Awkmiu「アロー」インタビュー|異なる道を歩んできた4人の出会いと、これから始まる希望の物語 (2/2)

深夜のレコーディング

──バンドでのアレンジはスムーズに進みましたか?

シキ そうですね。全体的に「なんの疑いもなくこうなった」という感じで、そんなに行き詰まらずに進んだ覚えがあります。普段曲作りをするときは、4人で同じ景色を共有するのが難しいなと感じることもあるんです。だけど今回はアニメの画があったおかげで最初からみんなで同じ景色を思い描けていたから、アレンジもスムーズに進んだんだろうなと今振り返って思います。

Awkmiu「アロー」ミュージックビデオより。

Awkmiu「アロー」ミュージックビデオより。

──アレンジやレコーディングで意識したことをそれぞれ教えてください。

Aki 景色の美しさやみずみずしさ、冒険が始まるときの高揚感をピアノでどう表現しようかと考えていきました。その結果、イントロには美しさを象徴するフレーズを入れていて。サビのところも、伴奏ではあるけどちょっとメロディアスにして、何かが始まる予感を表現しています。間奏のソロに関しては、前向きだけど荒々しくなりすぎず、美しさを保ったままワクワク感を表現できればと考えましたね。

関根 ドラムはできるだけ音数を減らして、シンプルなビートにしています。景色を描くのはほかの楽器に任せようという気持ちがありました。

カヤ シンプルと言いつつ、米哉さんのドラムってけっこう特徴的なんですよ。サビの四つ打ちもちょっと独特で、前に引っ張られる感じがある。そういう米哉さんならではの持ち味に影響を受けながら、ベースのフレーズを考えていきました。音の切り方などで弾むようなニュアンスを出しています。

──ボーカルのレコーディングはいかがでしたか?

シキ 歌録りが22時半とか23時に始まったんですけど、深夜で気持ちが高ぶっていたのか、最初のテイクではブチ切れたような歌になっちゃって(笑)。

関根 ブースの外から言ったんですよ。「怒ってるよー」って(笑)。

シキ 自分では気付いていなかったんですけど、そう言われたので聴いてみたら本当にすごかったです(笑)。だから“力まない”というテーマが自分の中にありました。そのときのレコーディングで気付いたんですけど、前向きな曲を歌うときは力まないほうがいい歌になるんですよね。フルパワーでガツガツ来られるとお腹いっぱいになっちゃうから、一歩引いて、遠くを見据えられているような歌い方をしたほうが聴く人に届くんだと、この曲から学びました。

塩味にすることが多くなった

──2曲目の「Mr.Crier」と4曲目の「1089」は改名前からあった曲だそうですね。

シキ はい。最初に話したようにこの4人に固まってから音楽的に大きく変化したんですけど、だからこそ、現時点のAwkmiuのマックスの状態を聴いてもらいたいという気持ちが私たちは強いんですよ。前のバンド名の頃の曲に対して「ちょっと稚拙だな」「今ならもっとよくできるはず」と思う部分もあるので、それなら今の自分たちでアレンジやレコーディングをし直そうという話になりました。実は「Mr.Crier」と「1089」だけじゃなくて、3曲目の「そこから」も前からあった曲なんです。

関根 「Mr.Crier」と同じ頃からあったものの、リリースしていなかったし、ライブでも一度もやっていなかったんですよね。僕が加入したときに「じゃあ新体制初のワンマンでやろうよ」という話になったんですよ。それで改めて作り直してみたら、「めっちゃいいじゃん!」ってなって。

シキ 前までは、曲を生かしきる力が自分たちになかったんでしょうね。

──以前と比べて、Awkmiuの曲作りはどのように変化したと感じていますか?

関根 「Mr.Crier」はライブのアレンジをそのまま持ってきたような感じで、音もあんまり重ねていないし、バンドから自然と出てきた音をそのままパッケージしているんですよ。だから武骨になったなと思うし、例えるなら……前は濃いタレを付けて肉を食べていたのに、今は塩味にすることが多くなった、みたいな?

シキ 確かに。前までは、味を濃くすればするほどいいと思っていたけど、今は、音楽的にいいものは塩味で十分なはずだという感覚があるかもしれないです。

カヤ いったん調味料は置いておいて……ということができるようになったよね。

Aki 僕は、米哉さんが新しく入ったことによってバランス感覚がよくなった気がしています。必要なものと必要じゃないものを取捨選択できるようになったというか。

関根 たぶん、塩味にしたことによって何が必要で、何が不必要かが見えるようになったんだろうね。で、必要じゃないものを全部取っ払った結果、その曲のシステムがまた見えやすくなるという。そうやってより洗練された曲を作れるようになりました。

邦楽のド真ん中であることは意識しています

──5曲目の「dice」の歌詞には、シキさんの死生観が色濃く表れているように思いました。死は多くの人にとって恐怖であり避けたいものですが、「解放」という単語が象徴しているように、この曲ではネガティブなものとして描いていないように感じます。

シキ 私も大切な人が死んでしまったら悲しいし嫌だなと思いますけど、「自分にとって、死ってなんだろう?」と考えたときにネガティブなイメージが浮かばないんですよ。というのも、生きていると自分を縛るような物事がたくさんあるじゃないですか。例えば、執着とか。死を迎えればそういうものから解放されるんじゃないかと想像したら、死は終わりであると同時に始まりであって、その後の世界が広がってるんだろうな、と。「解放」は死に対して何か想像をしたときに自分の中で一番当てはまるワードです。

──そのうえで「君とならどんな終わりだって光るよ」と歌っていますね。

シキ 相手がどう思っているかはわからないけど、無理矢理手を引っ張って、一緒に街を抜け出しちゃうようなイメージです。だからちょっと強引に希望を描いているような曲ですよね。「dice」の“君”は単数をイメージしているんですけど、いろいろなしがらみから解放されて、ユートピアのような場所で、大切な人と2人きりになるというシチュエーションはみんなきっと憧れていると思います。

──でも実際に死ぬときは1人であるケースがほとんどですよね。

シキ そうですね。だからアンチテーゼなんだと思います。結局みんな1人で死んでいくし、親しい人とどんなに距離が近くなっても、やっぱり絶対に知らないことがある。だからといって、全部を話したらいいというわけでもない。それってきっと、すごく寂しいことです。だけど、「寂しいけど、それだけじゃないんだよ」と歌っていくことが音楽の役割だと私は思っていて。この曲では死生観を歌っていますけど、それ以外のテーマの曲に関しても、希望を歌い続けたいという気持ちは強いです。

Awkmiu「アロー」ミュージックビデオより。

Awkmiu「アロー」ミュージックビデオより。

──最後に、今後の活動について聞かせてください。「こういうバンドになりたい」というビジョンや将来実現させたい目標はありますか?

Aki 老若男女、国内外問わず、可能な限り多くの人に自分たちの音楽を届けたい、そして好きになってもらいたいというのが一番の目標です。さらに付け加えるならば、日本を代表する音楽アーティストになりたい。

シキ いいぞ、いいぞ!

Aki (笑)。個人的にはJ-POPであることに強いこだわりを持っているんですよ。

シキ そうだね。できるだけ多くの人に届けたいというのは全員共通の目標だし、邦楽のド真ん中であることはすごく意識しています。まずは日本の人たちにちゃんと知ってもらって、その先で海外の人たちにも聴いてもらえたらうれしいですね。

関根 制作はたくさんさせてもらっているもののライブは始めたてなので、いっぱいやりたいですね。やっぱり自分としては“バンドをやる=ライブをやる”という感覚なので。カヤくんも、ライブがやりたいっていう気持ちは強いんじゃない?

カヤ そうですね。僕は、自分がいいと思う曲を演奏して、いろいろな人がそれを聴きながら楽しんでいるっていうのが一番やりたいことで、夢なので。

関根 ライブも、国内外問わずできるようになれたらという野望があります。

プロフィール

Awkmiu(オークミュー)

2018年に魅惑ハレーションという名前でバンドを結成。2022年5月よりシキ(Vo, G)、Aki(Key)、カヤケンコウ(B)、関根米哉(Dr)の現体制で活動を行っている。2023年2月にバンド名をAwkmiuに改名。英語のAwkward(不器用な)とフランス語のmieux(よりよい)を掛け合わせた名前には、「不器用ながらもより良い音楽を届けたい」という思いが込められている。2023年8月にアニメ「ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~」のエンディングテーマ「アロー」を表題曲としたEPをリリースした。