「もっと素直に歌って大丈夫ですよ」
──3曲目のバラード「雲雀 -winter whisper version-」は、冒頭で触れた「雲雀」のリアレンジバージョンですね。
2021年の9月から10月にかけて約2年ぶりにライブツアーをやりまして、東名阪をバンドで回ったあとに、1人で全国6カ所を回ったんです。その6カ所、計12公演すべてで「雲雀」を歌ってきたんですよ。そのとき歌った「雲雀」はバンマスの重永亮介さんにピアノアレンジしていただいたものだったんですけど、ライブでいろんな景色を見て、今ならより成長した「雲雀」を表現できると思い、梶浦さんにリアレンジをお願いしました。
──原曲はストリングスも入ったバンドアレンジでしたが、「winter whisper version」はほぼピアノとチェロのみの伴奏で。
雲雀は春の訪れを感じさせる鳥なので、原曲は温かみのあるアレンジだったんですけど、今回は梶浦さんのピアノがメインになっていて。テンポもよりゆったりしていて、コーラスも一切ないので私の声がシンプルに届きますし……あと冬になると気持ちがキュッと切なくなりません? それも最初にデモをいただいたときに感じたので、すごく好きだなって。
──「winter whisper」とは、梶浦さんもうまいこと言いますね。白い息が見えるようで。
本当ですよね。この曲のレコーディングでも梶浦さんにディレクションしていただいて「原曲よりも言葉をはっきり発音して、しゃべるように歌ってはどうでしょう?」と提案してくださったんです。それを意識して録ったものを、またミックス作業で大きなスピーカーで聴かせてもらったときに「オケがしっとりしているからといって、声をしっとりさせすぎなくてよかったな」と。当たり前のことなんですけど、そうすることでよりクリアに歌詞を届けられたと思います。
──確かに、聴いていてそれは感じました。
私自身、何度も歌ってきた曲だからこそ、改めて歌詞を読み返しながらフレーズ単位、ワード単位で表現を一から再構築するつもりで臨んだんですが、梶浦さんと一緒に丁寧に歌を作っていくことができました。
──梶浦さんとの楽曲制作を通して、得たものも多そうですね。
本当に毎回「何かしら盗んで帰るぞ」という気持ちになりますし、毎回、今後歌っていくことがより楽しみになる経験をさせてもらっています。梶浦さんのディレクションは言葉選びが的確で、かつ最初のほうで言ったように決めつけはしないし圧もないので、するっと理解も納得もできるんですよ。今回の「雲雀 -winter whisper version-」でも、例えば2番終わりの「空へ」はロングトーンになるんですけど、ライブで何度も歌ったことで、ちょっと語尾を強くして落ちていくような歌い方をする癖がついていたんです。それに対して梶浦さんは「もっと素直に歌って大丈夫ですよ」と、私の中で知らず知らずのうちに固まっていた決まり事みたいなものを、こう……。
──ほぐしてくれた?
そうですそうです。もっと楽に歌える、あるいは歌うことが楽しくなるようなディレクションをしてくださって、同時に発見もたくさんあるので、やっぱり先生です。
カバー曲は楽しんだもん勝ち
──4曲目の「金木犀」はボカロP・くじらさんの楽曲のカバーになりますが、この曲もライブで歌っていらっしゃいましたよね?
はい。バンドツアーでもソロツアーでも歌っていたので、15公演全部で歌いました。
──なぜ「金木犀」をカバーしようと思ったんですか?
もともと好きな曲なんですが、「この曲をいつものバンドメンバーにアレンジしてもらって歌ったらどうなるんだろう?」という、至ってシンプルな理由ですね。なのでバンマスの重永亮介さんと、私のデビューシングル(2017年11月発売の「KOE」)から一緒に楽曲を作ってくださっていて、バンドでもずっとギターを弾いてくださっているSakuさんのお二人に、ライブを想定してアレンジしていただきました。例えば声が出せない状況でも楽しめるように、原曲にはないクラップをたくさん入れてもらったりして。
──ストリングスも入ってよりゴージャスなディスコナンバーになっています。
「金木犀」の歌詞はいろんな解釈ができるというか、例えば最後に「さよなら」とあるけれど、単に誰かとのお別れを意味しているのか、それとも……みたいな。いずれにしても悲しい歌詞ではあるので、それをあえて楽しげな音に乗せて歌いたかったんですよ。
──「金木犀」のボーカルはややルーズで、ここまでお話を伺ってきた3曲とはまた違いますね。
確かに、今回のEPではいろんな歌い方をしていますね。ただ「金木犀」は普段からあまりにもたくさん聴きすぎていたし、歌いすぎていたんですよ。なので、それを振り払うじゃないですけど、レコーディングのときはライブを想像しながら歌いましたね。バンドのみんなと、そしてお客さんと一緒に飛び跳ねたりしているところをイメージしながら。
──ASCAさんは定期的にカバー曲を正式な音源として残すタイプのボーカリストですが、ASCAさんの中でカバーをやる意味や理由などはあるんですか?
はい。カバー曲を歌うことで自分の可能性が広がっていくと思っていて。それはもう小学生の頃から、例えばカラオケに行ったら「オリジナルはこういうふうに歌われているけど、こうやって歌ったらどうなるんだろう?」みたいなことを日常的にずっとやってきていたんですよ。なのでASCAとしてカバーをするのもその延長にあるというか、自由にいろんな歌い方を試しながら、楽しく探求しています。
──原曲と比較されてしまうであろうというプレッシャーなどは?
今の時代、「歌ってみた」とかでカバーがあふれているので、そこに対する恐怖はないですね。楽しんだもん勝ちなのかなと思っています。
届く歌を大事にしたい
──ASCAさんの2021年を振り返ると、先ほどお話にあった全国ツアーに加え、1月に2ndアルバム「百希夜行」、6月に8thシングル「カルペディエム / ヴィラン」をリリースするなど……。
充実しておりました。特に下半期は、秋にツアーが決まっていたというのもあって、ちゃんと自分の体と向き合いながら、いい歌を届けるためにはどうしたらいいかを常に考えていましたし、実践もしていましたね。やっぱり約2年ぶりのツアーになるので進化した姿をお見せしたいし、コロナ禍という状況でいらしてくださるファンの皆さんに「楽しかった!」と思いながら会場をあとにしていただきたくて。
──アスリートっぽいですね。ツアーに向けてフィジカルもメンタルもピークに持っていくという。
ああ、考え方としてはそうなのかもしれないですね。たまに怠けちゃうこともありましたけど。実際にツアーを回ってみて、改めて自分にとってライブは必要不可欠なものだと実感しました。ライブができない期間もあった分、お客さんのことをイメージしながら準備と練習を重ねていたんですけど、本番ではそんな私の想像をはるかに上回るエネルギーと愛を受け取ることができて。ライブのたびに成長させてもらっていると思いますし、ライブのあとは「次はもっとこうしたい」というのが必ず出てくるので、叶えたいことがどんどん増えていくんですよね。
──それは反省点とも言える?
反省点は常にありますね。レコーディングの帰り道でもありますし。しかも以前は完璧を求めすぎて考え込んでしまうタイプで、どうしても歌をきれいに整えようとしがちだったんです。もちろん技術力を上げる努力を惜しんだことはないんですが、それがすべてではないんですよね。たとえピッチがズレていたり声が裏返っていたりしたとしても、ちゃんと届く歌を大事にしたい。そういう思いがこの1年で強くなりましたね。2022年も、たぶん去年以上にいろんな方に会いに行ける年になると思うので、引き続き届く歌を大事にしつつ、毎年言っているんですけど、現状に満足せずに進化した姿をお見せしたいです。
ツアー情報
ASCA「ASCA LIVE TOUR 2022 君の街へ -真紅の女編-」
- 2022年2月23日(水・祝)岐阜県 CLUB ROOTS
- 2022年2月27日(日)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
- 2022年3月5日(土)広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2022年3月19日(土)神奈川県 新横浜 NEW SIDE BEACH!!
- 2022年3月21日(月・祝)千葉県 KASHIWA PALOOZA
- 2022年3月26日(土)福岡県 THE Voodoo Lounge
- 2022年3月27日(日)大阪府 ESAKA MUSE
- 2022年4月2日(土)北海道 cube garden
- 2022年4月10日(日)新潟県 studio NEXS
プロフィール
ASCA(アスカ)
1996年生まれ、愛知県出身。2011年開催の「第5回全日本アニソングランプリ」でファイナリストに選ばれる。2013年にアニメ「さくら荘のペットな彼女」のエンディングテーマ「Prime number~君と出会える日~」で大倉明日香としてCDデビュー。2017年8月にアニメ音楽誌「リスアニ!」誌上にてASCA名義では初のオリジナル曲「RUST」を発表した。同年11月にアニメ「Fate/Apocrypha」のエンディングテーマ「KOE」を表題曲としたシングルで、SACRA MUSICよりメジャーデビュー。その後も「グランクレスト戦記」「ソードアート・オンライン アリシゼーション」「ダーウィンズゲーム」「魔法科高校の劣等生 来訪者編」「すばらしきこのせかい The Animation」といった数々のアニメ作品のテーマソングを担当。2022年1月にテレビアニメ「『ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-』特別編」の主題歌を表題曲とした新作「君が見た夢の物語」をリリースし、2月より9都市をまわる全国ツアー「ASCA LIVE TOUR 2022 君の街へ -真紅の女編-」を開催する。