カルメン・マキ「50th Anniversary Live~デラシネって半世紀~」インタビュー|孤高のボーカリストを50年以上にわたり衝き動かしてきたものとは? (3/3)

私の歌にはいろんな意味が込められている

──2020年から2021年にかけて、思うようにライブができない状況でした。マキさんはそういう状況をどう思われていましたか?

20年の最初の頃はライブをやろうと思っていたんです。でも、周りからすごく止められた。「クラスターが出たら大変なことになるぞ」って。私は基本的な予防をしっかりしていれば、ライブをやるべきだと思っていましたし、今もそう思っています。ライブをやらない人を否定しているわけじゃないですよ。考え方は人それぞれだから。私は音楽がずっと後ろに追いやられて、みんなが疲弊して楽しみがなくなっていくと世の中がどんどん悪くなっていくような気がするんです。だから細々とでもライブはやっていったほうがいい。ちゃんと予防しながらライブをやっているライブハウスには拍手を送りたいですね。コロナに負けないでほしい。

カルメン・マキ

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──そんな中でマキさんは徐々にライブ活動を再開されて、12月15日にデジタル配信の新曲「月夜のランデブー」を発表されました。作曲は先ほど話に出たFalconさんですが、月夜の静けさが伝わってくるような穏やかで美しい曲ですね。

買い物に出かけたら月が冴え冴えとしていて、歩いているとずっと月が見えていたんです。ビルとビルの隙間からも月が覗いている。あの曲では、家まで一緒に月とランデブーしたような気持ちになったことを歌っているんです。

──コロナ禍の中でこの曲を聴くと、なんでもない日常がいかに大切なものだったかを思い出させてくれますね。束の間、コロナのことを忘れてホッとした気持ちになれます。

コロナ禍になって気付いたのはそこですよね。日常生活の中で、これまで気付かなかったことに気付くようになった。月なんてそんなに見上げることもなかったけど、コロナのせいで1人でいることが多くなり、外に出てふと空を見上げたら、月が出ていてそれが心に残った。3.11のときにみんな「がんばれ!」って言ってたけど、じゃあ、どんなふうにがんばればいいの?っていう話ですよ。口先だけで「がんばれ!」と言っても仕方ない。「デラシネ」もそうですけど、私は歌詞で直接、3.11やコロナのことは言わないけど、それに関わる何かを表現している。私の歌にはいろんな意味が込められているんです。

カルメン・マキ
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怒りや嫉妬みたいな感情を持っていてもいい

──だからこそ押し付けがましくなく、歌に込められたメッセージや感情がリスナーに伝わるんでしょうね。これまでマキさんは50年以上、音楽活動を続けてこられたわけですが、ご自身を突き動かしてきたものはなんだったのでしょう。

負のエネルギーですね。人生を送ってきて足りないもの、欲しかったけど得られなかったものや失ったものがいっぱいあるわけですよ。そういうものへの怒りや不満があって、その負のエネルギーをいいエネルギーに変えることができるのが音楽なんです。音楽がなかったら私は若い頃にグレてただろうし、とっくに死んでいたかもしれない。音楽に助けられたと思っています。そういう自分を助けてくれるものがあるのなら、怒りや嫉妬みたいな感情を持っていてもいいと思うんです。最近、みんないいことしか言わないじゃないですか?

──そうですね。正論ばかりが求められて、そうじゃない意見を排除しようとする雰囲気があるように感じます。

人間なんて、いろんな感情があって当たり前なんですよ。私は周りの皆さんに申し訳ないくらい文句を言うし、喧嘩もする。でも、それが人間だし、そういう感情を別のエネルギーに変換できるのが人間なんです。泣いたり怒ったりするのは悪いことじゃない。自分を助けてくれるものを見つければいいんです。負の感情を排除していたらロボットみたいになっちゃう。人と違う意見、突拍子もない意見を言う人がいたほうが世の中はもっと面白くなる。

──人と違うこと、ぶつかることを恐れてはいけない?

そうですよ。私が若い頃、60年代はライブが面白くないとステージに石とか空き缶が飛んできたんです。「やめろ!」って。ライブ会場には、お酒を飲んでいる人、しゃべっている人、いろんな人がいた。いろんな人がそれぞれ思い思いに楽しんでいる。それがライブだと思うんですよね。

──そういうライブのエネルギーは今回の作品からも伝わってきますね。いろんな演奏、いろんなタイプの曲が収録されていて、音楽の魅力が詰まっています。

だったらよかった。苦労して作った甲斐がありました(笑)。

カルメン・マキ

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プロフィール

カルメン・マキ

1969年、発足したばかりのCBSソニーから発表したデビューシングル「時には母のない子のように」が大ヒット。同年の「NHK紅白歌合戦」に出場を果たす。1972年にロックバンド、カルメン・マキ&OZを結成。1975年に1stアルバム「カルメン・マキ&OZ」をリリースする。1977年のバンド解散後は、ソロシンガーとしてさまざまなフィールドのアーティストと活動を展開。2018年には41年ぶりにカルメン・マキ&OZを復活させて多くのファンを喜ばせた。翌2019年には音楽人生50周年を記念して「カルメン・マキ50th Anniversary Live ~デラシネって半世紀~」と題したライブシリーズを5回にわたり開催し、それぞれジャンルの異なるアーティストたちとパフォーマンスを繰り広げた。2021年12月に同ライブシリーズより厳選したライブ映像を収めたBlu-ray作品「カルメン・マキ50th Anniversary Live ~デラシネって半世紀~」と自身初のデジタルシングル「月夜のランデブー」を同時リリースした。