ナタリー PowerPush - カーネーショントリビュートアルバム「なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?」

直枝政広×岡村靖幸

キーもテンポもそのままの「夜の煙突」

──森高千里さんの「夜の煙突」はカーネーションが演奏を担当していますね。レコーディングはどのように?

直枝 森高さんすごかったです。ノリとか歌の艶が当時の1988年からなんにも変わってない。キーも変えないでいいですって言ってくれて。

岡村 へー!

直枝 この曲は最初にいつもライブでやってる通りに録ってみたらテンポが150だったんですよ。で、ちょっと待てよ、オリジナルどれくらいだっけって計ったら170だった。

直枝政広

──それは速い(笑)。

直枝 森高さんがキー変えないでいいって言ってくれたから、俺たちもテンポ変えないで演ろうって言って170で録り直したんです。すんげえ速かったですけど(笑)。

──直枝さんは特に印象に残った曲は?

直枝 難しいな。僕は全部気に入ってるんで。あ、ただ一番驚いたのはうどん兄弟。中学生の女の子たちが「Edo River」をラップで歌っているっていう。

岡村 あれ面白いですよね(笑)。

アナログの妄想力

──今回のアルバムにはスカートやカメラ=万年筆を始め、若い世代のアーティストもたくさん参加していますが、お2人はそうした世代のことはどんなふうに見ていますか?

直枝 そうですね。自分にとっては子供でもおかしくない世代なので、わからないことはいっぱいあるんですけど(笑)。でもとても正直だし、強いなって思ってます。大森靖子さんとかプロデュースで接してるから特に思うんですけど独特のタフさがあるし。僕らが持ってる昭和のパワーとはまたちょっと違う強さがあるような気がしてます。

──それは具体的には?

直枝 例えば僕は文脈にこだわるほうで、音楽についても歴史を調べたり、何か読んだりして妄想を膨らませてきた世代だったけど、彼らはまったく関係ないんですよね。YouTubeでダイレクトに観て直接的に受け入れる。やっぱりその質と量が僕らの世代とは違うし、そこはすごく面白い。進化してると思います。

──岡村さんはいかがですか?

岡村 今直枝さんがおっしゃったことすごくわかります。やっぱり僕たちの頃はインターネットがなかったので“思いを馳せる”っていうことが多かったわけです。アナログレコード聴いて解説本を読みながら「これってこんなことなのかなあ」っていう。だから我々は妄想力は高かったと思います(笑)。それに比べると、今はそういうへんてこりんな妄想パワーが生み出す異能の音楽みたいなものは減っているような気がしないでもないですね。

──なるほど。

岡村 ただその反面、パワーや才能がある人が昔より世に出てきやすい時代でもあるでしょうね。以前はオーディションを受けて、コンテストで勝ち上がっていって、それでやっとプロになれたけど、今は別に誰に認められなくても発信できるし、誰に合格って言ってもらえなくてもチャンスはどこにでも転がっているし。発信する場はニコ動でもYouTubeでもいいわけですよね。だからそのぶん面白い人が出てくる可能性も高いかもしれない。

レコード針の先にあるもの

──今日こうやってお話を伺っていて、共通点がすごく多いお2人なんだというのを改めて感じました。今も音楽が好きで、いろんな音楽に刺激を受けながら自分の作品を作っているところとか。

直枝 たった1枚のレコードが本当に考え方を変えるっていう。そういう経験をしてきてますからね。あとはたまにレコード聴かないで、カートリッジ外して、こうやって40倍のルーペで針先ずーっと見てたりしますから。

岡村 あははは(笑)。

直枝 それが一番楽しいですね。それでなんか音楽が聞こえてくるっていうか。

──レコード針の先に何が見えるんですか?

直枝 わかんないんですけど。音楽の源? 心みたいなのが(笑)。で、磨くと針の先がちょっと光ってきたりするんですね。そういうのがたまんないです。あれ? 変かな?

岡村 いや、すごくいいと思います。いい話だと思います(笑)。

トリビュートアルバム「なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?」2013年12月18日発売 / 2940円 / P-Vine Records / PCD-28023
収録曲
  1. 夜の煙突 / 森高千里 with カーネーション
  2. YOUNG WISE MEN / ミツメ
  3. からまわる世界 / シャムキャッツ
  4. The End of Summer / 大森靖子
  5. 学校で何おそわってんの / 岡村靖幸
  6. ダイナマイト・ボイン / ブラウンノーズ&梅津和時
  7. Edo River / 曽我部恵一
  8. トロッコ / カメラ=万年筆
  9. グレイト・ノスタルジア / 失敗しない生き方
  10. 60wはぼくの頭の上で光ってる / Babi
  11. 月の足跡が枯れた麦に沈み / スカート
  12. 未来図 / 山本精一
  13. Bye Bye / 森は生きている
  14. Edo River / うどん兄弟 with カメラ=万年筆
カーネーション

1983年に直枝政広(当時は政太郎 / Vo, G)を中心に結成されたロックバンド。1984年にシングル「夜の煙突」でデビューを飾る。幾度かのメンバーチェンジを経て、現在のメンバーは直枝と1990年加入の大田譲(B, Vo)の2人。緻密に練られた楽曲やアンサンブルはもちろん、直枝による人生の哀楽を鋭く綴った歌詞や、濃厚な歌声、レコードジャンキーとしての博覧強記ぶりなどで音楽シーンに大きな存在感を示している。他アーティストからの支持も厚く、2013年12月には彼らの結成30周年を祝うべく14組が参加したトリビュートアルバム「なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?」が発売された。

岡村靖幸(おかむらやすゆき)

1965年生まれ、神戸出身のシンガーソングライター。作曲家としての活動を経て1986年にシングル「Out of Blue」でデビュー。R&Bやソウルミュージックを昇華したファンキーなサウンド、青春や恋愛の機微を描いた歌詞などが支持され、熱狂的な人気を集める。90年代以降は作品発表のペースを落とし表舞台から姿を消すが、他アーティストへの楽曲提供やプロデュース活動は継続する。2004年には約9年ぶりのアルバム「Me-imi」をリリースし全国ツアーも実施。2011年8月にアルバム「エチケット」を2枚同時リリースし、2013年10月に6年ぶりのニューシングル「ビバナミダ」を発表した。