気持ちが入り過ぎた「悲しいラブソング」
──リード曲「悲しいラブソング」は、恋人と別れる直前の迷いや葛藤を切り取った楽曲です。疾走感のあるサウンドが切なさを増幅させる、あたらよの個性がしっかり打ち出された楽曲だなと。
ひとみ この曲は専門学校時代に作ったんですよ。当時は「10月無口な君を忘れる」をメインに練習していたんですけど、もう1曲、この曲も演奏していて。ワンコーラス分しかなかったんですけど、まーしーが「そういえばあの曲よかったよね。アルバムに入れない?」と言ってくれて、フルコーラス作りました。
まーしー 「10月無口な君を忘れる」で学校のオーディションに受かって、バンド活動が始まって。その次に作ったのが「悲しいラブソング」なんですよ。思い出もあるし、しっかりバンドでアレンジしたらカッコいいだろうなと。
たなぱい ひさびさに演奏したから、最初は「こんな感じだったかな?」と思い出しながらやってました(笑)。
まーしー アレンジ自体も変えて。
ひとみ 変わってないのはメロディと歌詞だけですね。
──「『いいよ』しか言わない君」に対する複雑な思いが歌われてますね。
ひとみ ……はい。
まーしー ハハハハハ(笑)。
ひとみ これは実話ですね(笑)。「『いいよ』しか言わない君」がいたんですよ。
たなぱい 「優しさの無料配布しているんでしょ」もいいですよね。この歌詞があることで、いろんな人が共感してくれると思います。
ひとみ ティッシュ配りしてるお兄さんを見て思い付いたんだけどね。「こんな感じで、誰かれかまわず優しくしてたな」って。
たなぱい いい人なんだけど、それが好きな人だったら寂しいという。
ひとみ そうだね(笑)。後半の歌詞を書くときも、当時の気持ちにタイムスリップできたし、そんなに苦労しなかったです。
──曲を書いたときの感情がしっかり残ってるんでしょうね。
ひとみ まだ2年くらいしか経ってないですからね。
まーしー レコーディングも面白かったんですよ。
ひとみ 歌入れのとき、気持ちが入りすぎてしまって……。
まーしー すごくカッコよかったです。ウッ!ってなるくらい歌が伝わってきて。
たなぱい 「やりすぎちゃった」って言ってましたね(笑)。
ひとみ (笑)。ライブだったらいいと思うんですよ。1回きりだし、目の前で歌うので。ただ、何回も聴いてもらう音源でそこまで熱量を入れると、ちょっと疲れちゃうのかなと思って。最初は少し冷静に歌って、最後はしっかり気持ちを入れるようにしました。
──レコーディングでもそこまで歌に入り込んでいるんですね。
ひとみ スタジオにはみんないるけど、ブースの中でヘッドフォンをすると1人だし、ゾーンに入っちゃうんですよね(笑)。
いいと思った曲は自分だけでも愛してあげよう
──そして「outcry」は、ピアノとストリングスを取り入れています。アルバムの中でもポップスとしての精度が高い曲だと思いました。
ひとみ アレンジは壮大にしたくて、ストリングスを入れてみようと。ピアノは私が弾いてます。
まーしー いつかこのアレンジでライブをやってみたいですね。
ひとみ うん。ライブハウスでは無理かもしれないけど、もっと大きい会場でやれるようになったら、ぜひストリングスやピアノを入れて演奏したいです。
──「52」は、メンバーの皆さんのプレイがしっかり生かされていますよね。たけおさんが弾くしなやかなベースラインも素晴らしいです。
たけお ありがとうございます。さっき言ってた、レコーディングに時間がかかってしまった曲ですね。
ひとみ・まーしー こだわりのベースライン。
たなぱい ハモった(笑)。
たけお (笑)。Dメロの「望む未来 光る世界」からグワーッと来る感じも好きです。
たなぱい いいよね。この曲のドラムは柔らかい音色がいいなと思って、新しい機材を使ったんですよ。いろいろ試してみて一番合うものを探して。
ひとみ ギターもちょっと珍しいエフェクターを使ってるんだよね?
まーしー DolphinDeverbだね。海っぽい雰囲気にしたくて、かなり作り込みました。不思議な浮遊感もあるし、重ためのサウンドもあって。歌詞の世界観を表現できたかなと。
ひとみ この曲を書いたのは、「52ヘルツのクジラたち」(町田そのこによる小説)を読んだことがきっかけだったんです。そのときの自分の心境とリンクして……アルバム制作に入って、模索している段階だったんですけど、いくつか曲を送っても周りからいい反応がなくて。「もっとこうしたら売れるんじゃない?」みたいなことも言われて、自分も迷ってたんですね。ただ、「自分でいいと思った曲は、せめて自分だけでも愛してあげよう」と思って。「52」には、そのときの気持ちが表れていますね。
2022年は飛躍の年に
──アルバムの最後に収められた「差異」も、重厚感のあるサウンドにグッときました。歌詞の中に「人が死ぬことと 遠くへ行って 会えなくなることに差異はあるのか」というセリフがありますね。
ひとみ この曲も「平成くん、さようなら」(古市憲寿による小説)という本を読んだことがきっかけで。主人公の男性が病気になって、彼女のもとを去ろうとする。「どうして?」と聞かれて、「死ぬところを見せるより、いなくなって“どこかで生きてるのかも”と思えるほうが幸せでしょ」と答えるんですよ。その心持ちが刺さって、そのとき感じたことを歌にしてみたいなと思って。
まーしー 「君はどこかで散ったのかな」というサビも好きですね。この1文があることで全体がきれいに聞こえるし、曲を素敵にしている大事なファクターだなと。こういう表現ができることに感動したし、すごいなって思いました。
──アルバム「極夜において月は語らず」は、あたらよの新たな可能性を示した作品だと思います。今後のビジョンについても教えてもらえますか?
ひとみ 飛躍したいですね。これまで出られなかったフェスや音楽番組にも出たいです。
まーしー 対バンライブを増やして、いろんなバンドとのつながりも作りたくて。ライブの数もまだまだ少ないので、積極的にやっていきたいです。
たなぱい よりよいものを積み重ねていきたいですね。あとはもう、この4人で一緒にやっていけたら幸せです。
──素晴らしいです。たけおさんはどうですか?
たけお そうですね……。強くなりたいです。
たなぱい 少年ジャンプだ(笑)。
ひとみ いいね。
まーしー 強くなろう!
ライブ情報
あたらよ 1st Tour「極夜において月は語らず」
- 2022年5月5日(木・祝)東京都 WWW X
- 2022年5月21日(土)大阪府 Shangri-La
- 2022年5月22日(日)愛知県 SPADE BOX
プロフィール
あたらよ
ひとみ(Vo, G)、まーしー(G)、たなぱい(Dr)、たけお(B)の4人からなる“悲しみをたべて育つバンド”。グループ名は“明けるのが惜しいほど美しい夜”という意味の可惜夜に由来している。2020年11月にYouTubeに楽曲を投稿し始め活動を開始する。初のオリジナル曲「10月無口な君を忘れる」は、ひとみのエモーショナルな歌声と、恋人たちの別れの場面を切り取った歌詞がリスナーの共感を呼び、YouTubeでの再生回数は3200万回を突破している(2022年3月現在)。2021年10月に「10月無口な君を忘れる」を含む7曲入りの音源集「夜明け前」を配信リリース。2022年3月には1stアルバム「極夜において月は語らず」をリリースし、5月から初のワンマンツアーを行う。
あたらよ (@Atarayo_band) | Twitter
あたらよ (@atarayo_band) | Instagram