迷ったんですけど、純粋に1枚の作品として聴いたときに、音楽としても楽しめて、キャラクターも立っていて、なおかつ15年の歴史を感じてもらえるような曲をセレクトして作りたいなって思っていました。

──名曲ぞろいですよね。それにも驚きました。

そう、キャラソンって本当に名曲だらけなんですよ。ただ、やっぱり主題歌や挿入歌、個人名義の曲と比べるとどうしても聴かれる機会に恵まれないところもあって。だからこうしてベストアルバムに収録することで、ようやく日の目を見るというか。DISC 1と併せて、歌手としての茅原実里を好きになってくれた人も、声優としての茅原実里を好きになってくれた人も、はたまた私に初めてコンタクトしてくれる人も、みんなハッピーになるアルバムになったらいいなと思います。

──先ほども少しお話に出ましたが、長門有希の「雪、無音、窓辺にて。」(「涼宮ハルヒの憂鬱」より)は、今聴くと茅原実里サウンドの原型という感じがしますよね。

本当にそうなんですよ。そもそも有希のキャラクターソングを作ることになったとき、まず「長門有希は歌を歌うのか?」という議論があって。だから歌を入れないという選択肢もあったんですけど、やっぱりハルヒも(朝比奈)みくるちゃんも歌っているし、ちゃんと有希も歌おうと。ただ、有希自身が歌っているというよりは「彼女のイメージソングみたいな方向で作ろう」というアイデアから生まれたのが「雪、無音、窓辺にて。」だったんです。

──へええ。

この曲を、当時ランティスのプロデューサーだった斎藤滋さんが社内で聴いていたら、とある社員の方がものすごく感動してくれたみたいで「この路線はすごくいいですよ」って進言してくださったこともあったそうなんです。紆余曲折ありながらも「純白サンクチュアリィ」につながっていったのは、やっぱり長門有希なんです。彼女から始まったと言っても過言ではないかもしれませんね。

茅原実里

好きすぎて茅原実里で歌いたくなっちゃう

──僕は「BE TOGETHER」(「世紀末オカルト学院」より)が入っているのがうれしくて。

本当ですか? 私もうれしかったです!

──当時、「世紀末オカルト学院」の放送を毎週楽しみにしていたこともあり。

次回予告で女の子のキャラクターがカバー曲を歌っていたんですよね。「LOVEマシーン」(モーニング娘。)とかも。

──作品の舞台が世紀末、すなわち1999年だったので90年代末のヒット曲をカバーしていて。TM NETWORKの「BE TOGETHER」は1987年の曲ですけど、実は1999年に鈴木あみさんがカバーしているという。

そうそうそう。私も「BE TOGETHER」は大好きな曲なので、単純にこの曲を歌えること自体がうれしかったです。

──声優として数々のキャラソンを歌ってきたことが、歌手活動に与えた影響はありますか?

私にとってキャラクターソングは、お芝居の延長にあるものなんですよね。やっぱりそのキャラクターの表情が見えるように歌いたいと思うので。そのお芝居する感覚というのは、茅原実里の楽曲で「この曲が一番伝えたいことってなんだろう?」っていう部分を考えるうえですごく役に立っていると思います。もしかしたら役作りにも似てるのかもしれません。あとキャラソンの場合、ディレクターさんが作品ごとに違うんですよ。だからそれぞれディレクションの仕方も全然違くて。逆にそれが刺激にもなるし、いろんなシチュエーションに柔軟に対応する能力も身に付けられているんじゃないかなって思います。

──DISC 2収録曲の中で、特に歌いやすかったキャラソンを挙げるとすれば?

やっぱりアニメでしゃべっているセリフと同じトーンで歌える曲は歌いやすいですよね。例えば「過度の期待にご用心。(もしもチアキが歌ったらVer.)」(「みなみけ」より)は本当に(南)千秋のために作られている曲なので、すごく歌いやすかったです。

──逆に、歌うのが難しかったキャラソンは?

うーん……「Only Lonely Rain」(「ヴィーナス ヴァーサス ヴァイアラス」より)かなあ。アニメで私が演じた(鷹花)スミレはけっこうかわいらしいキャラクターなんですけど、楽曲はシリアスで大人びた感じなので。とはいえスミレの中にもそういうシリアスな一面も存在するので、自分なりに絶妙なバランスをとりながら歌った記憶がありますね。あと、これを言ったら怒られちゃうかもしれないんですけど、キャラクターソングの中にも曲が好きすぎて茅原実里で本気で歌いたくなっちゃうこともあるんですよ(笑)。

──キャラクターではなく自分の曲にしたいと。

そう、それを堪えるのが大変だったり。私は、ありがたいことに歌を歌うキャラクターを演じさせてもらうことが多いんです。この中だと「桜舞うこの約束の地で」(「がくえんゆーとぴあ まなびストレート!」より)も……まあ、これは役名がもはやないんですけど。

──クレジットとしては「軽音楽部の生徒」になってますよね。

そうそう(笑)。でも、この子もアニメの中で歌っているし、「桜笑み君想う」(「D.C.Ⅱ ~ダ・カーポⅡ~」より)の白河ななかもバンドで歌っている子だし。あとは「通し道歌」(「境界線上のホライゾン」より)のホライゾン(・アリアダスト)も、「NAME OF FLOWER」(「ノブナガ・ザ・フール」より)のイチヒメも、「My Treasure」(「デート・ア・ライブⅡ」より)の誘宵美九も、「Borderless journey」(「RAIL WARS!」より)の鹿島乃亜もみんな歌っているんです。私自身の歌に対する思いともリンクするキャラクターが多いので、とても歌いやすいですね。

15周年は“セーブポイント”

──冒頭でも早くも「SANCTUARYⅢ」の制作に言及されていましたが、10周年を迎えたときと、15周年を迎えたときとで、気持ちの面でどんな違いがありました?

10周年のときは「もういろいろやり尽くしたかなあ」と思ってしまったところがあって。実際に「これから先はオマケみたいなものですね」みたいなことを当時のインタビューで言っちゃってるんですよ。今読み返して「私、なんてことを言ってるんだ!」と怖くなったんですけど(笑)。

──ははは(笑)。

たぶん、10周年を迎えられたことで「じゃあ、この先どうしよう? どこへ向かえばいいんだろう?」と迷っていた部分もあったんでしょうね。でも、今はやってみたいこともどんどん増えているし、10周年のときよりもエネルギーに満ちあふれている感じがしているんです。環境的にも去年事務所を移籍したことで心機一転して、すごく前のめりな状態で15周年イヤーを走らせてもらっていますね。

──先の「We are stars!」の歌詞にも「まだまだ終わらない 単純なセーブポイント」というフレーズがありましたし。

そう、本当にそう! セーブポイントにすぎないんですよ。実は、10周年のときに周りの大人たちから「ここを通過点にしないとね」と言われていたので、私も「そうか。通過点って言わないといけないんだ」と無理やり思っていたんですけど、今はナチュラルに「通過点です」と言えます。というか、むしろ今始まった感すらあるので、うん、とてもよいコンディションです!

茅原実里

ライブ情報

TACHIKAWA STAGE GARDENグランドオープニング記念 Minori Chihara ORCHESTRA CONCERT 2020「Graceful bouquet」
  • 2020年5月30日(土)東京都 TACHIKAWA STAGE GARDEN
SUMMER CHAMPION 2020
  • 2020年8月1日(土)山梨県 河口湖ステラシアター
  • 2020年8月2日(日)山梨県 河口湖ステラシアター