楽曲の世界観を表現したMV、島爺の初顔出しの経緯
──「かろんずべからず」はミュージックビデオも非常に凝ったものになっていますよね。
島爺 まずMVの内容については、特にこちらから何かオーダーを出したというわけではないんです。ただ完成したMVを観て、僕らがこの曲で描きたかったことが監督さんに十分伝わっていたんだなと思いました。
ナナホシ管弦楽団 本当に楽曲からまるまる1つの世界を作っていただいたような感覚でしたよね。イメージ通りの妖怪じゃつまらないということで、モード系のテイストの衣装を混ぜていただいたのもすごく面白かったです。
島爺 バランスが見事で、この作品が帰結する1つの完成形なのかなとも思いました。撮影に関しては、7月の中旬頃だったのでとにかく暑かった(笑)。
──スーツを着ている場合じゃなさそうですね(笑)。
島爺 もうどうしようかと思いました(笑)。ただ、いざ当日になってみると天気があまりよくなくて、小雨が降ったり降らなかったりという感じだったので、思っていたよりは撮影はしやすかったです。あれはかなり助かりましたよね。
ナナホシ管弦楽団 そうですね。あれで天気がよかったら……死んでいたかもしれない(笑)。
──ちなみに、撮影場所は時代劇のメッカとして知られる京都の太秦・映画村なんですね。
島爺 そうなんです。日が落ちてからの映画村ってなかなか入る機会がないですから、あたりが暗くなってからあの街並みに囲まれて、「この体験はなかなかできないぞ」と思いました。
ナナホシ管弦楽団 個人的には島爺さんが籠に乗ってやってくるシーンが特に印象的でした。
島爺 あの籠も本当に時代劇で使われている籠だそうで、人が乗っていない状態でもめちゃくちゃ重いんです。しかも籠を運んでくださる方々はお面をしていたので、「これは大丈夫なんだろうか……?」と心配になりました。
ナナホシ管弦楽団 あの籠が登場して中からスーツ姿の島爺さんが出てくる場面は本当にインパクトありますよね。撮影中、僕はちょうどカメラ越しに見ていたんですけど、絵力が半端じゃなかったです。
島爺 ここまで凝った映像作品に携われる機会はなかなかないですよね。いい経験でした。
──島爺さんはこのMVで初めて顔出しをしていますよね。これまで仮面を被って活動していた島爺さんが顔出しすることを決意したのには何か理由があったんですか?
島爺 カロンズベカラズを始めるにあたって、僕が仮面を被っていてナナホシ先生が何も被っていない状態というのは少し収まりが悪いなと思ったんです。それに、これまでの活動の中でも仮面を被って活動することによるメリット、デメリットのようなものも感じていて。仮面のイメージが独り歩きしてしまって、時には仮面があることで音楽自体をしっかりと聴いてもらえなかったり、必死に感情を込めて歌っても、どこか1枚フィルターをかけて見られてしまったりすることがあった。それで今回はMVのためにも、仮面を外してみようということになりました。もちろん、これからも仮面を被る機会はあると思いますし、今はいろいろと検討しているところです。なので「仮面を外したい!」と思っていたわけでもなくて、「外すという選択肢があってもいいかな」というぐらいの温度感ですね。ユニットの名刺代わりになるようなMVですし、どアップじゃない限りは素顔を出していてもいいんじゃないかなって。今回は仮面を被ることによるノイズの方が大きいだろうという判断ですね。
──なるほど。作品第一主義的な考え方ですね。
島爺 そうですね。なので今回仮面を外したとはいっても、僕個人としての活動でもカロンズベカラズでも「積極的に顔を出していく!」というわけではないんです。
クリエイターの連鎖反応の面白さ、楽しさを広げていけたら
──カロンズベカラズの活動を始めたことで、楽曲提供とはまた違うユニットとしての魅力を感じた瞬間があれば教えてもらえるとうれしいです。
島爺 ナナホシ先生は何かありました?
ナナホシ管弦楽団 うーん、なんでしょう。僕はとにかく楽しかった(笑)。
島爺 (笑)。そうなんですよね。基本はこれまでのナナホシ先生との楽曲制作とそれほど変わったわけではなかったりもして。ただ、さっきもお話したように同じユニットのメンバーとして、今回はお互いによりアイデアを出し合う余地がありました。楽曲が仕上がる前のアイデア出しの段階から、2人で関わっていることが一番の違いかなと思います。
ナナホシ管弦楽団 それは本当にそうですよね。
──実際、「かろんずべからず」もファミレスでのアイデア出しから楽曲になっていったというお話だったので、楽曲提供とはかなり違う経緯で曲が生まれているような印象です。
ナナホシ管弦楽団 僕の場合、楽曲制作では最初のインスピレーションが出てくるまでが一番大変だったりするんですけど、カロンズベカラズではその段階で島爺さんにヒントをもらえるので、そういう意味でも非常に助かっています。
島爺 先生は何かしらボールを投げたら、必ず打ち返してくれる方なので、カロンズベカラズでも僕がどういうボールを投げるかで輝き方が変わってくると思うんですよ。なので僕はどういう化学反応を先生に起こさせるかを考えていきたい。何かしら環境が変わるごとに全然違うものを返してくれるんじゃないかと思っているので。
ナナホシ管弦楽団 コマンド入力で絵を生成するAIみたいな感じですね。
島爺 (笑)。それがあってこそユニットで活動する意味もあると思うので。僕はいろんな球を投げて、ナナホシ先生の魅力をより世界に知らしめていきたいです。その加速装置としてカロンズベカラズが存在できたらいいなと。
ナナホシ管弦楽団 僕は特に「ナナホシ管弦楽団を見ろ!」と思っているわけではないですし、あまり何も考えていないタイプの人間なんですけど(笑)、今回すごく思ったのは僕らはお互いに欲深い人間なのかなということ。1つ楽曲が完成すると「次はもっとこうしてみたい」と、いろいろなアイデアが湧いてくるタイプだと思うんです。2人とも根っこのところでそういう遊び人精神のようなものを持っているのかな。「かろんずべからず」の歌詞にあるように「遊べ 眠くなるまで」なんですよね。自分たちがやっていることにこれからも飽きずにいたいですし、いつまでも変幻自在な存在でありたいです。
島爺 あとはユニットを始めようと話した5、6年前に思い描いていた青写真があって、それは僕ら2人だけじゃなくて、イラストや動画、CGなど「いろんなタイプのクリエイターたちと1つの作品世界を作り上げたい」ということでした。今回ユニットが本格的に始動したことで、これからいろんな方とご一緒できる機会も増えていくと思っています。なので、一緒に何かやりたいクリエイターの方がいらっしゃったらぜひ。
ナナホシ管弦楽団 どこで求人を出しとんねん(笑)。
島爺 アットホームな職場です(笑)。やっぱり僕らはニコニコ動画を介して世に出てきたので、クリエイターの連鎖反応の面白さ、楽しさをもっと広げていけたらいいなと思っています。
ナナホシ管弦楽団 そうですね。今回のMVもそうですけど、いろんなクリエイターの方々とも協力しながら一緒に面白いものを作っていけたらいいですね。
プロフィール
カロンズベカラズ
歌い手の島爺と、作家 / ボカロPのナナホシ管弦楽団による音楽制作ユニット。2022年8月にデビュー曲「かろんずべからず」を配信リリースし、YouTubeでは同楽曲のミュージックビデオを公開した。
カロンズベカラズ (@caronzbekaluz) | Twitter