Awkmiuが新作EP「アロー」を8月23日にリリースした。
本作の表題曲は、テレビアニメ「ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~」のエンディングテーマ。アニメの主人公・ライザたちの希望に満ちた冒険を描いた楽曲は、今年の3月にバンド名を改め、新たなスタートを切ったばかりのAwkmiuの軌跡も想起させる。
Awkmiuは幼少期から演劇の世界で活躍してきたシキ(Vo, G)、クラシックやジャズをルーツに3歳からピアノを弾くAki(Key)、高校の文化祭をきっかけにバンド活動に没頭するようになったというカヤケンコウ(B)、ミュージシャンとしてOfficial髭男dismらのサポートを務めた経験もある関根米哉(Dr)の4人組。音楽ルーツもバンド加入までの道のりもバラバラのメンバーがどのように出会い、バンドを始めるに至ったのだろうか? 音楽ナタリーではAwkmiuに初のインタビューを行い、結成の背景やEP収録曲の制作経緯について話を聞いた。
取材・文 / 蜂須賀ちなみ
だったら俺入るけど、どうする?
──Awkmiuはどのように結成されたバンドなんですか?
シキ(Vo, G) カヤくんと私は大学の同期かつサークルも一緒で、もともとカバーバンドをやっていて。彼から「外のバンドを一緒にやりませんか?」と誘ってもらいました。それが大学1年の秋だったと思います。当時は別のドラマーとギタリストもいました。
──Akiさんと関根さんが加入したのは2022年5月とのことですが、もともとAkiさんはマネージャーで、関根さんはレコーディングエンジニアだったそうですね。
シキ そうなんです。彼(Aki)は同じ大学の3つ上の先輩で、マネージャーと言いつつ、キーボードもめちゃくちゃ弾いてもらっていて。
関根米哉(Dr) キッチンで入ったはずなのに、ホールもやらされてるみたいな(笑)。
Aki(Key) そんな感じでしたね(笑)。
シキ それなのにメンバーじゃないという状態が長く続いていたんですけど、米哉さんが加入することになったので、同じタイミングで正式に加入してもらいました。
──関根さんはどういう経緯で加入することになったんですか?
シキ 結成から今まで何度かメンバーの加入や脱退があったんですけど、カヤくんと私とドラマーの3人だった2021年の10月頃に、ドラマーが抜けることになってしまい……。
関根 カヤくんが電話をくれたんだけど、そのとき超しょんぼりしていたよね。
カヤケンコウ(B) そう。僕はバンドを続けたかったから。
関根 だからその場で「だったら俺入るけど、どうする?」と伝えました。
カヤ 僕らからするとまさかの展開ですよね。米哉さんは僕らよりもひと回り近く年上の先輩なので、そんなふうに言われるとは思っていなくて。びっくりしたので、「一度メンバーに相談させてください」と伝えたのを覚えています。
──ということは、関根さんはバンド解散の危機を救った救世主なんですね。
シキ そう。なんかカッコいいですよね。この話をするたびに悔しくなるんですけど(笑)。
関根 (笑)。僕の動機はシンプルで、「いいバンドなんだから続けたほうがよくない?」と思ったんです。この4人はみんなルーツがバラバラなんですけど、いろんなジャンルの人たちが集まっているのに独特のバランスで成り立っているのも、みんな真面目で勉強熱心で音楽レベルが高いのも、めっちゃいいなと思っていて。でも3人はバンドを続けることに対して、初めはそこまで前向きじゃなかったよね?
シキ 正直「バンドはもういいかな」と思ってました。
関根 だけど「いやいや、ちょっとずつでいいからスタジオに入ってみようよ」「1カ月に1回でいいからさ」とスタジオに連れて行ったんです。それで一度スタジオに入ってみたら、3人ともけっこうノリノリで「楽しかったー!」って感じだったから、「やっぱり続けようよ」と説得して。
シキ それで今に至ります。その節はありがとうございました。
関根 こちらこそありがとうございます。
“リズム先”の曲作り
──音楽のルーツがバラバラという話でしたが、どんな音楽から影響を受けてきたのか、お一人ずつ教えていただけますか?
シキ 私は舞台音楽を聴いて育ちました。「Awkmiuの曲はスケールが大きい」と言ってもらえることが多いのはその影響だと思ってます。J-POP、J-ROCKを聴き始めたのは15歳のときで、舞台音楽とは全然違う音楽だから「こんな世界があるんだ!」とびっくりしました。特に米津玄師さんとRADWIMPSの曲は衝撃的でしたね。特に好きなのは椎名林檎さんや東京事変。中でも東京事変における椎名林檎さんのボーカリストとしての圧倒的な存在感、「この人が真ん中にいる限りこのバンドはブレない」という雰囲気は、簡単に真似できるものではないけどすごく尊敬しています。
Aki 僕は3歳の頃からピアノを弾いているんですが、小さい頃にやっていたのはクラシックで、中でもショパンやラフマニノフが好きでした。大学に入ってからはジャズ・フュージョンサークルに入って、上原ひろみさんやチック・コリア、ジェフ・べックあたりを聴いていましたね。J-POPで言うと、B'zやL'Arc-en-Ciel、GLAYといった90年代の音楽が自分の根っこにあると思います。特にハマったのはB'zで、聴き始めたのは中学生の頃でしたが、今でもずっと好きです。
関根 僕は「ドラムを叩きたい」と思うよりも先に「パーカッションってカッコいいな」と思った記憶があるんですよ。斉藤ノヴさんのような、ロックやファンクの楽曲を叩いているパーカッショニストを見て、いいなと思って。だけどコンガのようなパーカッションを1人で練習するのは難しいからドラムを叩き始めて、高校ではマーチングバンドや吹奏楽も経験して。この経歴はドラマーとしてはちょっと特殊かもしれません。「ドラマーというよりかは打楽器奏者としてバンドの中で叩けたら」と思った結果が今のスタイルですね。日本人で一番好きなドラマーは刄田綴色さんです。僕も東京事変が好きなんです。
カヤ 僕のルーツはマイケル・ジャクソンですね。小4のときに映画「THIS IS IT」が公開されたんですよ。親がマイケルを好きだったので一緒に観に行ったら、「こんなスーパースターが存在していたんだ」と圧倒されて。「バックダンサーになりたい」「裏方としてマイケルを支えたい」と思って、ミュージックビデオを観ながら見よう見まねで踊っていました。当時は音楽を始める前だったんですけど、ベースを始めてから改めてマイケルの曲を聴き直したら「やっぱりカッコいいな」と思って。それからバックバンドで演奏しているベーシストに憧れるようになりました。
シキ 今の話、初めて聞いた。カヤくん、踊ってたんだ!
関根 スゲー言いづらいけど、俺も小っちゃい頃にマイケル・ジャクソンの映像を観ながら踊ってたらしくて……。
カヤ そうなんだ!
シキ いつかライブで2人で踊りなよ! ベースとドラムがなくても演奏できる曲を作っておくから。
カヤ 曲なくても大丈夫。MV流してくれたら勝手に踊るから。
関根 え? 俺は絶対にやりたくないからね?(笑)
──今年2月にバンド名を魅惑ハレーションからAwkmiuに変えたんですよね。
シキ はい。今の4人に固まってから音楽的にも精神的にも大きく変化したので、心機一転、バンド名も変えました。
──現状各曲のクレジットは、作詞はシキさん、作曲はシキさんとAwkmiu、編曲はAwkmiuとなっています。普段どのように曲を作っていますか?
シキ 最初に私がピアノと歌だけのデモをワンコーラス分作って、それをみんなで聴いてもらい、みんながいいと思ったデモをピックアップして肉付けしていくケースがほとんどです。そのうえで、うちのバンドの作曲活動はちょっと変わってるところもあるんですよ。
──というと?
関根 シキちゃんが曲を作る前に、僕が「こういうのはどう?」というリズムを提示しているんですよ。作曲する人の中にはリズムサンプルやシーケンスを流しながら曲作りする人も多いですが、うちの場合は、僕がいろいろなパターンで叩いたドラムのサンプルをシーズンごとにシキちゃんに送っていて。
シキ 私は送ってもらったドラムのサンプルをもとに曲を作っているんです。
──なるほど。メロディから書き始めることを曲先、歌詞から書き始めることを詞先と言いますが、Awkmiuの場合は“リズム先”で、しかもそのリズムを作るのは別のメンバーだと。
シキ そうですね。ピアノを弾きながら曲を作り始めるとやっぱり自分の手癖だけになっちゃうけど、最初から違う要素があることで曲の幅が広がる気がします。
一緒にいた日々は消えない
──では、ここからは収録曲について聞かせてください。表題曲の「アロー」は、テレビアニメ「ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~」のエンディングテーマです。どんな曲にしたいと思いましたか?
シキ 夏の日差しとか水の質感とか自然の描かれ方がすごくきれいな作品なので、主人公のライザたちが見ていた景色を曲を通して聴いた人に感じてもらいたいと思いました。あとは主人公が仲間と一緒に何かをやることで前へ進んでいくような物語なので、前向きな曲にしたいとも思いましたね。
──「震えた足音でここまで来た 色違いの同じ勇気を見せ合った」「強くなった あなたが笑うから 思い出した 揺るがない始まりを」など、紆余曲折を経て再スタートを切った皆さんを彷彿とさせる歌詞が多いように感じました。アニメの物語にバンドの物語を重ねていたところもありましたか?
シキ 周りの人たちと同じ方向を見ながら進んでいくというのはバンド活動にも重なるので、ライザたちを思いながら書いた曲であると同時に、自分たちのこれからを見据えながら書いた曲でもあります。物語の最後、ライザたちはそれぞれの道に進んでいくんですけど、仲間たちと離れ離れになっても、島で見てきた景色や経験したことは絶対になくならないと思うんですよ。あとで振り返ったときに、島での思い出はきっと眩しく光って見えるはずだ、と。私はまだバンドをやめる気はありませんが、メンバーだけではなくスタッフさんたちも含めて、関わってくれている人たちと一緒にい続けることはきっとできません。だから、やがて別れる日が来たときに「だけど一緒にいた日々は消えないよね」とちゃんと思えるような曲にしておきたかったんですよね。
──Dメロの祝祭感あふれるアレンジも素敵です。
関根 これは完全にシキワールドですね。シキちゃんの脳内の世界には人がたくさんいて、にぎやかなんでしょ?
シキ そうだね、たくさんいる。複数人がギュッと集まっているというよりは、横並びになって同じ方向を見ているような画が最後に欲しかったんです。だからコーラスをたくさん重ねたりしているんですけど、これはAwkmiuではよく使う手法ですね。祝祭のイメージというのは、この曲に限らず常に強くあると思います。
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深夜のレコーディング