「あのさ」に紐付く「そうじゃなくて」
3曲目「そうじゃなくて」は、2ndミニアルバムの中で最初にリリースされたシングル曲であり、歌詞や穏やかなサウンドからは「あのさ」に紐付いた世界観を感じさせる1曲である。歌詞の中でも示唆的に「あのさ」という言葉が歌われている。ポコポコと気泡のように心に浮かび上がるさまざまな思いに対して、「そうじゃなくて」と、何度も、何度も、浮かべては打ち消し、考えを深めながら、どんどんと自分の本当の心、本当に伝えたい言葉にたどり着こうとする思考の軌跡。個人的には「あのさ」の後日談のように聴こえたが、本音は終着点ではなく、その先がまだあるということ──言うなれば感謝や祈り。こうやって人は再生し、明日に進んでいくのだということを感じさせる、希望の曲だと思った。
「こう生きたいんだ」という願いを託した「星になりたい」
4曲目「星になりたい」は、1個1個の楽器が存在感を持って、緩やかに、繊細に重なり合うberry meetのバンドアンサンブルの魅力を強く感じさせる。軽妙でリズミカルなサウンドが心地よく、そのサウンドにささやかに色付けをする鍵盤などもロマンチックに響く1曲だ。わかりやすい派手さや大仰さはないが、とても大切なことが、手渡される温かみと確かな感覚で伝わってくる名曲である。「不完全を愛せない僕らは 終いには呼吸すら意味を探し出す」「息の仕方が 分からないよ」──そんなふうに生きづらさを吐露しながらも、最後には「黒く染まりきった日記帳も 歪んだグラスに吐き出した昨日も それでいい そのままでいい 僕が愛すよ 世界はきっと許すよ」と、歌は肯定の言葉にたどり着く。「こう生きたいんだ」という願いを音楽に託す。berry meetの音楽がどんな思いを前提に生み出されているのか、その本質を伝えているような楽曲だと思うが、実際、この曲のタイトルは「星になりたい」であり、ミニアルバムのタイトルにも「星」という言葉が掲げられているのだから、本人たちにとっても重要な1曲なのではないかと思う。真昼の空に星を探すような生き方を、berry meetは祝福する。
力強い生命力を感じる「忘れたくなくても」
5曲目「忘れたくなくても」は、ピアノも印象的な生々しいバンドの演奏が、歌詞に描かれる“僕”という主人公のエモーションと重なって、静かに燃え上がるような熱情を発する1曲である。たくの表情豊かな歌唱もいい。喪失感や傷跡の記憶──それらもまた自分自身を構成する要素なのだということ。終盤に歌われる「忘れるまで 覚えてるから」という歌詞には、過ぎ行く時間を受け入れる心と、それに抗う心、その2つが混ざり合っているようだ。きっと時間は忘却を連れてきて、すべてを解決してしまうのかもしれないが、それでも、過ぎる時間をどう生きるかは自分次第である。愁いを帯び、大人びた表情を浮かべる切ない旋律の楽曲だが、とても力強い生命力を感じさせる曲だ。
どうしようもない悲しみにおそわれる「エキストラ」
6曲目「エキストラ」は、一方通行の恋心を、ストリングスも映えるアコースティックな質感のサウンドに乗せて歌う。「君も想っているんでしょう 僕と同じように 溢れてしまいそうなほど 他の誰かを 想いの向く先が 僕じゃない事くらい 分かってしまうから」──なんという関係性だろうか。“想う”という行為は同じでも、“僕”は“君”を見ているが、“君”は“僕”を見ていない。ここでは“同じ想い”であることが、どうしようもない悲しみを持って描かれる。断絶と共感が同時に押し寄せてくるようで、そんな心情が美しいメロディとバンドサウンドによって運ばれてくるのだから、なんとも複雑な感情にさせられる1曲だ。「たとえ報われなくても 関係なくて 叶わない恋でも 告げられずに終わっても 今日も君を想って」と、“想い”ですべてが解決できるわけではないことを重々承知のうえで、それでも“想う”という着地点に行き着くことしかできない主人公の切なさが胸に迫る。
すべてを肯定するポップチューン「溺愛」
7曲目「溺愛」は、本作随一のポップでチャーミングな1曲。軽快なハンドクラップやコーラスが楽しい、ライブで盛り上がる光景までありありと浮かんでくる1曲だ。「悲しくなったって(大丈夫) 寂しくなったって(大丈夫) このまま朝まで僕がいるから」──このメッセージはラブソングとして描かれたもののようにも捉えられるし、berry meetがオーディエンスに向けたメッセージのようにも聞こえる。「変わらないでいよう二人この先 ずっと 果てしない愛しさがきっと 続いていきますよ」と、こんな永遠への祈りを臆面もなくまっすぐに歌えるところに、なぜ今、berry meetは特別なバンドとして若者たちの支持を集めているのか、その秘密があるのだろうと思う。しかし、「エキストラ」のあとにこのド直球の全肯定ソングがくる曲順を考えると……ちょっと面白い。
berry meetが決意を示す「旅路」
本編ラストを飾る8曲目は「旅路」。流麗なストリングスに導かれて始まるこの曲で歌われる、こんな一節──「夢から醒めて旅をしよう JUKEBOX忘れず持っていこう」。これを見てハッとする人もいるかもしれない。前述したようにberry meetの1stミニアルバムのタイトルは「夢の中で、夢から醒めて」であり、その前にリリースされたEPのタイトルが「JUKEBOX」なのである。この曲で歌われる「旅路」とは、berry meetが歩いてきた道、そしてこれから歩んでいく道のことなのだろう。未来のことなんて誰にもわからない。いつか終わるのかもしれない。それでも、今という瞬間がある。今、自分たちはどうやって生きたいのか? その問いの先に生まれる決意を歌う、宣誓のような1曲。それが「旅路」だ。「夢の中で、夢から醒めて」の最後を飾った「煌めき」もそうだが、アルバムの最後にこうしたバンド自身の決意表明のような楽曲を持ってくるところに、berry meetというバンドの意志の強さ、筋の通った生き様を感じる。たくは歌う。「きっと生涯 会いに行く 約束する 変わらない幸せが ここにある いくつになっても変わらないでいてね 僕の大切」。どれだけ時間が残酷に過ぎようと、どれだけ時代が人やモノを恐ろしい速度で飲み込み、消費しようとしても。それでも変わらないものを守るように。berry meetは旅を続けていくのだろう。
たなかり&いこたんの才能が開花したボーナストラック
先にも書いたように詩集仕様のCD盤にはボーナストラックが2曲収録される。本編の全収録曲はたくが作詞作曲しているが、ボーナストラックではたなかり、いこたんが曲作りを担当。9曲目「ローンウルフ」はいこたんが作詞作曲し、自身がメインボーカルをとるエネルギッシュかつ胸を締め付けるようなロックチューンで、10曲目「tokimeki」はたなかりが作詞作曲し、自身がボーカルも務める1曲。オーガニックなバンドサウンドが心地いい、温かな安心感のあるポップチューンだ。それぞれまったくキャラクターの違うボーナストラック。アルバム本編にはない音楽的表情を持っており、ボーナストラックとして収めるにはもったいないと感じるくらい、どちらも必聴と言える2曲である。
さっきberry meetのことを「特別なバンド」と書いたが、バンドというのは、みんな特別なのだと思う。しかしそれでも、あえて「特別なバンド」と言葉にして原稿に記したくなるのがberry meetだ。ポップで、チャーミングで、軽やかだが、その奥にある「生きたい」という意志は、「変わらないものを守り続けたい」という思いは、ずっしりと確かな手触りを持って聴き手に伝わってくる。彼らは今この時代にとって、とても大切なことを伝えている。3人がその旅路を行く足音に、私はこれからも耳を澄ませ続けたいと思う。
公演情報
berry meet「昼下がりの星、続く旅路」
- 2024年11月8日(金)広島県 CAVE-BE
- 2024年11月10日(日)宮城県 enn 2nd
- 2024年11月16日(土)福岡県 DRUM Be-1
- 2024年11月22日(金)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2024年11月23日(土・祝)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2024年11月30日(土)北海道 Sound lab mole
- 2024年12月5日(木)東京都 LIQUIDROOM
プロフィール
berry meet(ベリーミート)
たく(G, Vo)、たなかり(B)、いこたん(Dr, Cho)からなる3ピースバンド。2022年7月に結成され、東京を中心に活動。2023年2月に初シングル「あのさ」をリリースし、ミュージックビデオの再生数は150万回を突破している。最新作は2024年11月リリースの2ndミニアルバム「昼下がりの星、続く旅路」。本作と同タイトルのライブツアーを11月から12月にかけて行う。
berry meet (@berry_meet) | Instagram