麻倉もも インタビュー|自分のやりたいことをやりたいように──自由に音楽を楽しんだ3rdアルバム「Apiacere」 (3/3)

かわいい範囲に収まる、かまってちゃんの歌

──9曲目、都城ゆみさん作詞、中里亮介さん作曲、Tomgggさん編曲の「Love me, Choose me」はフューチャーベース的なダンスナンバーです。同じエレクトロニックなダンスナンバーでも、例えば「カラフル」(2017年11月発売の3rdシングル表題曲)や「トキメキ・シンパシー」(アルバム「Agapanthus」収録曲)などとはかなり雰囲気が違いますね。よりクールでスタイリッシュというか、ダンスナンバーにも幅が出たように思います。

やっぱりダンス曲も1曲は欲しいと思って作っていただいたんですけど、アレンジの仕方も今までと違いますし、私の曲にしては珍しい、カッコいい曲になったなあと思います。そんな曲の雰囲気から、夜っぽいイメージと、かなり面倒くさいタイプのかまってちゃんという主人公像が浮かんで。最初はもっとキツいというか、言葉が悪いですけどメンヘラっぽい、「こんな女の子、イヤだな」と思ってしまうぐらいの主人公を想定していたんです。でも、最終的にはマイルドな、かわいい範囲に収まるかまってちゃんになりました。

──もっとエグい歌詞になる可能性もあったんですね。

そうですね。作詞の都城さんからはアンケートというか、主人公のプロフィール帳みたいなものをいただいて。そこに私が、例えば「要求ばっかりしてくる女の子」とか、そういう性格や趣味を書いてお返しするというやりとりだったんですけど、たぶん作っているうちに、私が「もっとかわいいほうがいいな」と思っちゃったんでしょうね。やっぱり私はかわいい女の子が好きなので。

──いいバランスだと思いますよ。「私だけを選んでほしい」という余裕のなさと、「可愛くしてるのは君のためなんだって」といういじらしさが同居していて。

ねえ、すごくかわいいですよね。むしろ相手の男の人に対して「なんで気付いてあげられないの?」「もしかして気付かないフリしてるんじゃ?」みたいな文句を言いたくなってしまう人もいるかも。

──歌詞はかわいいですが、ボーカルは大人っぽいですよね。あと、この曲はキーが高くて、麻倉さんのハイトーンがよく出ていると思いました。

さっき言った夜っぽいイメージから、Aメロとかでは気だるさみたいなものを出したくて。確かにキーは高いしテンポも速いので、特にブレスがすごく大変でしたね。でも、そのちょっと苦しそうな歌声に、今おっしゃった余裕のなさだったり「かまってほしい」という切実さが表れているんじゃないかと思っていて、自分としてはすごく気に入っています。

最低でも10回はリピートしてほしい

──そして最後に収録されているのが、安藤紗々さん作詞、田中秀和さん作編曲の「シロクジチュウム」です。この曲に関しては作編曲者の田中さんと、アルバム制作が行われたスタジオ・Studio Vibes代表の太田雅友(SCREEN mode)さんのお話をすでに伺っているのですが(参照:麻倉もも「Apiacere」特集|スタジオ代表者の太田雅友(SCREEN mode)と音楽プロデューサー田中秀和が新曲に注いだこだわりを語る)、麻倉さんから何か要望を出したりは?

この「シロクジチュウム」だけは、私からはほぼ何も言っていなくて。というのも、今回のアルバムの新曲は、結果的に全曲ドルビーアトモス対応になっているんですけど、当初はこの曲だけの予定で、そのとき私はドルビーアトモスについて何も知らなかったんですよ。そこでスタッフさんが「そばで歌ってくれているような感じ」みたいな説明をしてくださって、そのうえで「楽曲は田中秀和さんにお願いしようと思うけど、どうですか?」と聞いてくださったんですけど、私は何もかもわからなかったので……。

──何もかもわからなかった(笑)。

もちろん、田中さんがすごく素敵な曲を書かれる方だというのはよく知っていましたよ(笑)。なので「ぜひお願いします!」と答えたんですけど、基本的にはお任せというか、頼りきっていました。

──歌詞についてもお任せだったんですか?

はい。「そばで歌っている感じなら、ちょっとあざとさのある女の子がいいんじゃないでしょうか?」と提案してくださって、私も「それ、いいな」と思ったので、そのまま進めていただきました。私の中では、さっきの「Love me, Choose me」の女の子は余裕がない感じでしたけど、この「シロクジチュウム」の女の子は相手を翻弄するような、小悪魔的なイメージです。

──歌詞も独特ですし、楽曲もミニマルミュージック的で、やはり今までなかったタイプの曲ですね。

たぶん今まで歌ってきた曲の中で一番、飲み込むのに時間がかかった曲ですね。制作中も「これ、最終的にどうなるんだろう?」とゴールがよく見えないまま突っ走っていたところも正直あって、歌を入れた完成形を聴いてようやく「ああ、なるほど!」みたいな。でも、自分の歌が入った「シロクジチュウム」を何度も聴いていたら、中毒性があるというのか、いつの間にか日常生活の中で口ずさんでいる曲になっていましたね。この曲も私にしてはずいぶんカッコいい、おしゃれな曲なので、みんながどういう反応をしてくれるのか楽しみであり、不安でもあり……でもやっぱり楽しみという感じです。

──レコーディングに関しては「とにかくコーラスの量が多くて大変でした」というコメントをいただきましたが、ほかに印象に残っていることなどはありますか?

最初は、音の距離感がつかめなかったというか、最終的にどんな聞こえ方になるのか想像できなくて。例えばもっとマイクに近付いて歌ったほうがいいのかとか、ディレクターさんと確認しながら録っていて。私はそうやってマイクとの距離や声量に気を付けて、ドルビーアトモス用の歌い方をしなきゃいけないと思っていたんですけど、レコーディングが始まってしまえば「普段通りの歌い方で大丈夫ですよ」と(笑)。

──取り越し苦労だったかもしれませんが、そこまで聴き手のことを考えていたんですね。

なので、コーラスとかハモリとか録る分量は多かったんですけど、比較的スムーズに歌えたと思います。Aメロとかは、ノリがカッコいいのでどういうふうに声を乗せようか迷いはしたものの、変にカッコつけず、私のイメージする小悪魔的な女の子像のままで歌えばいいと割り切って、淡々と歌いましたね。

──僕も完成した「シロクジチュウム」を太田さんのスタジオで、サラウンドスピーカーで聴かせてもらったのですが、めちゃくちゃ麻倉さんの声に包まれました。

おおー。私もスピーカーとヘッドフォンの両方で聴かせてもらいまして、「ヘッドフォンでもこんなふうに聞こえるんだ!?」と感動しました。普通だったら音に埋もれて聞こえない、細かい息遣いまで聞こえてきて、背筋を正されたというか、背筋が凍ったというか(笑)。

──「そこまで聞こえちゃうんだ?」と。

そうそう。だからめちゃくちゃ気を付けて歌わないといけないなと思いつつ、たぶんファンのみんなはより音を楽しめるんじゃないかなと。あと、個人的には最後のサビで畳みかけるパートというか「おねがいおねがい だいすきでしょ~」までをじっくり聴いてほしいです。終盤で楽器の音の圧が一気に増すんですけど、声もそれに負けないぐらいの圧を出して、印象に残るように歌ったので。もっと言えば、私がそうだったように、最低でも10回はリピートしてほしい(笑)。本当にスルメ曲だと思うし、何回も聴いて耳に馴染ませてもらいたいですね。

みんなと一緒に最高の思い出を作りたい

──今回のアルバムはドルビーアトモス対応でありつつ、秋にはLPレコードもリリースされるんですよね。

そうなんです。私自身はちゃんとレコードを聴いたことはないんですけど、好きな方法で音を楽しんでもらうという意味で「Apiacere」というコンセプトにも合っているんじゃないかなと。

──ただ、LPは片面に20分程度しか収録できないので、全曲は入れられないですよね。

そう、新曲を中心に厳選しつつ、実はLPレコード用の新曲も作っていて。その新曲はLP盤ならではの曲がいいという話をしているんですけど、私が本来好きな、懐かしのテイストの曲になる予定です。

──つまり80年代アイドル的な、具体的には当時の松田聖子的な楽曲ですか?

そうですそうです。今の私が歌う、80年代アイドルソングみたいな。

──それは楽しみですね。そして10月から東名阪と福岡のツアーが始まります。

私にとって初のツアーになりますし、ライブ自体、私はこれまで2回しかやっていないんですよ。なので、TrySailの麻倉ももに会ったことはあるけど、ソロでステージに立っている麻倉ももを観ている人って、けっこう限られているんじゃないかと思っていて。せっかく自分からみんなに会いに行ける機会なのでたくさんの人に会いたいですし、そこで出会ったみんなと一緒に最高の思い出を作りたいです。あと、地元の福岡に帰れるのもうれしいです(笑)。

──初のツアーということは、地元に凱旋するのも初ということですもんね。

イベントとかTrySailのツアーでは行ったことがあるけれど、1人で歌いに行くのは初めてなので、すごく楽しみです。まだセットリストとかも何も決めていないんですけど、今言ったように私はまだ2回しかライブしたことがなくて、要は過去の曲たちも全然歌えていないんですね。だからアルバムを引っさげたツアーではありつつも、いい感じに新旧織り交ぜて、昔からのファンの人も最近私のことを知ってくれた人も楽しめるようなライブにしたいなあと考えています。

プロフィール

麻倉もも(アサクラモモ)

1994年6月25日生まれの声優アーティスト。2011年に開催された「第2回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格し、翌年に声優デビュー。2015年に同じミュージックレインに所属する雨宮天、夏川椎菜とともに声優ユニット・TrySailを結成した。2016年11月に1stシングル「明日は君と。」でソロデビュー。2018年10月には1stアルバム「Peachy!」を発表した。2019年は2月に5thシングル「365×LOVE」、5月に6thシングル「スマッシュ・ドロップ」、9月に7thシングル「ユメシンデレラ」と3作品をリリース。2020年4月に2ndアルバム「Agapanthus」を発表し、11月に千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールでワンマンライブ「LAWSON presents 麻倉もも Live 2020 “Agapanthus”」を開催した。同年11月に8thシングル「僕だけに見える星」、2021年8月にテレビアニメ「カノジョも彼女」のエンディングテーマを表題曲とした9thシングル「ピンキーフック」を発表。2022年3月に10thシングル「彩色硝子」をリリースし、7月に3rdフルアルバム「Apiacere」を発表する。