楽曲を手がけるDiggy-MO'が語る!「BanG Dream!」発のヘヴィメタルバンド・Ave Mujicaの世界 (2/2)

Diggy-MO'によるAve Mujica「ELEMENTS」全曲解説

01. Symbol I : △

先ず、このエレメントには「再生」の意味があるので、以前までの楽曲にも共通したコンセプトを受け継いで幕開けする形が美しいかなと思って書き出しました。
なので、一番最初に作った「黒のバースデイ」や、破壊と創造を描いた「素晴らしき世界 でも どこにもない場所」「Angles」との関連性も探ることができるようになっています。

各エレメントに対して精霊というものが存在し、その中でこの火を司るエレメンタルは「サラマンドラ」という火の竜なのですが、曲によっては、そういうものもさりげなく入れ込んでストーリーを展開したいなと考えていました。

まさしく中世ヨーロッパ的な背景を感じさせながら、その不条理な世界に「領域」を越えて挑むあからさまな正義の怒りと、それに対するリスク、引き換えの犠牲、この世の残酷な真実、みたいなお話を作れたらと。

「己は悪魔」という側面で。
幸せな結末は望めない革命、ある意味、反乱や革命家自体を「悪魔の化身」と定義することもできる。
そういう「穿ったものの見方」みたいな角度も込みで暴いていけたらと。

ストーリーの裏付けとして、キリスト教など宗教的性質も背景に入れました。
「領域を越える = 神に近づく」、これは真実を歪める行為であり、神の如くになろうとしたその高慢さゆえ異端であると解釈され、悪魔同等の裁きを受けるということで「焼けてくロザリオ 逆巻く炎」と。

しかし、時代時代でのそういう存在と犠牲の必然、その正義を真っ直ぐに捉えるならば「導く者」としての側面も。

ただ、前述したようにやはり「近づいた、行き過ぎた」、自分はそうした異端であり、そしてそれもそもそも覚悟の上でのこと、
訪れる審判の日(処刑の日)、死の世界より迎えに来た使いの者に「さぁ、私を連れてゆけ」と、潔くその死を受け入れることとなる。

そんな感じです。
人は大切なものを失いたくなくて闇堕ちするもの。

変わらぬ世界、受け入れられないであろうあからさまな正義の剣を掲げて、その怒(いか)れる魂ごと自ら悪魔の化身となってリスクを覚悟で飛び込んだならば、真実は、現実の中で残酷なまでにあらぬ方向を向き始める。
そうして「美」やら「伝説」やらというものが創り上げられていき、そして、世の中というのはそういうものを、ただ「傍観」したり、はたまたそういうものに対して、卑しくも「悦び蠢き出す」ものだ。
という、わりとリアルな世界を描いていて、そこにメッセージを持っています。

02. Symbol II : Air

シェイクスピアの「テンペスト(嵐)」をイメージ作りのきっかけに。
なので、第一声を「この風が そう ‘嵐’ を呼ぶわ」にしています。

この物語に登場するキャラクターの中に「エアリエル」というシルフ(空気、風の精)がいて、プロスペローという主人の命令を受けていろいろに魔法を使うのですが、、
その辺りを、一番最初のキャッチーなヴィジョンにしています。

しかしながらこれは、オリジナルの物語が持つ本来のテーマやメッセージ性からは離れて、また違った視点のストーリーに仕立てています。
世の中に呆れ、己に呆れ、流されながら生きる中、常に違和感のようなものをぼんやりと抱えているというふうに、
自己の喪失、虚無感を描いています。

2番では風刺要素を強調して進んでいき、最後は、物語の性質は違いながらも、プロスペローのセリフ‘この大地にあるものはすべて消え去る’を借りて問い掛けをする形でオチを。

元々テンペスト自体は、おそらくルネサンス思想を反映させて書かれたものだと推測できるので、ヨーロッパ文明背景の関連性としてこういうものを扱いながらまた異なる展開を見せるも一興かなと。

曲はスウィングなので、テーマ性に対して聴こえはカラッとしているのも、意外と良いバランスになったかと思います。

03. Symbol III : ▽

水を司る精霊「ウンディーネ」の語源でもある「波」をサビのフレーズに。
「月」と「地球」を対比させて、達観的な視点で美しい描写を、また、官能的な世界観を描きたかったというのもありました。

敢えて対極の男性性の「火」を登場させ、女性性である「水」の神秘をより深く大きなものに。

内容として最初に、
「月からの使者がこの地に降り立つ」ところから始まる物語を作りました。
そして、この「月からの使者」というのが、例えば高次元的な存在で、女性宮を司っていて~、みたいに設定しています。

高次元の存在にとっての人類の歴史というのは瞬間的なものと捉えて、
それで、この地上の、つまり3次元の「Human Race」を見つめ、かつて経験したその話を、その後彼女がさまざまな追憶を辿るように、自ら「かたりべ」として語っている、というふうにしています。

あとは、時代の前後含め複合的なものもたくさんあって、例えばクリムトの「エロスと死の共存」のようなわりと近代寄りのアート性を取り扱ったり、または、タロットカードのスートが示すようなイマジネーションもあったりします。
そういったさまざまなテーマの組み合わせを探ることで、さらに Ave Mujica的マナーへと昇華できればいいなと考えていました。
「欲望」「緊張」、または「大宇宙」というような、あからさまな言葉を置いたのも狙いです。

女性性が男性性を包み込んでいく大きな感じ。
その「性が重なる」という直接的な意味と同時に、もう一つ、宗教のルーツも多面的な概念で組み込んでいます。
男性宮の火の「△」と、女性宮の水の「▽」が重なると、「六芒星」のシンボルになる、つまりこれは「大宇宙」を意味するので、最初のコーラスでは、そういった宇宙のコンプリートリーな因果、秩序のようなものも表現しています。

そして最後のパートでは、でも最終的にはそういう「大宇宙」のような計り知れない大きなものではなく、ただその ‘生’ を生きる「最も小さな世界」を大切に描きたかったので、それを感じることができるように、ふと、ただ地上から見上げるこの「大空」になると。

なので、サイドストーリーで「生命の讃歌」の意味合いも込めながら、本来の「愛の歌」を描いています。

レコーディング時に使用された「Symbol III」の歌詞資料。Diggy-MO’によってブレスポイント案が書き込まれている。

レコーディング時に使用された「Symbol III」の歌詞資料。Diggy-MO’によってブレスポイント案が書き込まれている。

04. Symbol IV : Earth

ヨーロッパ文明の背景の一環として、ヘレニズムの要素も踏襲してルーツは遡ります。

大地の女神「シアリーズ(デメテル)」の目線で物語を書きました。

ただ、これは作詞のテクニックとしてなのですが、導入部(1A, 2A)で、シアリーズがこの地を俯瞰で語るような「ずらし」を入れたりしているので、時に女神の語り口に聴こえたり、また時には大地そのものが語りかけてくるような感覚にさせられたりと、一人称が多面的になり複雑化してきこえる、そこは狙いです。

設定として、最初の限られた数小節で「そもそも初めに何について話すのか」や「シチュエーションそのもの」を、できるだけ説明的にならないように提示しておいています。

以降は、命を繋いでいく美しさや託された希望、生命に語りかけるような地母神としての包容力、豊かさを描いています。

また、自分としては、1曲の中でいろいろな色を感じられるようにしたり実際使ったりしたのは、とても珍しいことでした。
通常はそういった混在はブレるので極力避けるのですが、この大地の物語では、そこを丁寧に作り込んであげると実に美しい世界観ができると確信していました。
虹の女神「アイリス(イリス)」の登場で、その恵みが大地に降り注がれるシーンを描いたDパートでは、とても顕著です。

「神話」の要素を持ちながら「子宮回帰」「Rebirth」がテーマです。

05. Ether

「火、空気、水、土」の 4つは「月より下の世界」、そしてこの「エーテル」のみ「月より上の領域」という概念を、実際歌詞の中で明らかにすることによって、シリーズ一連の中でこの 5番目だけは「特別なもの」であることを表現しました。

内容としては、
「真実の光」という定義で、Ave Mujicaの世界観と、このストーリーのかたりべに、自分の思想をとてもシンプルに強く投影させています。

「一葉の銀河系」という第一声は、「セフィロト(生命の樹)」をイメージして自分なりに命のエネルギーというものを詩的に解釈した表現です。
やはり関連性に於いて神話や宗教のルーツ、概念でこういったフレーズを作り、最初に配置してあげることで、繊細、且つ、緊張感のある始まり方を演出しています。

そして、生きる中に望み、描き、「生きる」という幻影を体験していく。
「でもね、自分らしさに拘らないで。本来の生き方を生き始めたとき、運命は開かれる」というお話です。
月より下に流転する生命を、静寂が見つめ、そしてその静寂が真理を説いていく。

また、エレメントシリーズの終わりの章として、これまでのすべてを始まりに還す意味合いを、曲の一番最後のパートに設定しました。
「循環し調和が訪れるとき概念が無くなる」
巡り巡る輪廻と因果を魂が悟り、次第に一面のハイライトに溶け込んで、やがては消えていくイメージです。

プロフィール

Diggy-MO'(ディギー・モー)

1999年にSOUL'd OUTを結成。2003年1月にシングル「ウェカピポ」をリリースし、メジャーデビューした。2008年11月にDiggy-MO'としてシングル「爆走夢歌」を発表しソロデビュー。2009年3月に1stアルバム「Diggyism」をリリースした。2014年にSOUL'd OUTが解散。以降ソロ活動を行い、2018年11月にはソロデビュー10周年を記念したベストアルバム「DX - 10th Anniversary All This Time 2008-2018 -」を発表した。2019年には「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-」に楽曲提供。2022年には、ミュージカル映画「シング・フォー・ミー、ライル(日本語吹替版)」の全挿入歌の訳詞を担当。2023年より「BanG Dream!」発のヘヴィメタルバンドAve Mujicaの作詞、作曲を手がける。