ゲストと奏でるポップ、ロック&ドゥーワップ
──「春色の風に吹かれて(feat. Donatello)」「恋はマスカレード」からは、銀じろうさんのポップな側面が感じられます。
港町 「春色の風に吹かれて」は、1stアルバム(「スマッシュ イット」)に入っていた曲のリメイクですね。知り合いのラッパーのDonatelloくんの声が合うなと思ったので参加してもらって、堀正輝くんに打ち込んでもらいました。堀くんは米津玄師さんのツアーなどに参加しているドラマーなんですけど、うちのドラマー阿部一仁くんの教え子なんです。「恋はマスカレード」は「DVはいけないことだよ」という歌ですね。
岩崎 「恋はマスカレード」はアルバム制作の最後のほうに作った曲で。レコーディングの日程はすでに終わっていたので(笑)、打ち込みメインで、ギターだけ弾いてもらって。銀じろうさんは打ち込みの曲であっても、どこかに生楽器の音を入れようとすることが多いんですよ。
港町 この曲もバンドで演奏するとよさそうだよね。基本、生楽器で構成するのが好きなんですよ。
──続く「HEART and SOUL(feat. IKURA & Donatello)」はDonatelloさんと、元MOON DOGSのIKURAさんをフィーチャーした楽曲です。IKURAさんとの出会いは?
港町 僕の同級生がMOON DOGSのドラマーで、よくライブを観に行ってたんですよ。IKURAさんとは数年前にラジオをきっかけに仲よくなって、ドゥーワップやソウルのことをいろいろ教えてもらって。IKURAさんのほうから「コーラスやりたい」と言われたので、Sha Na Naみたいに、ロックとドゥーワップを合わせた楽曲がいいかなと思って作ったのが「HEART and SOUL」ですね。ジミーちゃんが打ち込みの要素を入れてくれて、またちょっと違う感じにはなりましたが(笑)。
伝えたいことは特にない、聴きたい曲を作ってる
──そして「生霊飛ばす!!」も、このアルバムを象徴する楽曲だと思います。「放尿のカタルシス」と同じく、ユニークな歌詞とハイクオリティの音のバランスが印象的で。
港町 僕、「月刊ムー」を愛読していて、YouTubeチャンネルの動画とかも全部チェックしてまして。その中の角由紀子さん(不思議な話題とカルチャーに特化したニュースサイト・TOCANA編集長)が幽体離脱した話が印象に残っていて、「生霊飛ばす!!」の歌詞を書きました。見聞きしたものがすぐに歌になる(笑)。
──この曲のサウンドはどんなイメージで詰めていったんですか?
港町 当初はシティポップみたいなイメージだったんです。ギターのリフがメインだったんだけど、ジミーちゃんと話しながら「シンセのリフのほうがいいね」ということになって。最終的には原型とはかなり違うアレンジになりました。この曲のトラックも、堀くんに打ち込んでもらったんですよ。
──次の「VOICE」は銀じろうさんのボーカルの魅力を押し出したバラードナンバーですね。
港町 最近、シンガーソングライターの方が活躍しているじゃないですか。優里さんとか。アコギをメインにした曲がヒットしてるので、自分たちもやってみようかなと(笑)。
岩崎 「100点満点のバラードを作ろう」って言ってましたね。王道のコード進行で、ストリングスも入れて。
港町 「俺もやれるんだぞ」みたいな感じで(笑)。でもちょっと調子に乗っちゃいましたね。歌がぜんぜん満足できなくて、失敗しちゃいました。
岩崎 いやいや、そんなことないですよ(笑)。
港町 世のシンガーソングライターの皆さんは、ちゃんと自分の中にある感情を歌ってるじゃないですか。僕はそうじゃないので。
──確かに「この思いを伝えたい」という感じではないですよね(笑)。音楽的にやりたいことを優先しているというか。
港町 そうなんですよね。伝えたいことも特にないし、洋楽みたいな感じで聴いてもらえたらなと。
岩崎 銀じろうさんの歌詞、めちゃくちゃすごいですけどね。自分の気持ちを伝えるというより、「こういう曲があったら面白くない?」というリスナー側の目線になってるというか。
港町 というより、自分が聴きたい曲を作ってるんだよね。
──なるほど。そして「待たせないで!!」は本格的なファンクチューンですね。
港町 音楽はなんでも聴くし、嫌いな音楽はないんですけど、ファンクは特に好きで。
岩崎 いいですよね。「待たせないで!!」は“港町銀じろうと言えば”という王道のサウンドだと思います。Tower of Powerのイメージもありましたね。
音楽家・港町銀じろうの魅力は“のらりくらり”
──銀じろうさんが思い描いたサウンドを具現化する作業、楽しそうですね。
岩崎 そうですね。メンバーもみんな楽しんでくれてるし、どんどんアイデアを出してくれて。今回のレコーディングもすごくいい雰囲気でした。
港町 僕も楽しいですよ。みんな、わりとうまいし。
──いやいや、めちゃくちゃうまいプレイヤーばかりだと思います。岩崎さんから見て、“音楽家・港町銀じろうの魅力”はどんなところですか?
岩崎 この取材のやりとりもそうなんですけど、どこかひょうひょうとしてるんですよね。そのおかげで現場が楽しくなるし、制作もうまくいくことが多くて。のらりくらり、みたいなところが銀じろうさんの魅力なのかなと。
港町 「のらりくらり」って曲を書きます(笑)。
──では銀じろうさんがバンドを続けているモチベーションは?
港町 趣味、道楽です(笑)。さっきも言いましたけど、自分で聴きたい曲を作ってるだけなので。続けてると少しずつうまくなってくるし、どこまで理想に近付けるだろう?という感じでやってます。自分たちのアルバムを聴くと「もっとこうすればよかったな」という反省点もあるんですけど、それも次の制作に生かして。
──銀じろうさん、求めるレベルがすごく高いですよね。
港町 気になるんですよね。ほかのアーティストの曲を聴いてても、「この部分、こうしたらいいのに」と思っちゃったり(笑)。特にドラムとベースですね。
岩崎 確かにドラムとベースのディレクションはシビアですね。
港町 曲は今もずっと作ってます。制作ソフトも買い替えたんですよ。ジミーちゃんに渡すデモをもうちょっと、きっちり作りたくて。
岩崎 銀じろうさんのデモ音源が一番大事ですからね。デモに入ってる音の勢い、説得力を大切にしたいし、それをしっかり残したいので。やっちゃいけないのは、銀じろうさんの世界観を狭めること。アレンジするときも、それをどう濃くしていくかを意識していますね。
──その成果がこのアルバムのクオリティの高さにつながってるんですね。ライブ映えする曲も多いと思うんですが、ライブの予定は?
港町 ライブはめんどくさいんですよ(笑)。自分たちは演奏だけじゃなくて演劇もやるから、脚本を書かなくちゃいけないし、リハも大変で。
岩崎 映像もありますからね。
港町 やることが多いんですよ(笑)。一応、目標はマディソン・スクエア・ガーデンなんですけどね。
岩崎 すごい野望(笑)。
プロフィール
港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズ(ミナトマチギンヂロウトバスエノキャバレーズ)
ボーカルの港町銀じろう率いるバンド。ハードボイルドな世界観とユーモアあふれる歌詞、あらゆるジャンルの要素を取り込んだ音楽性が特徴で、2017年にアルバム「スマッシュ イット」でデビューした。2021年に2ndアルバム「ウォンチュー!」を発表。3rdアルバム「ポーッー」を2022年8月に配信、10月にCDでリリースした。11月、港町は占い師のアドバイスにより「港町ぎんぢろう」から「港町銀じろう」に改名。バンド名は変わっていない。
港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズ (@gindiro_basue) | Twitter