戦闘シーンも性別関係ない。要はそいつが強いか否か
──今作は女性が強かったのもポイントでした。
KennyDoes うん。オカンのラモンダ女王がカッコよかったっすね。なんか前作よりデカくなったというか。安易に女性性だから強いとかじゃなくて。作中でデカく見える、見せる必然性があったと思うんすよね。
R-指定 俺はナキアにそれを感じた。
KZ あー、そっか。なるほどね。確かにナキアは前作とかなりイメージが違った。その意味ではオカンがデカく見える必然性も理解できるわ。
──みんな大好きオコエの印象もだいぶ違いましたよね。
KennyDoes そこで言うと、シュリも物語の中でどんどん見え方が変わっていったんですよね。おそらくは衣装や画角を細かく計算して、さらに役者さんたちの入念な役作りの結果、そういう効果を生んでるんやと思うけど。今作は役者さんたちはもちろん、スタッフの方たちも「ブラックパンサー」シリーズへの並々ならぬリスペクトと気合いを感じましたね。
R-指定 戦闘シーンも性別関係なかったもんな。要はそいつが強いか否か。
KZ もはやマーベルの伝統と言っていい、多方面でいろいろ戦ってるのを流れで見せていく映像は何度観ても気持ちいいよな。あと今回もかなりフレッシュな攻撃方法が編み出されてたな。
KennyDoes “あれ”な。最強や思ったわ(笑)。
あれは名パンチラインでしたね
KZ 俺、さっきテクノロジーに否定的な感じのこと言っちゃったけど、同時にテクノロジーのよさも感じたんよね。ヒーローが根拠なく無敵の存在じゃなくて、ちゃんと研究して分析して戦っていくっていうか。
R-指定 俺は今作はエムバクに注目してほしい。
KZ 前作では脳筋キャラやったけど(笑)。
R-指定 そうそう。これまでは戦士としての側面が主にフィーチャーされてたやん。でも今回は人間としてのエムバクを感じられると思う。とあるシーンでマジ泣きそうになりましたもん。
KennyDoes あっれはよかったなあ……。
KZ 感情の動きを安易に表現しないんよね。だからこそ生まれる感動もあって。
R-指定 「ブラックパンサー」シリーズの素晴らしいところは、出自がすべてじゃないんだってメッセージがあることだと思うんですよ。
──人生をどう生きるか。過程にこそ意味がある、と。
KennyDoes そうそう。「黒人で若くて才能があるのは自分のせいじゃない」みたいなセリフもあるんですよ。これも逆説的に同じことですよね。
KZ あれは名パンチラインでしたね。差別されるのは自分たちのせいなのか。受け継がれてきたものを自分は引き継がなきゃいけないのか。人生を自分らしく塗り替えるためにはどういうアクションが必要なのか。そういったメッセージがいたるところにちりばめられてました。
KennyDoes ヒーローものって超絶フィクショナルな作品を、同時にめっちゃ真摯な姿勢で制作してるのが最高。
KZ 現実世界とファンタジーの間をどれだけ埋めてくれるかが重要だもんね。マーベル映画ってヒーロー映画というジャンルで語られるけど、今作を観たあとだと「いや、もう違うかも……」って思っちゃう。まあ、「ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス」は思い切りヒーロー映画やったけどな(笑)。
R-指定 あれはあれでまた面白いんよな。この振り幅がMCUのよさだよね。
──ブラックパンサーとドクター・ストレンジが同じ世界線にいて、破綻しない懐の深さがあるという。
R-指定 です! 俺、さっきの真摯な姿勢という部分で話すと、海のシーンがめっちゃ好きでした。めっちゃイケてる海洋ホラーというか。新しい表現やなって。マジで怖いです。
KennyDoes 見どころ系だと、俺は(百田)夏菜子さんの「ワカンダ・フォーエバー!」ですね。俺らが観させてもらった試写は吹き替え版やったんですよ。
R-指定 間違いないっす。あのシーンは俺ももう1回観たいですね。
楽しみ方の方向性が多すぎてヤバいんですよ
──お話は尽きませんが、そろそろ最後の質問をさせてください。この記事はマーベルファンのほかに、皆さんのファンの方にも読んでもらえると思います。皆さんのファンの方々に向けてメッセージをいただきたいな、と。
KZ ありがたいことに僕らのファンの人たちは「文脈」や「行間」がフェチズム的に大好きな人が多いんです。なので、もし「ブラックパンサー」シリーズを知らなかったなら「ここはものすごくいろんなものが埋まってる鉱脈だよ」ってことを知ってほしいですよね。普段俺らを追ってくれるディグ力があれば、とてつもなく大きな何かが得られると思います。そこで得たものは自分の実人生にも返ってくる。梅田のライブに来てくれる人たちにふさわしい作品やなって。
KennyDoes むしろこの状態で「ブラックパンサー」シリーズに乗らん人って何があかんのやろ……?
KZ ヒーローものは安っぽいドラマだと思ってる人も、いてはるかもしれない。
──あとMCUはけっこう長く続いているシリーズなので、今さらどこから入っていいかわからないと思っている人もいると思うんですよ。
KennyDoes そういう意味では、今作はシリーズ前作の「ブラックパンサー」だけ観てればOKですね。本当はこういうお仕事の場面、「『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』だけで楽しめます!」って言わなきゃいけないんやろうけど、「ブラックパンサー」だけは絶対に観てほしい。前作もめっちゃ面白いんで。音楽も超カッコいいし。そのうえで今作を観ると、予想の範疇には収まらない体験ができると思います。
R-指定 そうそう。今作は自分の身の回りで起こっていることが描かれてる。めっちゃ身近な話やと思うんです。自分は他人と違う。そこ踏まえてどう対話するか。どう解決するか。折り合いが付かなくても、納得できるポイントを見つけて歩み寄っていく。これは学校とか、会社とか、友達のグループの中とかでも日々起きてること。
KennyDoes 自分と他人の境界線なんかも。どんなに親しくても同じ人間じゃなくて……。これは人生のテーゼやん。じゃあ自分とはなんやねんって。
R-指定 せやな。しかも生まれたときから何の雑味もない自分なんていなくて。親も兄弟も親戚もいるから。
KZ 「多様性を認める」ってまさにそういうことですよね。で、「そういう悩みがまったくない!」という人は、普通にアクション映画として観に来ればいいと思います(笑)。超楽しいですから。出てくるガジェットも衣装もめっちゃイケてるし、音楽もいいし、何より戦ってるシーンのブチ上がり具合がピカイチなんで。縦方向、横方向、空中戦、水中戦……おそらくあらゆる戦いが描かれてるんちゃうかな。楽しみ方の方向性が多すぎてヤバいんですよ。
R-指定 最近のアメリカ映画はもう「撃退」「滅する」じゃないんですよね。これまで現実に一番「撃退」「滅する」をしてきた国が。じゃあその回答は何かと言ったら、それは「ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー」にあると思います。
──ありがとうございます。では最後に決めポーズ「ワカンダ・フォーエバー」でお願いします。
一同 ワカンダ・フォーエバー!
プロフィール
梅田サイファー(ウメダサイファー)
大阪梅田駅の歩道橋で行われていたサイファー(円になり即興でラップをするセッション)の参加者から派生した集合体。多くのメンバーがラップバトルで輝かしい成績を残し、R-指定(Creepy Nuts)を代表に全国区のラッパーを輩出してきた。上下関係はなく、あくまで個人の集まりでありグループでないことが特徴。映像作家、デザイナー、トラックメイカーなどの顔を持つメンバーもおり、その活動は多岐に渡る。
梅田サイファー【公式】 (@umeda_cypher) | Twitter