AZALEA×畑亜貴|AZALEAはなぜこんなにも“尊い”のか?初対談で浮き彫りになる唯一無二の個性

「ラブライブ!サンシャイン!!」のユニット・AZALEAが6月23日に1stフルアルバム「We'll get the next dream!!!」をリリースした。

AZALEAはスクールアイドルグループ・Aqoursのメンバーより、松浦果南(CV:諏訪ななか)、黒澤ダイヤ(CV:小宮有紗)、国木田花丸(CV:高槻かなこ)の3名で構成されたユニット。清らかでどこか神秘的なユニットの雰囲気と、エレクトロミュージックを基調とした楽曲は、多くのファンを虜にしてきた。

1stフルアルバムにはシングル表題曲「トリコリコPLEASE!!」「GALAXY HidE and SeeK」「Amazing Travel DNA」などのこれまで発表してきた楽曲のほか、「We'll get the next dream!!!」「PHOENIX DANCE」「メタモルフィズム」という3曲の新曲が収録される。音楽ナタリーではAZALEAと、これらの新曲を含め「ラブライブ!サンシャイン!!」の楽曲の作詞を手がけ、彼女たちを側で見てきた畑亜貴の対談を実施。ユニットの特徴や新曲の解釈について語り合う貴重な機会となった。

取材・文 / 須藤輝

人類というよりは宇宙人っぽい

──AZALEAの3人と畑さんががっつりお話しすることって、今までありました?

高槻かなこ 今回が初めてだと思います。

小宮有紗 いつもライブを観に来てくださって、そのときご挨拶はするんですけど。

畑亜貴 ライブが終わったあとに「みんなすごかった!」とか「ステージだとずっと大きく見える」とか、毎回同じことを言っています(笑)。

諏訪ななか ただ、なかなかしっかりお話しできるほどの時間が持てなくて。

 だから今日はすごくいい機会だなと思って、ワクワクしています。

諏訪小宮高槻 私たちもです!

──AZALEAはAqoursから派生したユニットですが、皆さんの中でのAZALEAの位置付けって、言葉にできますか?

小宮 AZALEAは唯一、恋愛の歌も歌えるユニットかなって。Aqoursにも恋愛っぽい歌はあるんですけど、どちらかといえば友情と捉えられるものが多いんですよ。でもAZALEAはストレートに恋の歌を歌っていて、それが特徴だと自分では思っています。

諏訪 最初、この3人でAZALEAが結成されたときは和風テイストのユニットになると聞いていたんです。その要素は今のところ見当たらないんですけど(笑)、あるとき畑さんがAZALEAのことを“微熱系”のユニットと言ってくださって。それが自分の中ではしっくりきていますね。

高槻かなこ

高槻 AZALEAは音楽ジャンルでいうとEDMで、そういう曲に乗せて恋愛のことを歌えるユニットなんですけど、私の中では「もしAqoursの松浦果南(諏訪)と黒澤ダイヤ(小宮)と国木田花丸(高槻)がアーティストとして曲を発表したら……」という位置付けで。なので私としてはアーティスト活動をしている花丸を演じているような感覚です。

 AZALEAが結成された当初は、ユニットのカラーがまだかっちり定まっていないような印象があったんですね。なので作詞をするにあたっては「もしかして私の希望を入れてもいいのかな?」と思ったというか、私が勝手に3人から受け取ったイメージから入るしかないなって。そこで、3人に共通するものがあるとしたら、1つは透明感じゃないかと。もちろんかわいさもあるんだけれど、どちらかというと不思議さ、高貴さ、尊さみたいな感じが合うんじゃないかと思って、最初はそこをとっかかりにしました。

諏訪小宮高槻 おおお。

 でも、初めてライブを観たときに衝撃を受けまして。AZALEAに限らず、ほかのユニットのCYaRon!もGuilty Kiss(以下・ギルキス)も私の想像を超えた歌詞の解釈やエネルギーを返してくれるんですけど、AZALEAの場合はそのベクトルがまったく違っていて、もしかしたらもうちょっとエネルギッシュなものが似合うかもしれないと思ったんです。ただ、そこは単に言葉で強さを表すんじゃなくて、あくまで透明感を持ったまま、もっと不思議な方向に冒険できるんじゃないかなと。もはや人類というよりは宇宙人っぽいような。

小宮 「GALAXY HidE and SeeK」(2017年5月発売の2ndシングル)とか完全にそうですね。

高槻 「もしかして本当のわたしは 地球じゃないところで生まれたかも」だもんね。

 AZALEAなら太陽系を離れてもいいのかもしれない(笑)。

小宮 Aqoursの2ndライブ(2017年に開催された「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 2nd LoveLive! HAPPY PARTY TRAIN TOUR」)でAZALEAとして 「GALAXY HidE and SeeK」を歌ったとき、私たちは羽の付いた衣装を着てトロッコに乗っていたんですけど、私のことを拝むように胸の前で手を組みながら涙を流しているお客さんがいて。 

諏訪 尊い……。

小宮 そのとき確かに「私は人ではない何かになったのかな?」と思ったので、畑さんが想像された通りになっていたのかも。

AZALEAだけの魅力ってなんだろう?

──AZALEAは去る5月25日にデビュー5周年を迎えましたが、その活動においてターニングポイントになったような曲はありますか?

小宮 3rdシングルの「Amazing Travel DNA」(2019年12月発売)は大きかったと思います。この曲で殻を破れたというか……やっぱりCYaRon!、AZALEA、ギルキスが並んだとき、CYaRon!は“The アイドル”みたいな確立された個性があるし、ギルキスはギルキスでロック的な強さがあるじゃないですか。「じゃあ、AZALEAだけの魅力ってなんだろう?」って悩んだこともあったんですけど、「Amazing Travel DNA」で「ああ、これか!」みたいな手応えを私は勝手に感じていました。

諏訪 有紗も言っていたように、ほかの2つのユニットが個性的というか、個性が強すぎるんですよ(笑)。だから元気なCYaRon!とカッコいいギルキスと比べたら、AZALEAはどこかふわっとしたところがあって。でも「Amazing Travel DNA」に収録された3曲は私もすごく気に入っていますし、このシングルでやっとAZALEAの形ができたかなと思いますね。

小宮 もちろん1stシングルも2ndシングルも全曲お気に入りなんですけど、インパクトという面で、例えば3つのユニットが出演するライブでギルキスが最後に出てくると全部持っていかれちゃうみたいな感覚がどうしてもあって。そういうコンプレックスじゃないけど、「負けたくない」という気持ちがある中でできた3rdシングルだった気がします。

高槻 AZALEAはライブで「イエーイ!」みたいにはっちゃけるというよりは、楽曲の中で儚さとかを表現していくユニットでもあるので、ライブでの立ち位置や順番を気にしたりしていたんです。でも、ちょうど「Amazing Travel DNA」のリリースのタイミングでAZALEAの単独での1stライブ(2020年3月に開催予定だった「AZALEA First LOVELIVE! ~Amazing Travel DNA~」)が決まって。振り付けに今までにはなかった要素を取り入れたりして、リハーサルを重ねる中で「3人ですごいものを見せよう!」とAZALEAとして気持ちが1つになったし、そこで進化したなというのはすごく記憶に残っています。

 私は、最初のライブを観たときからAZALEAの個性は確立されていると思いましたよ。

諏訪小宮高槻 本当ですか!?

 3人は自覚していなかったのかもしれませんけど、この3人が集まってパフォーマンスしているときにしか生まれない素敵なアトモスフィアは当時からすでにあって。それがどんどん精度を増してきたんだと、私は感じています。

──そのアトモスフィアが、畑さんの書く歌詞にも影響しているわけですよね?

 言葉は穏やかだけど、いろんな冒険ができるのがAZALEAかなって。その冒険の次元がほかのユニットとは違うというか、例えば旅に出るのであれば物理的に移動するだけじゃなくて、観念の世界にまで行けるみたいな。

諏訪小宮高槻 すごい(笑)。

 なので歌詞にちょっと哲学的な要素を混ぜているというか、「自分の存在とは? あなたの存在とは? そして私たちが出会った意味とは?」みたいなことを内包できるユニットがAZALEAだと思っていて。それを踏まえたうえで、ときめきとか微熱とか、揺れ動く感情を乗せるんですけど、そんな歌詞を3人が歌うとまたちょっと違った熱が生まれてくるんですよね。

小宮 AZALEAの歌詞には「羽」や「飛ぶ」というワードが多いんですけど、私たちにはそういうイメージがあるんですかね? というのを前からお聞きしたくて……。

 あります。「飛ぶ」といっても、成層圏の上まで行っちゃう感じ。AZALEAなら酸素がなくても大丈夫なんじゃないかなって(笑)。

高槻 AZALEAの歌詞は語尾がですます調になっていることも多くて、自分としては花丸がまだ知らない世界に足を踏み入れるような気持ちで歌っている感じがしますね。

諏訪 やっぱりAZALEAの歌詞はAqoursとは題材にしているものが全然違うので、それぞれ別の世界として楽しめているところがありますね。でも、いつも「どうやってこの歌詞を思いついたんだろう?」って思います。

小宮 畑さんは予言者だと思う。ある曲を1年後とかに歌ってみると「あれ? 今の私たちってこの歌詞に追い付いたような状態なのかな?」と思ったり、ライブをやってみて初めて芽生えた感情がすでに歌詞として書かれていたり。「なんで知ってるんだろう?」と思ったことが何回もあります。

 それはね……内緒(笑)。

言いたいことを全部言ってくれる

──ここからはアルバムの新曲について伺っていきます。先ほど「Amazing Travel DNA」で「殻を破れた」というお話がありましたが、今回はさらに分厚い殻を破ることに成功したのでは?

小宮 1曲目かつ表題曲の「We'll get the next dream!!!」は、テーマが“ダークヒロイン”なんですよ。それ自体はプロデューサーさんの発案だったんですけど、衣装とかに関しては私たち3人のアイデアも取り入れてもらったので、それも楽曲にも反映してくださったんだなと思いました。

高槻 ダークヒロイン案に対しては、みんな満場一致で「いいですね!」という感じだったよね。

小宮有紗

小宮 そのうえで、AZALEAだけの単独ライブのステージを構成することになったときに、やっぱり衣装もいろんなバリエーションがあったほうが楽しいと思うんですよ。例えば「Amazing Travel DNA」が白でスタイリッシュなデザインだったから、それとは対極に位置するようなものにしたいとか、2人と話し合って。

諏訪 衣装はほぼ有紗の案です。衣装にこだわりがありすぎるので(笑)。

──新曲の話から少し逸れてしまいますが、仮に衣装担当が小宮さんだとして、3人の役割分担みたいなものはあるんですか?

小宮 歌で引っ張ってくれるのはかなこかなって思います。

高槻 みんなけっこう自由じゃない? 役割とかある?

諏訪小宮 うーん……。

──特になさそうですね。

小宮 とにかく私がいろんなことをめっちゃ言います。それに対して2人は納得してくれたら笑顔で「うん」と答えてくれるし、違ったら「違う」という判断をしてくれる。

高槻 おすわ(諏訪)はいつも冷静に見てくれてるよね。

諏訪 有紗が一番よくしゃべるんですけど、だからといって有紗が全部決めてるわけじゃなくて。あくまで提案型というか、最終的には3人で決を採るみたいな。

小宮 中止になっちゃった1stライブのセットリストを決めるときも、初回の話し合いで私が欠席しちゃったので2人が中心になって決めてくれました。

高槻 「有紗だったらこう言うかな」っていうのがなんとなくわかるんです。それに、有紗が言うことはだいたい私たちの言いたいことと一緒なので困ることは全然ないし、むしろありがたいなといつも思っています。たまにスタッフさんから「2人の意見も聞きたいんだけど」と言われるんですけど(笑)。

小宮 そう。「有紗うるさい。ちょっと黙ってて」みたいな。

高槻 でも、本当に有紗が私たちの言いたいことも全部言ってくれるので、私たちは言うことがないからしゃべらないだけという(笑)。

諏訪 そんな感じです(笑)。

みんな同じ気持ちだよ

──新曲の話に戻しまして、特に1曲目の「We'll get the next dream!!!」はコロナ禍という状況が反映された歌詞だと感じました。

 そうですね。最初に、発注メールを引用すると「ダークヒロインの側面を初めて垣間見せるAZALEA」というオーダーをいただきまして。ただ、私の考えるダークヒーロー / ダークヒロインには手段を選ばず結果を求めるような行動原理があるんですけど、手段を選ばない3人の姿が思い浮かばなかったんです。「いや、話し合いで解決できるんじゃない?」とか思ってしまって。

諏訪小宮高槻 あはは(笑)。

 じゃあ、どうしたらAZALEAらしくダークな情熱を見せられるんだろうと考えたときに、「何があっても強くなりたい」という気持ちの奥に「誰かを守るために」という動機があれば成立する気がしたんですね。その立ち位置さえブレなければ、今までとは違う激しさに着地できると。ダークヒロインだからといって怖くなるんじゃなくて、やっぱりAZALEAもみんなに会いたいはずだし、ライブができなかった悔しさは私もすごく感じているので、それを魂から歌えるような歌詞にしたいと思いました。

諏訪 まさにこの「next dream」はライブのことだと、タイトルを見た瞬間に思いました。私たちはまだ一度も単独ライブができていないので、それについて歌った曲なのかなって。

小宮 この曲のレコーディングをする直前に、5月のAqoursのライブ(静岡・つま恋リゾート 彩の郷で開催予定だった「ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 5th Anniversary LoveLive! ~LET'S GO WONDER TRIP~」)の延期が決まったんですよ。それもあってレコーディングで悔しさを込めすぎて、ディレクターさんに「有紗、もうちょっと柔らかくてもいいよ」って(笑)。

諏訪 最初に録ったのが有紗だったから、私もその意志を受け継いで。

小宮 伝わった?

諏訪 うん。すごく。

高槻 冒頭のセリフパートが特にすごかった。

小宮 そこは本当はメロディに乗せて歌う予定だったんですけど、せっかくトップバッターで録らせてもらうのでいろんなパターンを試したんですよ。その中でぴったりハマったのがセリフとして語ってしまうパターンで。しかもテストで録った一発目が採用されたので、より悔しみがこもっていたかも。

高槻 戦隊モノっぽかった(笑)。

諏訪 そうそう(笑)。

 私も完成した曲を聴いて「みんなも本当に悔しいんだな」と思いました。

小宮 やっぱりその悔しさはどうしたって歌に滲んでしまうというか、それを乗り越える歌でもあるし、たぶんライブで歌ったらめっちゃカッコいいと思うんですよ。

──「We'll get the next dream!!!」はビッグルーム系のゴリゴリのEDMですしね。あくまで個人的な印象ですが、AZALEAがより本格的なダンスミュージックへ踏み込んだという点でもインパクトがありました。

小宮 この曲なら「この子たち、本当にライブできなくて悔しかったんだな」って絶対に伝わる。きっと私たちを応援してくださっている皆さんも同じ気持ちだと思うし、ライブじゃなくても、挫折とかを感じている人を奮い立たせるような、強い意志を持った歌になったんじゃないかなって。

高槻 今まで私たちは「つらい」とか「悔しい」という言葉を曲中で言うことがなかったし、そもそもそういう言葉をみんなに届けていいのかわからない部分もあったんです。そういう意味でもこの曲はチャレンジだったんですけど、それができたことで有紗が言うように「みんな同じ気持ちだよ」と再認識できると思います。

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度重なる“中止”