5G SA特集|「スペシャアワード」で8K配信に成功、技術革新が提示するエンタメの新たな地平

KDDI株式会社が5G SA環境での新たなサービスの創出に向けた取り組みを推し進めている。今年2月にはプレイステーション®のゲームストリーミングと8K映像のリアルタイム配信の技術検証に成功したことをソニー株式会社と合同でアナウンス。また3月15日に開催された音楽の祭典「SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2022」(以下「スペシャアワード」)では、メイン会場と東京・GINZA 456に設置されたサテライト会場を中継で結ぶメディア向けのイベントを実施した。この特集では、「スペシャアワード」のイベントレポートを軸に、5G SAで広がるエンタテインメントの可能性について探る。

取材・文・撮影 / ナカニシキュウ

5G SAとは

5G基地局と5G専用のコア設備を組み合わせ、5G技術だけで通信を可能としたシステム・5G スタンドアローンのこと。第四世代移動通信システム(4G)と制御システムなどを併用せず単独で運用されるため、高速大容量、超低遅延、多数同時接続が可能となる。

想定用途

5G SA×イベント

メイン会場のカメラとサテライト会場の大型ディスプレイを5G SAによるライブ配信専用のネットワークスライシング(※1)で接続し、超高精細映像によるリアルタイム配信の実施や、イベントのメイン会場にいる演者とサテライト会場の観客の間でのコール&レスポンスなどのインタラクション演出の実施を想定。

5G SA×イベント イメージ画像

5G SA×イベント イメージ画像

5G SA×8K VR

イベントのメイン会場とサテライト会場を5G SAによるライブ配信専用のネットワークスライシング(※1)で接続し、8KVR映像(3D 180°)化した映像をサテライト会場のビジュアルヘッドセット(Xperia View)へ配信することで、臨場感あふれる現地の雰囲気をバーチャル上で体験することを想定。

5G SA×8K VR イメージ画像

5G SA×8K VR イメージ画像

※1. ネットワークスライシング:論理的にネットワークを分割することで、高速・大容量や低遅延などの顧客の用途やニーズに合わせたネットワークを提供する技術。

「SPACES SHOWERS MUSICS AWARDS 2022」イベントレポート

圧巻の映像美

定刻を迎え「SPACE SHOWER MUSIC AWARDS 2022」が開幕すると、GINZA 456に設けられたサテライト会場では、イベントフロア前方に設置された空間幅いっぱいの大型スクリーンにメイン会場の様子が映し出された。この映像こそが、5G SA通信を利用して今まさに現地から受信しているものなのだという。その8K映像は圧巻の解像度で、イベントのMCを務めるいとうせいこう、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)、emmaの表情までもがロングショットにおいても明瞭に判別できるほど。さらに特筆すべきは、それほどのデータ量を持つ高解像度映像が、コマ落ちなどを起こす気配すらなく安定的に映し出され続けている点だ。

中継でつながったメイン会場の様子。

中継でつながったメイン会場の様子。

スマホひとつで8K配信

KDDI担当者の説明によると、この日の通信機器には5G SAに対応させたスマートフォンを用いているのだという。従来のイベント映像配信においては、安定したインターネット通信環境を確保するために専用の固定回線を用意するのが通例となっていた。主催者にとってはそれが工数や費用の面で大きな負担となっているのだが、これからはスマホ1つで済んでしまうということになる。もちろん通信はワイヤレスで行われるため、通信ケーブルの動線を確保する必要もない。それだけ導入ハードルが低いにもかかわらず、高品質な映像や音声を高速かつ安定的に低遅延で届けることができるわけだ。例えば映画館などでのパブリックビューイングに8K映像とハイレゾ音声をリアルタイムで安定的に届ける、などの運用も容易に実現できることになる。

また、GINZA 456とは別に設けられたKDDI DIGITAL GATE会場では、VR映像体験も実施された。ソニー製の8KVR(3D 180°)カメラで撮影された超高精細VR映像を5G SAを通じて受信し、体験者に対してまるでメイン会場にいるかのような臨場感と没入感をもたらしていた。

映像データの送受信器として使用されたスマートフォン。

映像データの送受信器として使用されたスマートフォン。

別会場でのVR映像体験の様子。

別会場でのVR映像体験の様子。

インタラクションの可能性

5G SAは低遅延ゆえに、双方向通信にも威力を発揮する。この日のイベントではメイン会場とサテライト会場で対話を試みる一幕があり、中継レポーターの菅沼ゆりとメイン会場のMC3名が互いの様子を映像で確認しながら言葉を交わし合った。オンラインミーティングなどで誰もが経験しているであろう“遅延によって会話のテンポが脱臼を起こす”ようなシーンは一切見られず、一連のくだりはつつがなく終了した。この仕組みを応用すれば、例えばライブ会場と遠方の視聴者がコール&レスポンスを行うようなことも可能になる。現状では新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からライブ現場での発声は制限されるケースがほとんどだが、安全に声を出せる環境から遠隔で声援を送る仕組みが整備されれば、また1つエンタテインメントのあり方が拡張されることになるだろう。

この技術はステージイベントのみならず、例えばスポーツ興行においても有用であると考えられる。スポーツもまた高解像度の映像とリアルタイム性が強く要求される分野であり、例えばマルチアングル配信の全チャンネルを超高画質で行うようなことも可能になるはずだ。上記コール&レスポンスと同じ理屈で遠隔地からの声援を届けることもできるだろうし、例えば世界各地で観戦しているファンが声を合わせて応援歌やチャントを歌うような応援スタイルも実現するかもしれない。これらはいずれも、5G SAの高速性、低遅延性、多数同時接続性があって初めて現実味を帯びてくるものだ。

ほかにも、KDDIはソニーとプレイステーション®を用いたゲームストリーミング(自宅のプレイステーション®を外出先から操作してゲームをプレイできる)の取り組みなども発表している。コロナ禍以降、リモート分野は驚異的な進歩を続けており、ほんの数年前には考えられなかったような技術が次々に実現、定着してきているのは周知の通りだ。この日のイベントで提示された高画質&安定配信や双方向通信を目の当たりにした人のほとんどは、また1つ新たな未来が確実に訪れていることを否応なく実感させられたに違いない。

MC陣とコミュニケーションを取る菅沼ゆり(左端)。

MC陣とコミュニケーションを取る菅沼ゆり(左端)。

メイン会場とつながったGINZA 456の様子。

メイン会場とつながったGINZA 456の様子。