「@JAM ONLINE FESTIVAL 2020」古川未鈴(でんぱ組.inc)×高見奈央×橋元恵一|アイドルシーンの未来を切り開くオンラインフェスの可能性

エンタメの灯は消えへんで

──でんぱ組.incもコロナ禍の中で、お客さんを入れたライブをやるのか、それとも配信ライブをやるのかという葛藤があったんじゃないですか?

古川 でんぱ組.incは今年に入ってからお客さんを入れたライブはやってないんですよ。5月に開催予定だったツアーも早い段階で中止にしましたし、舵を切るのは早かったですね。「何か新しいものを取り入れないとダメかも」と考えて、配信設備などの環境も整えました。もちろんお客さんがいるライブといないライブでは全然違うんですけど、初めて配信ライブをやったときに、お客さんとの一体感を想像以上に感じたんです(参照:でんぱ組.inc、オンラインライブでファンのコメントと1つに「奇跡みたいな時間をありがとう!」)。やっぱりコメントだけでも熱量って伝わるんだなと感じて、ライブが終わったあとに泣いちゃいました。「苦渋の選択だと思ってやったオンラインライブがこんなにもみんなに響いたんだ」という事実がすごくうれしくて。もちろんお客さんの前でライブをやりたいという思いは大前提としてありますが、それとは別でオンラインライブのよさみたいなものもあるんだなと気付きました。

橋元 お客さんが当たり前のように目の前にいて、当たり前のように声援を上げてくれていたことが、今はもう当たり前じゃなくなったというのは大きいことだよね。

古川 いつものコールが聞こえないのはすごく寂しいし、物足りないと感じるときもあるけど、限られた中で何かを提供しないといけないと思ってます。自粛期間中に作った「なんと!世界公認 引きこもり!」という曲でも「エンタメの灯は消えへんで」と歌っていて。従来通りのライブを再開できたときにちゃんと前に進めるよう、少しでもペダルをこぎ続けていたいですね(参照:でんぱ組.incはいかにして自宅にいながら8日間で楽曲を完パケたのか?)。

橋元恵一

橋元 でんぱ組.incのオンラインライブを観て「こんな短期間で、ここまでのことができるんだ」と勇気付けられたし、うれしかったな。「でんぱ組.incがここまでやるなら自分たちもやらなきゃ」ってみんなが思ったんじゃないかな。あれは希望の光になったと思うよ。

古川 私は今の時代のことを“大配信時代”と呼んでるんですけど、でんぱ組.incはオタクアイドルを名乗ってる以上、インターネット上でできることは先陣を切ってやらないとダメだなと思ってました。もふくちゃん(福嶋麻衣子。でんぱ組.incのプロデューサー)もそう思ってたみたいで、その思いが噛み合ったのが1回目の配信ライブだったのかなと。

──先ほど「配信ライブのよさもある」とおっしゃっていましたが、普通のライブにはない、無観客ライブならではメリットってなんだと思いますか?

高見 観たい人は誰でも観れる、というのはメリットですよね。

古川 そう! みんな最前。みんな最前だし、グッズを買うのに列に並ばなくていい(笑)。だから意外とこういう形もありなんじゃないかと思っています。ただ、カメラワークが難しいんですよね。歌ってる顔ばかり抜いてるとつまらなくて、特にでんぱ組.incは全体を映してくれないと何やってるかわからないんですよ。「@JAM ONLINE FESTIVAL」でも私がでんぱ組.incのカメラワークを指定したいくらい、配信ライブはカメラワークが命になると思っています。

橋元 急にプレッシャーがかかってきたな(笑)。

──高見さんは普段、配信ライブを観ることはありますか?

高見 観ますね。お客さんを入れたライブが少なくなるのは寂しいですが、やっぱりアイドルのライブが好きなんで、オンラインでも観たくなります。そういう気持ちもあって、「@JAM ONLINE FESTIVAL」の開催が決まったときは、私も力になりたいと思いました。

古川 私はコロナ禍に突入して、会場にお客さんを入れてライブをやるのが難しくなったタイミングで「『@JAM EXPO』はオンラインでやるんだろうな」と思ってました。きっと橋元さんならそうするだろうなって。

コロナ禍で変わりゆくアイドルシーン

──オンラインで開催される大型のアイドルフェスは「@JAM ONLINE FESTIVAL」が初めてですよね。業界の先陣を切る形になるので、このフェスによってアイドルシーンが変わっていくかもしれないですね。

橋元 だからそのぶん、判断が難しいところも多いんです。ただ配信するだけじゃつまらないし、いろいろと技術的な問題もあるし。チケットの料金も相場がないですし、配信のチケットは事前に買う人が少ないので、どれくらいのお客さんが観てくれるのかも読めなくて。そんな中でクラウドファンディングもやるんですが、そこで目標以上に集まったお金はすべて出演者とライブハウスに寄付します。

古川 オンラインライブの事前チケットは本当に売れないですよ! なので、でんぱ組.incでは早割制度を設けました。とにかく今はまだライブ配信業界の常識が定まってない状態なんですよね。

──アイドルシーン自体は今後どうなっていくと思いますか? 対面での特典会ができないことはどのグループにとってもつらい状況だと思うのですが、ライブも含めてオンラインという形で定着していくんでしょうか。

橋元 オンライン特典会は時間の制約がないし、やりたいときにやれるというメリットもあるので、リアルの特典会と併用されていくんじゃないかと思っています。オンラインライブもどれだけ成熟していくかはわからないけど、VR技術を駆使したライブもすでにありますし、お客さんを入れたライブと使い分けていけるんじゃないかな。

高見 VR使ったライブ、ベビレでやりましたよ。お客さんの目線になってるVRカメラの周りをメンバーみんなでぐるぐる周るっていう(笑)。それはそれでかなり好評でした。

橋元 そういうライブもこれからスタンダードになっていくかもしれないですね。

古川 今後は基本オンラインで、会場でのライブは限定20席とかプレミアチケットになるかもしれないですね。直接観に来ることの価値が上がっていって。

高見 これからは演出や映像の撮り方がうまいアイドルさんが人気になるんじゃないかな。「こう見られたい」とか「こう映してほしい」という意思をちゃんと持てるアイドルが強くなると思います。

左から橋元恵一、古川未鈴、高見奈央。