構想約6年、自分たちが主人公のアニメOPをイメージしたデビュー曲
──今回、カロンズベカラズを結成した経緯についても教えてください。
島爺 実はユニット結成の話が出たのは本当に昔のことで、僕がライブ活動を始めてナナホシ先生にゲストとして出てもらうようになった頃なので、もう5、6年前だったりするんです。その当時から「2人で何かやりましょう」と話していて。
──へええ。そんなに昔から構想があったんですか。
島爺 当時、まずは一緒にファミレスに入ってアイデアを出し合いました。その時点で「カロンズベカラズ」というユニット名も出ていて。そこから5、6年経ってやっと動き出したんです。カロンズベカラズという名前は、僕がたまたまネットで検索をしていて「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず」というあの有名な漢詩の一節を見たときに、「なんかの名前っぽいな」と思っていたことがきっかけでした。
──デビュー曲「かろんずべからず」の歌詞にも入っている単語なので、ユニットを結成するにあたって付けた名前かと思ったのですが、昔から気になっていた言葉だったんですね。
島爺 そうなんですよ。「甘く見てはいけない」という意味でロックやなとも思っていたので、ユニットを作ろうという話になった際に、僕から提案させてもらいました。「かろんずべからず」も5、6年前の時点でほぼほぼ形になっていました。ファミレスで意見を出し合ったときに、ナナホシ先生がそこで出たアイデアをめちゃめちゃメモっていて、「これをもとにひとまず曲を作ってみます」と言ってくれて。
ナナホシ管弦楽団 そうそう。
島爺 当時の僕らは「デジモンユニバース アプリモンスターズ」の楽曲を一緒に担当したこともあって、「アニソンっていいよね」という話をしていたんです。ただアニソンの場合、その作品からオファーが来ないと作れないじゃないですか。それで架空のアニメがあると仮定して、そのオープニングテーマを作ってみようという話になったんです。それなら1曲目は、僕ら2人が主人公のアニメのオープニングになるような曲がいいだろうなとイメージを膨らませていって。
ナナホシ管弦楽団 その中で、島爺さんのお爺さんのイメージも相まって「妖怪」のようなキーワードも出てきました。
島爺 そうそう。それで「がしゃどくろ」や「のっぺらぼう」のような妖怪が歌詞に出てくることになったんです。
ナナホシ管弦楽団 楽曲としては、そこから僕が最初に2パターン作っていったんですけど、最終的に「かろんずべからず」になったほうは僕が仮歌を入れていたもので、もう1つにはボーカロイドで歌を入れていました。ボーカロイドを使った楽曲は「かろんずべからず」よりもキャッチーで、ボカロを聴く層の人たちが好きそうなテイストだったかな。確かその2つを島爺さんの家で聴き比べたんですよね。そしたら「ボカロ版のほうはちょっとポップすぎるんじゃないか」という話になって、「みんなが好きそうなのはボカロ版だけど、もっと尖っていてもいいんじゃないかな?」と、僕らの悪いところが出ましたね(笑)。
島爺 (笑)。せっかくのユニットの楽曲ですし、「置きにいきたくない」と思ったんです。ただ、それもファミレスで話していた頃のことだったので、今回ちょうどいい熟成期間になった気がします。
カロンズベカラズの姿勢を歌った「かろんずべからず」
──歌詞の部分では、わらべうたの「通りゃんせ」や徳島の阿波踊りなどの要素が盛り込まれています。これはどんなふうに考えていったものだったんでしょうか?
ナナホシ管弦楽団 そのあたりのワードは「ユニットとしてどんなふうになっていきたいか?」と考える中で出てきたんです。僕らはものすごくキャッチーでポップな音楽を作るタイプかと言うと、もっとほかのこともしたいタイプの人間だと思うので、そう考えるとこれから相当細い道を歩いていくんだろうなって。
島爺 ははははは。
ナナホシ管弦楽団 それで、「これから細い道=危ない橋を渡っていきますよ」と(笑)。
島爺 なるほど。それは今初めて知りました。
──つまり「周りにどう思われようと、自分たちの面白いと思うことをこれからもやっていきますよ」という気持ちを歌った楽曲になっているんですね。
島爺 そうですね。概ねそういうことを歌ってます。
ユニットならではの自由度
──「かろんずべからず」のレコーディングで印象的だったことはありますか?
ナナホシ管弦楽団 2番のAメロで、オケがトラップのようになるところがありますけど、あそこを考えたときのことが印象的でした。
──島爺さんの歌もトラックに合わせて韻を踏んでいるパートですね。
ナナホシ管弦楽団 そうです。あそこはアレンジも1番に全部詰め込んじゃっていたし、歌詞も浮かばないしで「どうしよう」と思っていて。でも、アニソンだと2番でガラッと雰囲気が変わるってよくあるじゃないですか。
──アニメのオンエアに乗る1番はキャッチーに作って、乗らない2番ですごく攻めたことをするような楽曲のことですね。
ナナホシ管弦楽団 そういう曲はもともと好きではなかったんですけど、今回は1Aと2Aに同じものを持ってくるのは冗長に感じたし、そこを削ってしまうのも唐突すぎるので、今回のようにガラッと雰囲気を変えてみました。
島爺 僕はデモが上がってきたときにナナホシ先生の声で仮歌が入っていたので、「これをどう超えるか」ということを考えました。先生は大変歌がお上手なので、「俺が歌わんでもいいんちゃう!?」と思って(笑)。同時にユニットとしての最初の曲なので、お互いのいい部分をすべてさらけ出すためにも、いかに僕らしさを出すかを意識していきました。
ナナホシ管弦楽団 一番苦労したパートはどこでした?
島爺 こういう跳ねたリズムの楽曲の場合、「自分の歌もどこまで跳ねるか」とか、跳ねの緩急をどう付けるかを大切にしていて。リズムを生かしつつ、カロンズベカラズの世界観を引き上げるにはどうすればいいかを頭に入れて歌入れしました。
ナナホシ管弦楽団 そういえば島爺さんはサビの後半のメロディをちょっと変えて歌ってくれていましたよね。僕はそこも印象的でした。
島爺 より情緒豊かな感じになればいいな、と思っていたんです。今思うとこういう作り方をしたのって初めてかもしれないですね。普段提供曲として曲を作っていただくときは、まあメロディを変えるということはしないですから。そこはやっぱり、カロンズベカラズがユニットだからだと思います。
ナナホシ管弦楽団 自由度が違いましたよね。
島爺 そうですね。先生も「変えたいところがあったら変えてもらって大丈夫ですよ!」と言ってくれて。もちろん「じゃあどっか変えたろう」ということではないですけど、「自分が歌うならこのほうがしっくりくるかな」と思った部分を変えさせていただきました。
──ほかにもユニットだからこそ感じた制作上での変化はありますか?
ナナホシ管弦楽団 曲を作る人間としては、むしろこれまでとあまり変えないようにしようと思っていたかもしれません。新しいことを始めるときって無理にでもやったことのないことをしがちですけど、「まだまだこのタイミングで自分たちに飽きたくはないな」と思っていたので。むしろ自分たちらしさが出せる曲にしたいなって。
島爺 確かに「新しいユニットだから、新しいことをしよう」という雰囲気はまったくなかったですよね。僕らだからできることをしよう、というような感覚で。
ナナホシ管弦楽団 そもそも僕の体感として、島爺さんの声でやれていないことがまだまだたくさんあると思っているんです。なので「まずはそれをやり切ってからだ」と。「かろんずべからず」の歌詞で言えば「遊べ / 眠くなるまで」ということですね。
島爺 ははははは。
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楽曲の世界観を表現したMV、島爺の初顔出しの経緯