“優しさに気づいた”えい
──ここからはアルバム全体のお話に移ります。最初にこのアルバムを聴いたとき、オープニングナンバー「優しさに気づけば」とラストナンバー「love!!bow!!flare!!」に「MELT」のすべてが集約されているんじゃないかと思いました。
えい なるほど、それは興味深い意見ですね。実は最後の最後まで、「love!!bow!!flare!!」は収録しないつもりでいたんです。この曲は最初、ライブを想定してみんなで盛り上がる曲が欲しいなと思って書いたんですけど……自分で書いておいてなんですが、歌詞が抽象的すぎて意味がよくわかんねえなと(笑)。アルバムのテーマ的には違うかなと思っていたんですが、レーベル側からは「絶対に入れたほうがいい」とプッシュされたんです。で、試しにもう1曲作ってみたんですけど、そっちもそっちで違うなと感じて、最終的には“アルバムの中にあるいろんな色の1つ”として存在したら面白いかなと思って「love!!bow!!flare!!」を入れることにしました。実際にアルバムを通して聴くと、この曲が最後にあって正解だったなと、あとになって納得できました。
かじ 唯一、最後までどうなるかわからなかった曲だよね。
えい そうだね。でも、レコーディング自体はすごく楽しかったですよ。ほかの曲と比べていろんな音が入っていますし、ベースもウォーキングベースを入れてもらったりしていて。ドラムもいろいろ工夫されているしね。
ふじい 最初に送ってくれたビートよりも自分が考えたビートのほうが合うんじゃないかってことで提案したら、それを採用してくれて。
えい 「love!!bow!!flare!!」だっけ、僕がかじくんのレコーディングでディレクションをしたのって。
かじ これもそうだし、わりと今回のアルバムはそういう場面が多かったよね。「トラッシュミー」もそうだし「トラウマなんです」もそうだし。
ふじい 「love!!bow!!flare!!」も「トラウマなんです」も制作は短期決戦で、自分の中で走り抜けた感があったなあ。「トラウマなんです」は確か、レコーディングで2テイクしか録ってないし。気持ちがアガッたまま最後まで走り切るみたいなイメージでした。
えい 「トラウマなんです」の話題になっちゃいましたけど、「優しさに気づけば」と「love!!bow!!flare!!」の話でしたよね(笑)。「優しさに気づけば」に関しては……本当に曲名通りなんですよ。この曲を聴いて思いやりの心に気付いてもらえればうれしいし、そういう応援ソングになっているんじゃないかな。ちょっと説教っぽいところもある楽曲なので、「涙ばっかのヒロインさん」とかある程度のSFが入っているものよりは自分のリアルを書いた曲かもしれないです。
──オープニングのこの曲とラストの「love!!bow!!flare!!」は、歌詞の作風的にも対照的ですよね。
えい 完全に真逆ですね。「歌詞を書いた人、絶対に別人だろ」と思われそう(笑)。でも、好きな音楽が散らばりすぎているからこそ、自分の中にいくつもの人格があるような感覚はありますし、それが作詞においても発揮されているのかな。そういう意味では、「優しさに気づけば」は自分が主人公の曲なんでしょうね。
さとぴー、褒められてソワソワ
──ここまでタイトルが挙がった楽曲をはじめ、「MELT」の収録曲は全体的にリズムがタイトで気持ちいい仕上がりだと思いました。
えい それも成長ですよね。特にさとぴーの伸びしろがすごくて。今までは自分がアレンジしたベースフレーズを持ってきて、それをほぼ完コピーしてもらっていて、彼がちょっとだけいじってみても「それ、音が違うよ」みたいなことが多々あったんですけど、今回に関してはけっこうお任せでした。なんなら俺のほうがコードを間違えてることもあったくらい、曲や歌詞に対しての理解度をちゃんと深めてフレーズを持ってきていました。今回はその力量も含めて、彼が一番曲に寄り添ってくれていたんじゃないかな。
さとぴー この1年で、曲への理解をめちゃくちゃ深められるようになりましたね。
ふじい いろんなことしよったもんね。一昨年くらいから楽曲のコードを全部書いて、それを目で見て「どのフレーズが合っているのか」をいろいろ試してみて、1年くらいでそれをちゃんとマスターできるようになって、今はしっかりその成果が形になって表れるようになったわけだから。成長だよね。
さとぴー なんかソワソワするわ、こんなに褒められると(笑)。楽曲との向き合い方が変わったことで、アプローチの仕方もわかってきたというか、曲ごとに何が求められているのかを理解できて視野が広がった気がします。
──さりげなく主張が感じられるベースですよね。ふとした瞬間に前に出てきて、印象的なフレーズで聴き手を惹き付けることができるというか。
さとぴー そこも狙いを定めて弾けるようになったからこそですね。
えい 例えば、4拍あってそのうちの1拍が空くとしたら、そこにしっかりベースを埋め込むのが上手になりましたし。
“超わがままプレイヤー”ふじい、バレない程度に味付けしたかじ
──ドラムに関しては、もはや強い安心感が伝わります。
ふじい おお、うれしい。僕ってもともとは尖った感じで育った“超わがままプレイヤー”なので、「トラウマなんです」のようなテンポが速い楽曲のときは思うままに叩き切るんですけど、最近はメンバーが弾きやすいことを意識して叩くようにもなってきて。その両面を持てるようになったのは、自分の変化として大きいかもしれないです。
──「トラッシュミー」のような楽曲は、まさに後者の意識で叩いた曲かなと思いますが。
ふじい 実は「トラッシュミー」は自分的に新しい課題すぎて、レコーディングに一番時間がかかったんですよ。送られてくる楽曲のレベルがどんどん上がっていく分、高い演奏技術もたくさん求められるようになって、自分的にも挑戦がすごく増えました。「トラッシュミー」は1日がかりでしたけど、苦戦しながら録り終えたものの、あとから「もっといろいろできたかも」と思う部分も出てきたので、それは今後のライブでどんどん実践していこうかなと思ってます。
──ギターに関しても要所要所で2本の絡みが用意されていたり、歌メロの裏で鳴る気持ちいいメロディだったり、印象的なプレイが随所にフィーチャーされています。
えい ギターに関しては、僕がある程度フレーズを用意していって、それをかじくんに弾いてもらうことが多かったんですけど、自分には出せないニュアンスが随所にちりばめられていますね。
かじ 自分なりの味付けは、バレない程度にちょいちょい足しているんです。「トラッシュミー」のソロとかね。
えい あれよかったね。
かじ 「こんな僕ですが、何卒」(2023年リリースのEP「Phantom youth」収録曲)の頃は「ギター2人で掛け合いをしてこそロック」みたいな意識が強かったんですけど、今回の「トラッシュミー」では2人のスタイルの違いがモロに出ていて、より洗練されたギターソロを披露できたんじゃないかな。
ふじい ギターの掛け合いに関する2人のやりとりもめっちゃ面白かったし。
さとぴー レコーディングブースの外から見てたよね。
ふじい えいも「そんなんじゃないよ! もっとかじくんを出してよ!」みたいなこと言ってて。
かじ あったね(笑)。
えい そうだっけ。覚えてないわ(笑)。
──「トラッシュミー」での長尺ギターソロでは切り替わるポイントがわかりやすいくらい、2人のプレイスタイルが異なることがしっかり伝わります。
えい 僕はニュアンス重視で自由な動きをするんですけど、かじくんはタイトで精密度の高いプレイだから、動と静みたいな感じで。ギターソロって近年は聴かれずにスキップされたりすると言われてますけど、「トラッシュミー」に関しては楽曲を構成する必要不可欠な要素になっているんじゃないかと思います。
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えいの父親も大歓喜の「トラッシュミー」