ASCA×「ロード・エルメロイII世の事件簿」のタッグ再び、梶浦由記プロデュースで届ける“歌の力”

ASCAが1月26日に新作CD「君が見た夢の物語」をリリースする。

本作の表題曲はテレビアニメ「『ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-』特別編」の主題歌。ASCAは2019年にテレビアニメ「ロード・エルメロイII世の事件簿」のエンディングテーマ「雲雀」を歌っており、本作品とは2度目のタッグとなる。「君が見た夢の物語」のプロデュースは「雲雀」に引き続き梶浦由記が担当。重心の低いボーカルがASCAの新たな可能性を感じさせる、異国情緒のあるロックナンバーとなっている。

さらに本作にはスマートフォン向けゲーム「ソードアート・オンライン アンリーシュ・ブレイディング」の主題歌「逆境スペクトル」や「雲雀」のリアレンジバージョン、ボカロP・くじらの楽曲「金木犀」のカバーが収録されている。音楽ナタリーではASCAにインタビューを行い、充実した1枚について話を聞いた。

取材・文 / 須藤輝撮影 / 山口真由子

梶浦さんは学校の先生のよう

──表題曲「君が見た夢の物語」は、本作にもリアレンジバージョンが収録されている「雲雀」(2019年9月発売の5thシングル「RUST / 雲雀 / 光芒」収録曲)以来の梶浦由記さんプロデュース楽曲になりますね。

はい。実は約2年前、「ロード・エルメロイII世の事件簿」の特別編が制作されるというお話を小耳に挟んでおりまして。アニメのオープニング曲にこの「君が見た夢の物語」の元になった「starting the case:Rail Zeppelin」がインスト曲として使われていたんです。それを聴いて「この曲に私の歌を乗せられたら……」と、私の勝手な願望というかほとんど夢なんですけど、そんなことを当時ふんわり考えていたところ、なんと実現してしまったという。

ASCA

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──もともと歌を入れることを想定せずに作られた曲だったと。

そうですね。今回歌詞をつけていただくタイミングで梶浦さんは「ASCAさんが歌いやすいようにサビのメロとかを変えてみます」とおっしゃってくださって。実際、原曲よりもはるかに歌いやすく、私の好きな声が出るようなメロディラインになっていると練習したときに思いました。

──梶浦さんらしい、どこか異国情緒を感じさせる重厚なロックナンバーですね。

「ロード・エルメロイII世の事件簿」がイギリスのロンドンを舞台にしたお話なので、サウンドもそちらに寄っていますね。

──シャープで瞬発力のあるボーカルはASCAさんの持ち味の1つだと思っているのですが、この「君が見た夢の物語」は歌い方が違いますよね。より重心が低く、ねっとりしているというか。

それも梶浦さんにディレクションしていただいて、とにかくタイトに歌いすぎないように気を付けながら歌っていきました。私は今までリズムに忠実に、速い音に乗せて言葉を届けていくような歌い方をよくしていたんですけど、今回はもう、なんならオケより遅れてもいいと割り切りつつ、その中で言葉をしっかり伝えるということを徹底的に突き詰めようと。そのために、これまでのレコーディングやライブで得てきた知識や経験すべてを、一旦外に置きましたね。

──外に。

初めて梶浦さんとご一緒した「雲雀」のレコーディングのときもそうだったんですが、梶浦さんは学校の先生、それも本当に丁寧に優しく教えてくれるタイプの先生のようで。きっとご本人の中に明確なビジョンがあるはずなのに、何かを決めつけるようなディレクションをすることなく、例えば「ASCAさんだったら、この『優しい』という言葉をどういうふうに表現しますか?」と導いてくださるような感じなんですよね。

──へええ。

ボーカルブースってとても孤独で、トークバックスイッチを押したときだけコントロールルームにいる人の声が聞こえるんですけど、そこしか外界との接点がないんですよ。だから、私がマイクに向かって歌い終わった直後に無音の間があると「今の歌、ダメだったのかな?」という気持ちになってしまうんです。でも梶浦さんはそういう不安を感じさせる間も与えず、歌に対する反応と「こういう表現はどうでしょう?」みたいな新しい提案をしてくださって、それに応えるように私もテイクを重ねていく。そんなテニスのラリーのようなやりとりが本当に楽しくて。今回の「君が見た夢の物語」も、レコーディング当日は「今日は梶浦さんからどんなことを教えてもらえるんだろう?」とワクワクしながらスタジオに向かいました。

──「君が見た夢の物語」のレコーディングでも梶浦さんは先生でした?

はい。やっぱり歌唱表現について私の知らないことがまだまだたくさんありますし、梶浦さんがしてくださる提案は、どれもボーカリストとして「それ、やってみたい!」と思わせてくれるものなんですよ。なので、自ずとこちらのテンションも上がりますし、結果、言葉を1つひとつ丁寧に届けていくような歌になりました。

私、歌っていていいんだ

──「君が見た夢の物語」の歌詞は当然「ロード・エルメロイII世の事件簿」の内容に沿っていると思いますが、作品と切り離しても成立しそうな普遍性がありますね。

私もそう思いました。レコーディングしながら、梶浦さんからこの曲は2番Aメロの「終わりある場所で終わらないものを 僕らは夢に見ていいんだ」というフレーズがテーマになっているとお聞きしまして。叶うかどうかもわからない、無謀かもしれない夢や憧れを抱いていてもいいという、まるで私たちを許してくれているようなフレーズで、歌っていて自分自身も救われるような気持ちになりましたね。

──救われるような気持ちに。

それをより強く感じたのは、実はミックス作業のときなんです。ミックス作業って、すごく大きなスピーカーで、自分の歌をいい音で聴かせてもらえるのでいつも立ち会うようにしていて。この「君が見た夢の物語」もスピーカーの目の前で、特等席で聴かせてもらったんですけど、泣いていましたね。

ASCA

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──自分の歌を聴きながら。

なんだか、自分が歩んできた道のりが回想シーンみたいにぶわわーっとよみがえってきたりして。楽曲自体も本当にたくさんの楽器を使っているので、音そのものの豪快さや壮大さも相まって、さっき言った「僕らは夢に見ていいんだ」という歌詞の力をより強く感じることができたんですよ。「私、歌っていていいんだ」って。

──いいですよ、そりゃあ。

もちろん誰かの許可を取るものではないんですけど、自分が今歌っていること、そしてこれからも歌っていきたいという気持ちを肯定されたように思えて涙が出てきたんです。そんな経験をしたことはなかったので、自分でも「なんで泣いてんの!?」とびっくりしましたね。もともと私は梶浦さんの楽曲がずっと好きでたくさん聴いていて、「雲雀」でご一緒したときに「もう一度、一緒に楽曲を作りたい」と願っていたので、それが叶ったからというのもあるかもしれません。

──梶浦さんの曲を再び歌い切ったという手応えもあったのでは?

完成形を聴いたとき「歌詞が全部聞こえる!」と思いました。また自分の声で「ロード・エルメロイII世の事件簿」という作品に寄り添いつつ、梶浦さんが歌詞に込めた思いをちゃんと形にして残せたという達成感は大いにあります。

「SAO」愛を感じる楽曲

──カップリング曲「逆境スペクトル」は、2021年11月に配信シングルとしてリリースされた、アプリゲーム「ソードアート・オンライン アンリーシュ・ブレイディング」の主題歌ですね。

「逆境スペクトル」はノイさんというボカロPの方と初めて一緒に作った楽曲なんですけど、ノイさんはとても愛のある方だと思っておりまして。本当に私の楽曲をしっかり聴いて曲を作ってくださっているのが、歌っていてわかるんです。キーにしても私が気持ちよく歌えるし、おそらく聴いてくださる方にも気持ちよく響くであろう音域を上から下までフルに使い切ってくださっていて。あと、歌詞も「SAO」という作品を愛している人が書いた歌詞だなと。

──具体的には?

もう序盤の「最終回の向こうへ生を繋いでいけ」というフレーズからとてもゲームのストーリーに沿っているんですけど……どこから説明したらいいんだろう。ざっくり言うと、「SAO」シリーズの主人公・キリトとその幼馴染・ユージオという2人がいなくなった世界で、女の子たちが戦って強くなっていく物語なんです。で、ここから自分の話になりますが、私は「進化論」(2021年1月発売の2ndアルバム「百希夜行」収録曲)という楽曲を、同じゲームの1つ前の主題歌として歌っているんです。

──はい。

その「進化論」では、ゲームの女の子たちの心情に私自身の「進化していきたい」という気持ちを重ねて歌っていたんですけど、今回の「逆境スペクトル」ではもう少し物語を俯瞰して歌ったといいますか。そこにはメインキャラクターの女の子たちだけじゃなくていろんな登場人物の人生があって、各々が各々の正義のために戦っているんです。それがサビの「一つになって 一つになって」というフレーズに象徴されていて……だから、人数が増えた。

──人数が増えた(笑)。

とにかくみんなで時代を切り開いていくというフェーズに入っていくんですけど、それをノイさんが楽曲と歌詞で表現してくださいました。ノイさんは「SAO」作品に携わることで「夢が叶った」とおっしゃっていたので、私も歌でそのお手伝いができたと思うとうれしくて。私にとっても、今回で「SAO」のアプリゲームの主題歌は「セルフロンティア」(2019年11月発売の1stアルバム「百歌繚乱」収録曲)、今言った「進化論」に続いて3回目になるんですけど、そんな作品愛のある方とご一緒できたことで集大成的な楽曲になったと思っています。

──今おっしゃった「みんなで」という部分は、ASCAさんの心情と重なる部分もあるのでは?

はい、とても。「逆境スペクトル」はすでに有観客ライブで歌っていたんですが、レコーディングでもそれこそ「一つになって 一つになって」というフレーズを歌っているときはライブの景色が見えました。なので今後のライブでも歌うのが楽しみですし、ファンの皆さんと一緒に育てていける楽曲だなと歌いながら感じていました。

ASCA

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──「君が見た夢の物語」とは対照的に、「逆境スペクトル」のボーカルはタイトでありつつ切迫感もあり、アップテンポでシリアスなトラックにフィットしていると思います。

ありがとうございます。例えばサビの「重なり合って 重なり合って」「一つになって 一つになって」とリフレインするパートはとにかく正確に、しっかり音に当てていく歌い方をしているんです。でも、「いつからか描いた幼気な理想も」から始まるDメロだけは感情をあらわにして歌いました。歌詞を読んだときにそうやって歌おうとは思ったんですけど、結局、レコーディング本番でサウンドに導かれながら、思うがままに歌ったらああなりました。

──そのDメロの「守り抜きたい」でファルセットになるところにカタルシスを感じます。

うれしいです。この曲は、まさにそこで私を解放させてくれるので「ノイさん、天才だな」と思いましたね。