港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズは理想に近付きたい、謎めいた3rdアルバム「ポーッー」インタビュー

港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズが3rdアルバム「ポーッー」をリリースした。

和のテイストを押し出した「YOKOHAMA MIDNIGHT PATROLLER(feat. 小林大河)」、アシッドジャズ直系のサウンドを取り入れた「放尿のカタルシス」、ロックとドゥーワップを融合させた「HEART and SOUL(feat. IKURA & Donatello)」、港町銀じろう(Vo)のエモーショナルな歌声が際立つ「VOICE」など全11曲を収録した本作。昭和のハードボイルドタッチの作品を背景にした個性的な歌詞、そしてファンク、R&B、ハードロック、ラテン、フュージョンなどを自由に行き来するサウンドを中心にした音楽性は、まさに唯一無二だ。

音楽ナタリーでは港町とジミー岩崎(Key)にインタビュー。「ポーッー」の制作プロセス、港町の独特の音楽観やこだわりについて聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / 吉場正和

「ポーッー」の発音

──前回のインタビューの最後で銀じろうさんは、「映画を作りたい」「歌手よりも役者に興味がある」とコメントされていて(参照:港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズが2ndアルバム発売、70'sドラマを想起させるハードボイルドな世界観を紐解く)。

港町銀じろう(Vo) そんな話してましたね(笑)。

ジミー岩崎(Key) 懐かしい(笑)。

港町 全然、役者はやってません(笑)。ライブもやらず、ひたすら制作してました。とにかく曲を作り続けて、貯まってきたからアルバムにしたという。もはや曲を作るために生きてますね。まあ大変なのはバンマスでアレンジャーのジミーちゃんなんですが。アレンジはけっこう一生懸命やったよね?

岩崎 はい。“一曲入魂”を繰り返してましたね。銀じろうさんはとにかく歌詞がブッ飛んでいて面白いので、それにどう対抗するか?ということを意識して。参加ミュージシャンも素晴らしいので、どんなサウンドにも対応できるんですよ。今回も“港町ぎんぢろう”というジャンル、ワン&オンリーのアルバムになったと思います。

──「ポーッー」というアルバムタイトルはどのように決まったんですか?

港町 いや、実はですね……このタイトル、どんな感じで読むと思いますか?

──ぼんやりしている感じで「ポーッー」なのかな、と……。

港町 僕が考えていたのは、マイケル・ジャクソンみたいな「ポゥ!」だったんですよ(笑)。全曲に「ポゥ!」という声を入れようと思って。実際は難しくて1曲で挫折したんですけど(笑)、タイトルだけそのまま残りました。まあ、どんなふうに発音してもらってもいいんですけどね。ちなみに前作の「ウォンチュー!」も全曲に「ウォンチュー!」を入れるはずだったんですけど、2曲しか入れられませんでした。本当にすみません。

岩崎 あ、前作もそうだったんですね。初めて知りました(笑)。

左からジミー岩崎(Key)、港町銀じろう(Vo)。

左からジミー岩崎(Key)、港町銀じろう(Vo)。

この曲名だと「紅白」に出られない

──(笑)。では、収録曲について聞かせてください。聴いているとストーリーや映像が浮かぶ曲ばかりですよね。1曲目の「YOKOHAMA MIDNIGHT PATROLLER(feat. 小林大河)」は和のテイストを押し出した楽曲です。

港町 デモ音源を作ったときは和の要素はなくて、ウッドベースやパーカッションを使ったダークな楽曲だったんです。でも歌詞やボーカルが大衆演劇みたいな感じだったので、「三味線が似合うかな」と思って打ち込んで。あとはジミーちゃんに任せました。

岩崎 キーワードは昭和ですね。三味線の音はパーカッシブなので、その感じを生かしながらアレンジして。

港町 なんでもできるんですよ、この先生は。

岩崎 いえいえ(笑)。銀じろうさんのデモが届くたびに創作意欲が湧くし、このバンドでミュージシャンとしてしごかれているところもあって。本当にすごい世界観の曲ばかりなので、めちゃくちゃ新鮮なんですよ。あと銀じろうさんは聴いている音楽の量もすごい。ラジオ(interfm「港町ぎんぢろうのウォンチューRADIO」)でかけている曲も面白いし、いろいろ勉強させてもらってます。

港町 低姿勢ですね(笑)。まあ確かにいろんな音楽は聴いてますけどね。ただの音楽好きなので。

──アルバムの最後には1曲目と同タイトルで「2」が付いた「YOKOHAMA MIDNIGHT PATROLEER2(feat. 小林大河)」が収録されています。

港町 この2曲は語りの部分がちょっと違うだけなんです。1曲目は大衆演劇で、「2」は昭和初期のラジオ放送風。あとはだいたい同じなんですけど、まあ、両方入れておくか、と(笑)。

──2曲目の「放尿のカタルシス」も最高ですね。歌詞の面白さ、サウンドのカッコよさの対比が強烈で、このバンドでしかありえない楽曲だと思います。

港町 ありがとうございます。この歌詞は桜井鈴茂の小説がきっかけで生まれたんですよ。彼は高校の同級生なんですけど、去年出した本「探偵になんて向いてない」に、おしっこを我慢するシーンがあって、そこで“放尿のカタルシス”という言葉が使われていたんです。「さすが、すごいフレーズだな」と感心して、そこから広げて歌詞にさせてもらいました。桜井くん、僕のラジオにもゲストで出てくれて、そのときに歌詞を褒めてくれたんですよ。適当に書いてるのに……(笑)。ちなみに桜井くんはもともとミュージシャンで、最近も曽我部恵一さんの曲に歌詞を提供したりしてて。

──なるほど。それにしてもすごいタイトルですよね。

港町 普通は怒られそうですよね(笑)。この曲名だと、「紅白」には出られないだろうし。

岩崎 「紅白」、狙ってたんですか?(笑) この曲はデモのときからすごくおしゃれな雰囲気で、Incognitoの「Still A Friend Of Mine」みたいなアレンジが合うんじゃないかなと。アシッドジャズですね。歌詞とのギャップもあるし、いい曲になったと思います。

港町 ドラムもいいんですよ。この曲と「YOKOHAMA MIDNIGHT PATROLLER」は、ジェイ・スティックというアメリカ出身のドラマーに叩いてもらいました。

ほかのアーティストがやってなさそうなことをやりたい

──プレイヤーたちの演奏も聴きどころですよね。「GOAST PASTA」はギターがめちゃくちゃカッコよくて。

港町 さっきもベテランのギタリストの方に「『GOAST PASTA』のギターがいいですね」と言われたんですよ。僕が適当に打ち込んだものを、ほぼそのままギタリストの外園一馬くんに弾いてもらっただけなんですけどね。もともとこの曲はハードロックとラテンの融合がテーマで。

岩崎 面白い組み合わせですよね。ラテンの要素を入れるために、ガットギターを弾いてもらったり。

港町 なるべくほかのアーティストがやってなさそうなことをやりたいんですよね。歌詞に関しては、映画「ゴーストバスターズ」を観た直後に書きました(笑)。そのまま歌うわけにはいかないから、「PASTA」にして。というか、スペルを間違えてしまってるんですけどね。ゴーストは「ghost」なので。最近気付きました(笑)。

左からジミー岩崎(Key)、港町銀じろう(Vo)。

左からジミー岩崎(Key)、港町銀じろう(Vo)。

──(笑)。4曲目の「UBER DRIVER」はベーシストの鳴海克泰さんの作曲編曲によるインストゥルメンタルナンバー。とんでもなく高度なジャズフュージョンですよね。

港町 鳴海くんは本来、ジャズがやりたい人なんですよ。僕の曲ばっかりなのもアレなので、鳴海くんに「ベースをフィーチャーした曲を作って」と。……これ、ライブで演奏できるのかな? ギターとサックス、かなり難しいよね。

岩崎 そうですね。この曲は、銀じろうさんの語りがポイントになってるんですよ。

──やっぱりUber Eatsはよく使うんですか?

港町 すごい使います。いつもマンションの下まで迎えに行ってます。

岩崎 優しい(笑)。