BONNIE PINKインタビュー|父と別れ、娘に出会った──“無限大”の未来へつなぐ11年ぶりアルバム (2/2)

若いリスナーも反応するようなギミック

──新作「Infinity」を聴いて、この10年ちょっとのBONNIEさんのいろんな思いが込められたアルバムだなと感じたんですが、サウンドやアレンジはしっかり2023年のものになっている印象を受けました。

あ、ホントですか? よかった。そうなっていたらうれしいです。

──昔ながらの曲構成、例えばAメロがあってBメロがあってサビがあって大サビがあってというようなオーソドックスな作りの曲もあるけど、一方でラップミュージックが主流に入ってきて以降のような構成の曲もあるし、ラップミュージックで言うところのフロウのように歌い回している曲もある。もちろんアレンジャーの力も大きいんでしょうけど、BONNIEさん自身も休む以前より表現の自由度が高くなっているように感じたんです。

うれしい! この2、3年で新しく書いた曲も半分くらい入っているので、自分が意識しているしていないにかかわらず、音楽性の変化というのが多少はあったのかもしれないですね。お休みしている間、新しい音楽を追いかけたり、吸収したりするようなことはまったくなかったんですけど、それでも無意識のうちに聞こえてくる音楽の音色だったりを自分なりに取り込んでいたのかもしれない。曲作りに関しては、そんなにモダンなことは私にはできないんですよ。研究もしていないから、今の若いミュージシャンたちの作り方も知らないし。だからどうしてもAメロ、Bメロ、サビみたいな曲が多くはなるんですけど、そこにどう目新しさを入れ込むか、若いリスナーも反応するようなギミックをどれだけ持たせられるかは1つのチャレンジでもあったんです。

BONNIE PINK

──目新しさというのは、かなり意識したんですか?

かなりではないけど、書き直した曲は意識していました。どこがAメロ、どこがサビ、といったことに執着しないで、どこをサビと受け取ってもらってもいいです、みたいな。「心地よければいい」みたいな曲の作り方を増やしてもいい時代になったんじゃないかなと思いました。例えば「Like a Tattoo」がそうだし、「宝さがし」もそう。昔の曲みたいに派手なサビが必ずしも必要じゃないというか。そういう意味で、確かに今までと違うBONNIE PINKもお見せすることもできたかなと思いますね。

──「Like a Tattoo」「Irish Coffee」はどちらも鈴木正人さんがサウンドプロデュースとアレンジを手がけた曲ですが、その鈴木正人さんが資料で「特に(BONNIE PINKの)メロディのリズム感や言葉の乗せ方はほんとに独特で、いつもハッとしますね」とコメントされています。それは僕も今作を聴いていて改めて感じたことで。ほかの人がやらなさそうな言葉の乗せ方をしようと意識しているんですか?

意識的にひねったりはしてないですね。自分としては素直にリズムを楽しみたい一心で曲を書いている。例えば「Like a Tattoo」は、冒頭の「痛い痛い」から書いているんですよ。その先のストーリーがまったくない中で「痛い痛い」という言葉だけが出てきた。じゃあ何が痛いんだろう?ってそのあとに考えて、「痛い」と「会いたい」で韻が踏める、ここから話が転がっていきそうだなって感じで、1行ずつ書き進めてできた曲なんです。

──だからこそ出だしの「痛い痛い」が耳に残る。そんなふうに、1曲の中に必ず耳に残るフレーズがあるというところも、BONNIEさんの曲の特徴であり作家性だなと感じます。

耳に残るフレーズは絶対欲しいですね。それが曲が生まれるきっかけになることも多い。次の「宝さがし」だったら、「1つ 2つ 3つ 4つ」というフレーズが初めに出てきて、その時点では何を数えているのかわかっていないんですけど、続いて出てきた言葉が私を導いてくれるというか。そうやって転がり出すと早いんですけど、転がるキーワードやリズムが見つかるまではけっこう苦労しますね。キーワードは1ワードでもいいんです。例えば表題曲の「Infinity」では「彗星」という言葉が出てきた時点で、書けると思った。ここで歌っている彗星は、娘のことなんです。ある日、一筋の彗星のようにヒョンって無垢な心を持った娘がやってきて、その子がいろんなものを蹴散らしながら動いていくみたいな絵が浮かんだときに、これで書けると確信した。出てきた言葉から景色が浮かぶと書きやすいというのはありますね。

BONNIE PINK

娘に自分の持てるものをつなぐ、それが亡き父への恩返し

──「Infinity」、即ち無限大。「広がる無限大」と歌っていますが、つまり子供には無限大の可能性があるということですよね。

そう。子供って、すべてがはじめましてじゃないですか。「それどういう意味?」「これは何?」「それはどうして?」って、朝から晩まで質問攻めなんですよ。それっていいなと思って。ものすごくフラットにすべてを受け止めて、貪るように吸収して自分のものにしながら、もっとちょうだい、もっとちょうだい、っていう子供を見ていると、本当にどこまでも広がっていけそうだなって思う。それはうちの娘に限ったことじゃなく、どんな子供を見ていても思うことで。可能性は無限大だし、どこでどう開花するかも未知数で、こんなに楽しいことはないと感じるんです。そのことが私を励ましてもくれるんですよ。例えば私はこのアルバムを作り始めた頃、古い曲はもうあきらめて葬ったほうがいいんじゃないかと考えたこともあった。でも古い新しいは、あくまでも私にとってであって、聴く人にはどれが古い曲とか新しい曲とか関係ないじゃないですか。そういうこだわりを取っ払えば世界はもっと広がるんだなって気付けたので、あきらめずに作り上げることができた。その思いと願いを込めて、これをアルバムタイトルにしようと思ったんです。自分に制限をかけずにもう一度音楽をやっていこう。そういう思いというか、希望というか。

BONNIE PINK

──「Spin Big」で始まって、その「Infinity」で幕を閉じるという構成がまた素晴らしい。物語の循環が感じられますね。

「Spin Big」は8年前の曲ですが、この曲を書いたのは父ががんで闘病をしていたときだったんです。冒頭の英語詞の部分では、いつか形がなくなってしまうときが来るけど、それまでは最良の時と出会う可能性があることを信じて、地に足をつけて現実を見ながら前向きでいようという思いを書きました。結局父は亡くなって、その2週間後に父と入れ替わるみたいに娘が生まれてきたんです。私にとって、なかなか衝撃的な時期だったんですけど、悲しみと喜びが同時期にガーンときたときのあの衝撃は忘れられないし、忘れたくないし、そこからつないでいく命や意思の大切さみたいなことも感じて。それで「Infinity」の最初の英語詞の部分、「彼が去って あなたが生まれて6年」という歌詞も書いたんです。遺せるものは遺したいという親心みたいなものから生まれた曲がこのアルバムには多くて、「Infinity」もそうだし、「世界」もそうだし。書いた時期はバラバラで、「Spin Big」は娘が生まれる前、「世界」は3年前、「Infinity」は今年なんですけど、なんか全部がつながっているなという感覚がありましたね。

──「エレジー」でもまた、「まだ見ぬ未来にバトンを繋ごう」と歌われています。

これは被爆体験された方のドキュメンタリー映画「for you 人のために」「生きる FROM NAGASAKI」のエンディングテーマのオファーをいただいて書いた曲で。エレジーは哀歌、挽歌のことですけど、悲しみの体験を「悲しい」で終わらせるのではなく、前を向いて未来にバトンをつないでいければというような思いを曲にしたものなんです。

──つまり、今よりも未来に思いを馳せて、次世代につなごうという思いを歌っている。そういう曲がこのアルバムには多くて、そこが過去作との大きな違いだし、人としての成熟を感じます。

子供が生まれて、親目線で書くということを初めて体験したアルバムだったりもするので。亡くなった父はどういう眼差しでちっちゃい頃の私を見ていたのかということを、今、すごく聞きたいんですよ。聞きたくても聞けないけど、絶対的な愛情を注いで育ててくれたという信頼みたいなのがあって、私が同じように自分の子供に愛情を注いで自分の持てるものをつないでいくということが親への恩返しだとも思っているんです。そんなふうにつないで生きていくのは素敵なことだなって、親になってやっと感じることができた。

──そういう話を聞くと、アルバムが11年空いたことも、すごく意味のあることだと思えてくる。

そうですね。その間にいろんなことをグルグル考えたし、ただ休んでいたわけではないので。何かしら意味のあった11年だったと思いたいわけですよ。それを言葉にするには何万字あっても足りないけど、このアルバムを聴いて少しでも感じてもらえるところがあったらうれしいですね。そして最後に、BONNIE PINKはここで終わりではないってことも伝えておきたいです。

BONNIE PINK

ライブ情報

BONNIE PINK Billboard Live 2023

  • 2023年12月9日(土)大阪府 Billboard Live OSAKA
    [1st]OPEN 16:30 / START 17:30
    [2nd]OPEN 19:30 / START 20:30
  • 2023年12月13日(水)東京都 Billboard Live TOKYO
    [1st]OPEN 17:00 / START 18:00
    [2nd]OPEN 20:00 / START 21:00

第10回神戸マツダファンフェスタ2023

  • 2023年9月23日(土・祝)兵庫県 アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)
  • 2023年9月24日(日)兵庫県 アクリエひめじ(姫路市文化コンベンションセンター)

※BONNIE PINKは23日に出演


GO OUT CAMP vol.19

  • 2023年9月29日(金)静岡県 ふもとっぱら / 富士オートキャンプ場ふもと村
  • 2023年9月30日(土)静岡県 ふもとっぱら / 富士オートキャンプ場ふもと村

※BONNIE PINKは30日に出演

プロフィール

BONNIE PINK(ボニーピンク)

京都出身の女性シンガーソングライター。1995年にアルバム「Blue Jam」でデビューし、1997年、トーレ・ヨハンソンのプロデュースによるアルバム「Heaven's Kitchen」でブレイク。2006年にリリースしたシングル「A Perfect Sky」が20万枚を超えるヒットを記録し、「NHK紅白歌合戦」初出場を果たす。2011年3月、東日本大震災直後に書き下ろした楽曲「The Sun Will Rise Again」をチャリティーソングとして配信。2012年に12枚目となるオリジナルアルバム「Chasing Hope」をリリースした。2015年、デビュー20周年記念ライブにて結婚を報告し、2017年に第1子となる女児を出産。2023年9月、約11年ぶり13枚目のオリジナルアルバム「Infinity」をリリースした。12月に大阪と東京のBillboard Liveにてワンマンライブを開催する。