新曲を作るよりこっちのほうが大変かもしれない
──アレンジはどうやって進めたんですか?
叶笑 基本的には私が進めました。実際の作業としては、元のデータを編集する形で。「祇園町」はBAND-MAIKOオリジナルの新曲なので丸々レコーディングしましたけど、そのほかの6曲はいつもお世話になっているエンジニアさんにアレンジの方法を教えてもらいながら和楽器の音を打ち込んでいきました。なので、今回はその方の名前がクレジットされてます。BAND-MAIDさんだとできないようなことをさせていただいたので、自分のアレンジの幅がすごく広くなったと思います。
──でも、すでに完成しているものをリアレンジするというのは大変じゃないですか?
叶笑 かなり大変でしたけど、メロディを作るのが一番大変だったりするので、イチから作曲するよりはやりやすいです。すごく楽しい経験でした。
──そうですよね。しかも、和楽器を使うというテーマが決まっていたから、その点でのやりやすさはあったかもしれませんね。
叶笑 去年のエイプリルフールに配信リリースした「secret MAIKO lips」は初めて和楽器を取り入れたので、まず和楽器の勉強をする必要があったんですけど、今回はあのときよりもイメージが湧きやすくなってました。
──「Akasimahen」(原曲「anemone」)は原曲から構成が変わってますよね。
叶笑 “構成通りの曲”と“ガラッと雰囲気を変える曲”の2種類を作ることを意識しました。ギターリフをお琴にしてみたりしてるので、そういう面白さも聴いていただけたらと思ってます。
──富士姫さんの歌は、歌詞の雰囲気と共に変えていたりするんですか?
鳩子 曲によっては優しく歌うところを増やしてもらったりはしました。
富士姫 曲に合うようにはしましたけど、基本的に歌の強さはオリジナルと変わらなくて、歌詞の世界観が変わったところはそれに合わせて歌いました。あと、聞いたことのない言葉ばかりで。
鳩子 京ことば、花街ことばをたくさん使わせていただいたので、「意味がわからない」って富士姫さんに言われたときは、「こういう意味だよ」って教えてあげたり。BAND-MAIDさんでも小鳩さんがやってらっしゃるんですけど、私が歌った仮歌を富士姫さんに渡して聴いてもらいましたっぽ。
富士姫 言葉のイントネーションはネットで調べて出てくるものではなかったので、そのへんは仮歌を聴きながらレコーディングしました。まあ、メロが付いてるのでそこまでは気にしなかったですけど、「変だな」と思いながら歌ってました。
鳩子 普段言わへん言葉もいっぱいあるからね。
富士姫 西寄りのイントネーションでもない、独特なものなので、「なんだろ、これ?」っていうのは多かったですね。
──それにしても、鳩子さんの歌詞へのこだわりはすごいですね。
鳩子 そうどすねえ。こだわりましたっぽ(笑)。
──原曲をベースにした、偏執的なまでの京ことばへの変換が行われています。
鳩子 大変どしたっぽ! YouTubeとかネットの辞書を使って、BAND-MAIDさんの歌詞に対する言葉を当てはめていくっていうことを繰り返していったので、勉強みたいな感じどしたっぽ。
──ちょっとした翻訳みたいな感じですよね。
鳩子 そうどすね。翻訳機みたいなものもネットにはあるんですけど、全然違う感じに翻訳されちゃったので、これは自分でがんばるしかないと思って、勉強しながらやりましたっぽ。独学なので、ちょっとくらい間違ってても優しい目で見てくださるとうれしいどすっぽ(笑)。
──じゃあ、誰かが歌詞の監修をしたわけではないんですね。
鳩子 自分でやりましたっぽ。花街ことばっていうのは舞妓さん独自のものなので、京都でもそこまで詳しい方はいらっしゃらないんですっぽ。
──イチから新曲の歌詞を書くのとどっちが大変ですか?
鳩子 もしかするとこっちのほうが大変かもしれないっぽ。でも、大変な部分がちょっと違うかな。こっちはこっちで京都が好きだから楽しんでできたし、京都の文化ありきで考えるのと、何もない状態から生みだすのとで、それぞれの大変さがあるなって思いましたっぽ。
「ボーカルはすごいなあ」って、2人に対する眼差しが変わりました
──新曲「祇園町」以外の6曲に関して、梅美沙さんと紅月さんはどう関わっているんですか?
梅美沙 掛け声入れたよね。
紅月 去年の「secret MAIKO lips」でもでもやらせてもらったんですけど、今回も要所要所でガヤを入れさせてもらいました。
梅美沙 過呼吸になりそうになって(笑)。
──え、それはまたなんで?
紅月 「すくりーみんぐ」(原曲「Screaming」)で、ずっと「はっ! はっ!」っていうけっこう長い小節のガヤを入れたんですけど、やってるうちにだんだん声がか細くなっていって。
富士姫 「やり直しー!」みたいなね(笑)。
梅美沙 5回ぐらいやって具合悪くなったよね(笑)。
鳩子 もっとやったと思うっぽ! 普段あまり歌わないメンバーなので、レコーディング中にすぐ誰かが笑っちゃったりして、それだけで録り直しになっちゃって。
紅月 声のレコーディングっていうのがすごく新鮮で、BAND-MAIDさんではやらないことなのでめちゃめちゃ緊張したし、ボーカルってすごいなって(笑)。私たちは腹式呼吸もまともにできてなかったし。
鳩子 ガヤにそこまで腹式呼吸はいらないっぽ(笑)。
紅月 そういうのもBAND-MAIKOで経験できて面白いですね。
梅美沙 うん。
富士姫 このレコーディングのあとから私たち2人に対する眼差しが変わったんです。「やっぱ、ボーカルはすごいなあ」って。「恥ずかしいから止めて!」っていう(笑)。
紅月 ブレスのタイミングとかね!
梅美沙 「うまいね、さすがだね」って(笑)。
──掛け声はデータをコピペしてるんじゃなくて、すべてしっかり入れたんですね。
紅月 ちゃんとやりました!
鳩子 面白さを出すために途中で雰囲気を変えてほしかったりしたので、そういうことを伝えながらけっこうな回数を録りましたっぽ。
梅美沙 でも、紅月の声がデカいっていう(笑)。
富士姫 すごく通る声なんですよ。だから、マイクから一番離れたブースの隅に立って録ってもらいました。
鳩子 それでもよく聞こえるから、ミックスで紅月の声だけ下げてもらったりしましたっぽ。
梅美沙 私はマイクの目の前だったのに通らない(笑)。
──でも、それだけ苦労した甲斐あって、インパクトのあるものになりましたね。
鳩子 叶笑さんにも大きな出番を作らせてもらいました。「虎 and 虎」で「はんなりー」って声を。
富士姫 「One and only」では「Show me」って囁いてるところを、「はんなり」っていうセリフに変えて。
鳩子 京都のよさが出るような、舞妓さんがリラックスしてる感じを。
──あれは叶笑さんの声だったんですね。
叶笑 デモを作ってるときに、富士姫さんがそういう感じで歌うんだろうなと思ってたら、「ここ、叶笑さんが歌うからね」って。
鳩子 富士姫さんのメインのボーカルを録ってたときに思いついちゃったんですっぽ。「ここは叶笑さんにはんなりって言ってほしいっぽー!」って。
叶笑 でも、うまくできなくてけっこう時間がかかりました。「どうしてできないの!」って叱られながら。
鳩子 練習だとすごく上手なんですっぽ。
富士姫 でも、実際に録ると「違うっ!」ってなって。
叶笑 難しいですよねえ。
紅月 難しいですねえ。
鳩子 富士姫さん、途中で匙投げてましたっぽ。「もう、できないこれ」って(笑)。
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これをBAND-MAIDさんの歌に直すのは大変どす