港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズ|70'sドラマの世界観を音楽に ハードボイルドシンガー率いる異色の実力派バンド

「ぎんぢろう物語」という映画を撮りたい

──では、ニューアルバム「ウォンチュー!」について聞かせてください。今回は1stアルバムと比べるとブラックミュージック寄りの楽曲が増えている印象がありました。

港町ぎんぢろう(Vo)

港町 そうですね。僕は高校のときにハードロックをやっていて、さらに言うとパンクとかロカビリーも好きだったんですけど、大人になるにつれてブラックミュージックに興味が出てきたんです。今回のアルバムは、そっちの要素が強いかもしれないですね。

岩崎 僕はもともとブラックミュージックが好きなので、得意分野を生かしたいという気持ちがありました。1stアルバムを作ったときにFIRE HORNSに参加してもらったことも大きかったです。とにかく強烈なブラス隊なので、彼らのサウンドをもっと生かしたくて。個人的にはThe Brian Setzer Orchestraのイメージもありました。

──歌詞も前作以上に濃いですよね。1曲目の「ぎんぢろう物語」は楽曲ではなく、オーディオドラマですが(笑)。

港町 そうですね(笑)。実はもう1つオーディオドラマを録ったんですけど、そっちはあまりにもふざけてたので収録しませんでした。

──「ぎんぢろう物語」は、ぎんぢろうがチンピラに絡まれている女性を助け、そこから事件に巻き込まれるというストーリーです。これはアルバム全体の物語につながっているんですか?

港町 いや、アルバムの楽曲とは関係ないんですよ(笑)。僕は「ぎんぢろう物語」という映画を撮りたいと思ってるんですよね、20年以上前から。アルバムに入ってるのは、そのストーリーの一部です。

──そうなんですね(笑)。ちなみに映画のストーリーは決まってるんですか?

港町 全部できあがっています。ぎんぢろうは任侠一家の3代目。おじいちゃんは伝説的なヤクザで、2代目のお父さんは経済ヤクザの人情がない人間。ぎんぢろうは父親のことがイヤで、ヨーロッパに放浪の旅に出るっていう。

岩崎 映画化の際は、ぜひヨーロッパのロケに連れて行ってほしいです(笑)。

カッコよさと面白さのバランス

──さらにアルバムには横浜などの場末のキャバレーを舞台にした「キャバレー」、刑期を終えてシャバに出てきた男を描いた「シャバは最高!!」、ホステスに裏カジノに連れていかれた顛末をつづった「URA!CASINO」などが収録されています。そのまま映画になりそうなストーリーの曲が多いですが、やはり歌詞の内容から決めるんですか?

港町 いや、ほとんど曲が先ですね。「キャバレー」はメロディと歌詞が一緒に浮かんだんですけど、ほかの曲は歌詞を最後に書きました。曲を作るのは好きだけど、作詞は宿題みたいというか、ちょっとめんどくさいんですよ。

──意外です……。歌詞のストーリーはアレンジや演奏にも影響していますか?

岩崎 それはありますね。さっきも言いましたが、歌詞がおかしくて(笑)、ぶっ飛んでるからこそ、音楽は正統派にしたくて。このバンドは腕利きのミュージシャンがそろっているので、すぐに平均点以上の演奏になるんですが、歌詞とのバランスを取りつつ、サウンドを固めています。音楽の基準を上げておかないと、コミックバンドみたいになってしまいますからね。かと言ってマジメに演奏するだけではなくて、ふざけた部分、面白いところも必要なんですけど。

──確かに、音楽的な質の高さと面白さのバランスは大事ですよね。クレイジーキャッツから米米CLUBまで、エンタテインメント性を持ったバンドには必要不可欠なことですし。

阿部 そうですね。歌詞だけを見ると、「これ、どういう曲になるの?」って思いますが(笑)、そこにぎんぢろうが作った曲が合わさってジミーがアレンジすると、不思議なことにすごくカッコよくなって。演奏しているうちにどんどんなじんできて、いい感じに仕上がるんですよね。

森秀輝(Dr, Per)

 パーカッションに関しては、歌に対する合いの手みたいな役割を意識しています。カウベルやシンバルの音もそうですけど、効果音のようにハマるように。もちろんカッコよさも大事なので、そこはサジ加減ですよね。

鳴海 僕はあえて歌詞と距離を置くこともありますね。ベースラインがカッコいい曲が多いので、しっかり弾いたほうがいいなと。

阿部 曲によっても違いますからね。今回のアルバムにジャズっぽい曲が入ってるんですけど……。

阿部一仁(Dr)

──鳴海さん作曲による「地図読めない」ですね。

阿部 はい。オーソドックスな4ビートの曲はそれほどやったことがなかったので、レコーディング前にかなり練習しました。(鳴海から)ドラムのフィルの指定もありましたし。

鳴海 ぎんぢろうさんに「こういう感じの曲をやりたいんだけど」と相談されて、ジャズっぽさを入れつつ、バスエのキャバレーズの雰囲気に落とし込んだ曲ですね。歌詞も意識しましたが……まあ、地図の読めない女の人の歌ですからね(笑)。

──(笑)。岩崎さんが作曲した「ドッグラン」については?

港町 歌手でタレントのIKURAさんと友達なんですが、僕がレコーディングしてると話したら、「デュエットさせて」と言われまして。デュエット曲を作るのは大変だなと思い、ジミーに任せたんですよ。歌ってみたらキーが合わず、結局IKURAさんではなく女性シンガーの方に歌ってもらったんですけど(笑)、曲調についてはムード歌謡っぽい感じでお願いした覚えがありますね。

岩崎 アルバムにはロックやジャズっぽい曲、打ち込みのヒップホップみたいな曲などいろんなタイプの曲があるので、ほかと被らないサウンドにしたくて。できるだけダサくしたかったというか(笑)、オールドスタイルな歌謡曲になってますね。

メンバーには役者になってもらおうかな

──ぎんぢろうさんと岩崎さんの共同作業が、このバンドの音楽の基盤になっているんですね。

岩崎 きんぢろうは音楽的なインスピレーションがすごいし、平均点でいいという考え方じゃなくて、「0か100か」というタイプなんですよ。歌詞もそうですが、絶対に無難なことはやらないので、こっちも「負けたくない」という気持ちになります。

──音楽的にも多彩で、いろいろな楽しみ方ができるアルバムだと思います。リリース後はやはりライブを開催する予定ですか?

港町 ライブもやりたいんですけど、やっぱり映画を作りたいですね(笑)。歌手よりも役者に興味があるし、俳優養成所でも入ろうかなと。

一同 ははははは!(笑)

──バンドのボーカリストから俳優に転身したショーケン(萩原健一)のように。

港町 もともと僕らのライブには演劇の要素や映像の演出を取り入れてるんですよ。

岩崎 台本があるんです。このセリフのあとにこの曲を演奏する、とか。

港町 いきなり「ザ・ベストテン」のパロディをやったり、最後になぜかパンダの着ぐるみが出てきたり(笑)。

──舞台劇というか、なんでもありのエンタメですね。

港町 そうですね。スターダスト☆レビューの根本要(Vo, G)さんと仲よくさせてもらってるんですけど、スタレビのライブもすごくセットが凝っていて、作り込まれているんですよ。「演出家が入ってるんですか?」と聞いたら、すべて自分たちでやってると。僕らもそういうライブをやりたいし、メンバーにも役者になってもらおうかなと(笑)。

岩崎 僕と森くんはすでにいろんな役をやらされてますね(笑)。

──次回作はアルバムなのか舞台なのか映画なのか……。

岩崎 次回作、サントラはどう?

港町 いいかもね。

岩崎 映画を作ってもらって、劇伴をバスエのキャバレーズが担当するっていう。そういうこともやれるバンドだと思うので。

港町ぎんぢろうとバスエのキャバレーズ