麻倉もも「彩色硝子」インタビュー|主人公は私!自分の気持ちが詰まった、幸せいっぱいの10thシングル (2/2)

好きなメロディと歌詞を好きなように歌えました

──麻倉さんは、いつも歌詞の主人公になりきって、その人を演じるように歌っているというお話をこれまではされてきました。しかし「彩色硝子」に関しては、先ほど「自分の言葉で自分の気持ちを歌ってみたくなった」とおっしゃっていたように……。

「彩色硝子」の主人公は、そう、私ですね。

──ストーリーテリング的なスタイルではなく、自分として歌うのって、めちゃくちゃレアケースなのでは?

たぶん、初めてじゃないかな。「僕だけに見える星」も恋の歌ではなかったし、自分の経験と重なる部分もあったけれど、あくまで物語を読み聞かせるように歌ったので……うん、初めてですね。

──普段のレコーディングと違いはありました?

普段は「この歌詞の女の子はどういう気持ちなんだろう?」みたいなことを考えるんですけど、今回は今の自分をそのまま出せばいいので、あんまり考えずに歌えました。ただ、どうしても私は言葉をリズムにハメていくのに苦戦しがちで、特にAメロは気持ちを込めすぎるとリズムに乗り遅れてしまうんです。なのでリズム的なことに関しては頭で考えながら、何度も録り直して合わせていきましたね。

──歌声も幸せそうでした。特にサビは、歌詞に「燦々」とあるように彩度と明度がグッと増すような感じもあって。

うれしいです。やっぱりサビになると私の大好きな“伸びやか”ゾーンがくるので、そこは気持ちのままに声を乗せるだけみたいな。実はこのサビは、こうじゃなくなる可能性もあったんですよ。というのも、私が聴いたデモの状態から「ちょっとずつブラッシュアップしていきます」ということになり、最終的にサビのメロディがまったく違うものになっていて。もちろんそれも素敵だったんですけど、最初のデモにあった伸びやかさが薄れてしまったように思えたんですね。なので、私が「前のサビが好きです」と言って、元に戻してもらいました。

──いいじゃないですか、自分次第で。

自分次第で。うん、結果として、本当に好きなメロディと歌詞を好きなように歌えましたし、すごく楽しかったです。

──幸せそうでありながら、浮き足立ってはいない、等身大なボーカルでもあると思いました。

ああ。昔はもっと子供っぽいところがあったかなと思うんですけど、私もちょっとは大人になったんですかね(笑)。歌声自体も以前より落ち着いてきたような感覚もあって、だから今回のようなコンセプトにも挑戦できたんじゃないかなって。最初の頃のレコーディングは「どうしよう? どうしよう?」とガチガチで、そういう緊張や不安は自分ではどうにもならなくて、歌にも出ちゃったりしていたんですよ。でも、そのデビュー当初から今まで、スタッフさんに支えられながら麻倉チームとして動いてきたおかげで、ずいぶんと心が安定しましたね。

麻倉もも

ほぼ「眠い」しか言っていないけど、大丈夫?

──カップリング曲「ネムイケド」は、松坂康司さんの作詞・作曲・編曲による軽快なディスコナンバーで、表題曲とのバランスもとてもいいですね。

そう。自分でも、こんなにバランスのいいシングルは今までなかったんじゃないかと思います。表題は伸びやかでちょっと大人っぽい感じだったけど、カップリングは軽やかでかわいくて。その曲調の対比だけでなく、歌詞の偏差値も……。

──ああ、それ触れないほうがいいかなと思ったんですけど、そうですよね。

「彩色硝子」と「ネムイケド」を足して2で割ったら、ちょうど平均点が取れているみたいな(笑)。

──この曲をカップリングに選んだ理由は?

第一印象でメロディがすごく気に入ったのと、最近のシングルのカップリングが、「あしあと」(シングル「僕だけに見える星」カップリング曲)も「ふたりシグナル」(シングル「ピンキーフック」カップリング曲)もちょっとおとなしめだったので、このへんでアップテンポな曲を入れたいなと。デモの時点ではもっとバンドサウンドっぽかったんですけど、アレンジはガラッと変えることになって。どうなるんだろうと楽しみにしていたら、よりキラキラした、ポップな楽曲に仕上がりました。

──偏差値があまり高そうに見えない歌詞に関しては、麻倉さんから何か要望を伝えたりしたんですか?

最初に聴いたデモのときから、仮の歌詞の中に「眠いけど」という印象的なフレーズはあって。というか、ほぼ「眠い」しか言っていないし、私としては歌詞は変わる前提でこの曲に決めたんですけど、そのあとスタッフさんから「このフレーズ、面白いんじゃない?」と言われたんですよ。

──面白いのは確かですね。

「え、本当に? 大丈夫?」とけっこう悩んだんですけど、私の曲にはこういうお遊びっぽい歌詞はあんまりなかったし、「眠いけど」と睡眠欲に忠実な感じもだんだんかわいく思えてきちゃって。最終的に私が「これで行きましょう」と。ただ、自分の中に「幸せいっぱいのシングルにしたい」というコンセプトがあったので、サビでは幸福感を出してほしいというのはお伝えしました。眠いけど、どうしてもやりたいことがあって、歌いながらスキップしているみたいな。

──ボーカルもいい具合に力が抜けていますが、このテンポとリズムにゆるいボーカルを乗せるのは、技術的にかなり難しいのでは?

大変でした。やっぱりこの曲もリズムを意識しなきゃいけないし、眠そうな歌詞のわりにテンポは速いので。レコーディングも「今、ちょっとだけズレましたね」といつも以上にシビアに録っていて、表題曲よりも苦戦しましたね。私としては眠さをきちんと表現するとともに、最初はかなり眠そうなんだけど、徐々に覚醒していくみたいなグラデーションを付けたくて。歌い出しの1番Aメロは特に眠そうな声色を作ったんですけど、あまりにもまったりしすぎると音と合わなくなってしまうんですよね。なので、ディレクターさんと話し合いながら「ここは“眠い”度合いをあと10%だけ上げましょう」とか、微調整して。

──10%単位で調整できるものなんですか?

感覚的なものではあるんですけどね(笑)。レコーディングを重ねていくうちに、そういう微妙なディレクションにも応えられるようになりました。

ゆるさはありつつ、ちゃんと芯が通っている

──「ネムイケド」は恋の歌と位置付けていいと思いますが、従来のそれとは変化を付けてきたというか。例えば「パンプキン・ミート・パイ」(2018年8月発売の4thシングル表題曲)は、初デートを前にいても立ってもいられない女性の気持ちを描いた歌でした。

はい。

──それに対して「ネムイケド」は、「眠いけど、デートの約束しちゃったし、起きなきゃな」みたいな。

あはは(笑)。私の解釈だと、どちらかというと自分1人で完結しているというか。必ずしもこの歌詞に沿っているわけじゃないんですけど、例えば「今日はすごく天気がいいから、眠いけど出かけずにはいられない」みたいな、もっと広い捉え方をしていましたね。もちろん「だってキミがいるから」「キミと見つけたこの感覚」と、明らかに対象がいるので恋の歌とも解釈できるし、どんな解釈でも聴いてくださった方の解釈が正解なんですけど。

──「眠いけど」と歌ってはいますが、麻倉さんは寝起きがよさそうに見えます。

そうなんですよ。もちろんパッと起きられないこともなくはないんですけど、朝はめちゃくちゃ強いほうで。なので実生活では「ネムイケド」みたいな状況になることは、あんまりないかもしれないですね。

──もう少し歌詞の話を続けると、サビの「見上げ手をかざす ラララリルレロ」などは「寝ぼけてるの?」と思ってしまいますが……。

確かに(笑)。しかも大事なサビの7音を「ラララリルレロ」に使っていて。それを言ったら、Bメロのサビ前を「あぁあぁあぁあー」で埋めてしまうというのも、けっこう大胆ですよね。

──他方で、同じくサビの「世界で一番 自分らしく歩きたい」というフレーズからは、妙な意志を感じるんですよね。ほぼ「眠い」しか言っていない歌詞の中で。

うんうん。そこは歌っていて「この子、カッコいいな!」と思いました。「眠いけど」と言いながら、ちゃんと自分のやりたいこと、目標とすることがあって。あと「キミがついたため息なんて そよ風に変えて」というフレーズもかなり強いですよね。ゆるさはありつつ、ちゃんと芯が通っている感じがします。

──麻倉さんも「ゆるさはありつつ、ちゃんと芯が通っている」タイプでは?

本当ですか?

──自分を持っている人であるのは間違いないと僕は思っています。あくまでこうして何度かインタビューさせてもらっている中で受けた印象ですが。

ああ、確かに……いや、難しいなあ。自分では「こうありたい」と思いながらも、そういうふうにできていないことは自分が一番わかっているので。でも、変なところで頑固なのは間違いないですね。

──例えば?

あんまり人の勧めに乗らないというか。例えば誰かに「この曲いいよ」と勧められたとしても「私、こういうのはあんまり聴かないしな」と思うとフィルターがかかって、本当にいい曲だったとしても受け入れるのに時間がかかってしまったりすることがよくあるんですよ。でも、それは芯が通っているというよりは先入観にとらわれているだけで、そういう先入観が邪魔をして見えていないものがほかにもたくさんあると思うんですね。なのでもっと柔軟に、フットワーク軽く、なんでも受け入れていくというのを、ここ数年の密かな目標として掲げてはいます。

──「こうありたい」という芯をそのまま通せばいいと思いますし、あるいは「なんでも受け入れていく」という目標にしても、アルバム「Agapanthus」の時点である程度は達成されていませんか? 少なくともアーティスト・麻倉もものスタイルとしては。

ああ、そうか。なるほど、柔軟な部分もあるにはある……うん、そこは納得したというか、そういうふうに受け取っておきます(笑)。

麻倉もも

みんなが私にやってほしいことも、私のやりたいことに含まれている

──麻倉さんは、ご自分でもおっしゃっていた通り昨年11月にソロデビュー5周年を迎えました。その約1年前に行った「僕だけに見える星」リリース時のインタビューで、5周年を迎えたら「ゆるっとした身内のパーティみたいな」小規模なイベントを開催したいとおっしゃっていたのですが、覚えています?

はい。覚えていますし、実は今でも言い続けていて(笑)。「そうか、そのときから言ってたんだ」と思いました。

──どんなイベントになるのか見当もつきませんが、実現するといいですね。

ねえ。もちろんイベント開催となると場所も押さえないといけないし、私の気持ちだけじゃどうにもならない部分はあるんですけど、一応、折に触れてスタッフさんにお伝えしてはいます。

──「僕だけに見える星」のインタビューの時点では「5周年」を意識していなかったともおっしゃっていましたが、もう今は……。

すでに迎えているので、実感しています。周りの人たちからも言われますし、私自身も5周年記念のグッズを作ったり生配信をやったりと、何かと「5周年」という言葉が耳に入ってくるので、意識せざるを得ないという。

──麻倉さんが黙ってうどんを食べる配信、僕も拝見しました。「俺は何を見せられているんだ?」と思いながら。

ありがとうございます(笑)。スタッフさんから「5周年の記念に何がしたい?」と聞かれて、私のしたいことと言えば食べることだし「どうせなら一番好きなうどんを食べたい」と、生地をこねるところからやらせてもらいました。あれが許されたというか、みんな怒らずに優しく見守ってくれて「ホームだな」と思いましたね。

──確かに、あの配信が成立するのはファンとの関係性があってこそでしょうね。前回の「ピンキーフック」のインタビューでも「みんなとキャッチボールし続けられる関係でいられたらいい」とおっしゃっていましたし、実に麻倉さんらしいです。

私のやりたいことも見えてきたけど、みんなが私にやってほしいことも、私のやりたいことに含まれているんですよ。だからみんなの意見も聞きたいし、みんなの意見を取り入れることで「麻倉もも」がどんどん肉付けされていっている感覚が私の中にもあって。そうやって、これからもみんなで一緒に「麻倉もも」を作っていくみたいな、みんなと近い関係で活動していけたらいいなあ。

プロフィール

麻倉もも(アサクラモモ)

1994年6月25日生まれの声優アーティスト。2011年に開催された「第2回ミュージックレインスーパー声優オーディション」に合格し、翌年に声優デビュー。2015年に同じミュージックレインに所属する雨宮天、夏川椎菜とともに声優ユニット・TrySailを結成した。2016年11月に1stシングル「明日は君と。」でソロデビュー。2018年10月には1stアルバム「Peachy!」を発表した。2019年は2月に5thシングル「365×LOVE」、5月に6thシングル「スマッシュ・ドロップ」、9月に7thシングル「ユメシンデレラ」と3作品をリリース。2020年4月に2ndアルバム「Agapanthus」を発表し、11月に千葉・幕張メッセ 幕張イベントホールでワンマンライブ「LAWSON presents 麻倉もも Live 2020 “Agapanthus”」を開催した。同年11月に8thシングル「僕だけに見える星」、2021年8月にテレビアニメ「カノジョも彼女」のエンディングテーマを表題曲とした9thシングル「ピンキーフック」を発表。2022年3月に10thシングル「彩色硝子」をリリースする。