チッチ作詞作曲「Girlfriend」に込めた思い
──4曲目の「Girlfriend」は、チッチさんが作詞作曲を手がけています。
まず「曲を作らなきゃな」というところから始まった曲ですね。私、コードの仕組みとかがよくわかってなくて、ずっと自分の感覚だけで適当にやってたんですよ(笑)。皆さんに助けてもらいながら曲にしてたんですけど、「Girlfriend」は理論的なことを自分なりに理解したうえで作った初めての曲なんです。ずっと前に作った骨組みだけのデモ音源をもとに、コードを作り直して。
──独学でコード理論を覚えて?
ちょっとだけギターが弾けるようになったのもあるし、時間があるときは音楽系の学校に行ってるんです。本当に何もわからなかったから、コードやスケールの基礎を教わってます。勉強は好きじゃないんですけど(笑)、もっと曲を作りたいので。DAWは以前、松隈ケンタさんに教えてもらったので、なんとなくは使えるんですけど、難しいことはできなくて。そこで迷走して曲がぜんぜん作れなくなった時期もあったから、やるべきことをやれるようになりたいと思ってますね。
──「Girlfriend」のアレンジには、スカの要素も入ってますね。
それはアレンジをお願いしたKoyabin(THIS IS JAPAN)のアイデアですね。めっちゃスカってわけではないんだけど、曲に疾走感と懐かしさが加わって、いいなと。歌詞については、言いたいことがはっきりしていたので、けっこうスラスラ書けました。「ラブシンドローム」の話にも通じるんですけど、愛の形は男女に限らないんですよね。私自身、女友達に救われた瞬間が何度もあって。カッコいい女の子が大好きだし、「Girlfriend」では女の子だから言えることを歌いたかったんです。
──同性の友達に救われた瞬間と言うと?
傷付いたこと、うれしかったこともそうですけど、自分の感情を友達に話すのが好きで。男女関係なくいろんな話をするんですけど、体感としてわかり合える瞬間は女の子のほうが多いんですよね。そうやっていろんなことを語り合える友達が、みんなにもいたらいいなという気持ちがあって。女の子としてたくましく生きることをあきらめないでほしいし、負けないでほしい。気持ちを共有できる友達がいなくても、「Girlfriend」がそういう存在になってくれたらなと。
──チッチさん自身に、女性をエンパワメントしたいという気持ちがあるんでしょうね。
“女性として強く生きる”というのはBiSHのときから意識していて。男の人のほうが強いと感じることもあるし、気を使われることも多いですけど、女性が自分らしく生きられるようになれば、ちょっとずつ世界も変わっていくかもしれない。みんな仲間だから応援しないと。
詩羽とのコラボレーション再び
──それはすべての人にとって大事なことだと思います。「Linda feat. 詩羽」でフィーチャーした詩羽さん(水曜日のカンパネラ)も、チッチさんにとって大きな存在ですよね。
なんでも話せる仲だし、とにかく一緒にいて心地いいんですよ。詩羽との関係について人からいろいろ聞かれることがあるんですけど、そこまで難しく考えてなくて、自然にいられたらそれでいいというか。「この人といるときは、こういう私だな」とか考え始めると居心地が悪くなるし、どうしても周囲の顔色を伺ってしまって疲れちゃうんですよ。詩羽はいつもありのままの素でいてくれるので、こちらも何も気にしないでいられます。
──詩羽さん、確かにいつもありのままですよね。取材していても、わからないことはわからないとはっきりおっしゃるので。
私といるときも「わかんないっすね」って言いますよ(笑)。できるだけ言葉を噛み砕いて説明して、「ちょっとわかったかも」というところまで行けるか試したりして。考え方とか価値観ではなくて、「これにケチャップかけるとおいしいよ。なんでかと言うと……」みたいなことですけどね(笑)。
──「Linda feat. 詩羽」の制作はどうでした?
「bonsai feat. CENT」(詩羽)のアンサーソングとして制作したんですけど、2人で作ることの幸せを感じましたね。「bonsai」は“天才になれない人”がテーマで、“個人の心の中”で響かせるような楽曲だったんですけど、「Linda」では仲間や友達との共鳴を表現したくて。まず詩羽が歌詞を書いてくれて、すごくいいなと思いましたね。
──「1人だから見られなかった今日が 2人ならきっとハイライトになるの」というフレーズにグッと来ました。チッチさんと詩羽さんは違うタイプのボーカリストだと思いますが、2人で歌うとすごくハマりますね。
レコーディングのときも「相性よかったね」って言ってました(笑)。気持ちいいですね、歌ってて。
ずっと愛してくれているファンへの思い
──「I'm fine」は、夏にぴったりのアッパーチューンで、作詞はチッチさんです。
「I'm fine」も私の中では愛の表現で、いつも目の前にいてくれる、ずっと愛してくれているファンの皆さんへの思いを込めてます。ライブによく足を運んでくれる人もいれば、なかなか行けないという人もいると思いますけど、そこに差はなくて。どこにいても私はみんなのことが好きだよという気持ちですね。
──「胸苦しい夜には いつだって音楽がいるから 大丈夫さ」というフレーズも印象的でした。これはチッチさん自身も感じていることですよね?
はい。私自身、音楽に救われてきたので。音楽があるから「生きてる」と感じられる瞬間もあったし、音楽は絶対に“逃げない”と思ってるんですよ。生きていると数え切れない種類の感情を体験するけど、どの感情にも寄り沿ってくれる曲があって。それは素晴らしいことだし、この曲でもそのことを伝えたかった。本当は「私の音楽はここにいるよ」「私はここにいるよ」と言いたいんですけど、「私がいなくても、音楽はここにあるし、ずっと消えないよ」って。音楽は逃げ場所にしてもいいし、気持ちをぶつけてもいい。だから私は音楽が好きなんだなって思いますね。
──チッチさんの根本的なモチベーションにつながっている曲なのかも。作曲とアレンジはCENTのライブメンバーでもあるJ. ogさんですが、チッチさんにとってどんな存在ですか?
Jは……特殊人間です(笑)。一緒に音楽をやっていて「普通だな」と思ったことはないし、曲もすごく個性的で。Jにしか作れない曲ばかりなので、本当にすごいなって思ってます。Jは基本、おうちにばっかりいるタイプなんですよ。なのにツアーにも一緒に来てくれてありがとうねって。
──「百日草」はテレビアニメ「RINGING FATE」エンディングテーマです。この曲の制作はどんなプロセスで進んだんですか?
歌いたいことがあって、まず歌詞を書いたんです。でも、そのときの自分の技術だとどう表現していいかわからなくて、えみそん(おかもとえみ)に連絡したんですよ。「この歌詞をうまく表現したいんだけど、どうしたらいい?」という感じで歌詞を送ったら、「やってみるね」って言ってくれて。次の日に届いたのがこれです。
──すごい!
えみそん様様です(笑)。初めての詞先だったんですけど、私の表現したいことを汲み取って理解してくれて。曲を聴いて感動したし、「この歌詞はこうなるべきだったんだな」と思いましたね。アレンジはShow Chick Boyがやってくれたんですけど、それも素晴らしかったし、歌っているときもすごく気持ちよかったです。自分1人では生み出せなかった曲だなと思いますね。
──そもそも「百日草」の歌詞を書いたときは、どんなイメージがあったんですか?
漠然としているんですけど、自分の中のすごく大事な存在として“宇宙”というテーマがあって。現在過去未来関係なく、ずっとつながっているものというか。それも大きい意味での愛情表現だなという気持ちで書いたのが、「百日草」の歌詞ですね。それがアニメの世界にも通じてると思って形にしたんですけど、本当にえみそんにお願いしてよかったです。えみそんも一緒にいて心地いい人だし、広い心で構えてくれる。よく相談もするんですけど、そのたびに「話してよかったな」と思いますね。詩羽もそうですけど、最高の女たちに支えられてます。
──ミニアルバムの最後に収められている「Tenugui galaxyyy!?!?」は、「回せ回せ」「ぶっちゃけ 物販も命懸けてます」という歌詞がちりばめられた超アッパー系のナンバーです。これはもうライブ曲ですよね?
みんなが手拭いを回すところを見たい!という素直な気持ちから始まった曲ですね(笑)。それを作詞・作曲・編曲をしてくださったミトさんにお伝えしたら、思いきりカマしてくれて。
──ライブでの手応えはどうですか?
最初はちょっぴり恥ずかしかったけど、1回やってみたら「超楽しいじゃん!」って(笑)。みんなもグルグル手拭いを回してくれて、私もこの曲がすごく好きになりました。みんなで一体になるのがやっぱり好きなんだなと思ったし、「Tenugui galaxyyy!?!?」があれば小さい子から大人まで楽しめる空間が作れるなって。みんなとつながれる曲ですね。
「スパーク」を歌って自然体になれた
──初回限定盤Aには今年5月に行われたライブの映像「CENT oneman live “CENTIMERTRE” at Zepp DiverCity」が収められています。ライブに対するスタンスも時期によって変化していますか?
まずZepp DiverCity公演について言うと、自分にとってはすごく緊張感のあるライブだったんです。やる前は「1人くらいしか来てくれなかったらどうしよう」って本気で心配していたし、当日もすごく怖くて。でも、たくさんの人が会いに来てくれて、「やっぱりみんな温かいな」と改めて感じました。振り返ってみると、昔のほうが意固地だったかもしれないですね。2年前はまだBiSHのキャプテンをやっていた自分を引きずっていたし、自然体じゃなかった気がして。今はいい意味で肩の力が抜けているし、そのうえで伝えたいことをちゃんと伝えられてるなって思います。
──自然体でステージに臨めるようになったきっかけは?
「スパーク」(BiSH)を歌ってからですね。BiSHの曲は歌わないと決めてたんですけど、去年の7月にeastern youthと対バンしたときに、覚悟を決めたいなと思ってる自分がいて(参照:eastern youthとCENTがツーマン、夜の鶯谷に響いたBiSHの名曲)。こんなに素敵な音楽があるのに、歌わない選択肢を取っていることがダサいかもしれないなと思ったし、聴きたいと思ってくれてる人たちがいるんだったら、歌い紡いでいこうと。そう思えたのはeastern youthのおかげでもあるし、BiSHのプロデューサーの渡辺淳之介さんに「歌おうと思ってます」と連絡したときに「うれしい」と言ってくれたからでもある。そこからちょっとずつ自然でいられるようになった気がします。
──ライブ自体も楽しくなっていますか?
楽しいときもあるし、緊張してるときもめっちゃあります。例えば新曲を歌うときはどうしても緊張しちゃうし、それがみんなにも伝わる。それはしょうがないですね、人間だから。もちろん、もっともっとがんばらないといけないなと思ってます。