亜咲花|アニソンシンガーを貫く揺るぎない信念と、私らしさ

亜咲花が20歳の誕生日である10月7日に1stフルアルバム「HEART TOUCH」をリリースする。

2016年10月に高校生アニソンシンガーとしてデビューし、これまで「Occultic;Nine -オカルティック・ナイン-」「セントールの悩み」「ゆるキャン△」「ISLAND」「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」といったさまざまなテレビアニメ主題歌やゲームのテーマソングを担当してきた亜咲花。1stフルアルバムは彼女がこれまで歌ってきたアニメソング、そして挑戦心あふれる新曲をすべて収録した、10代の集大成的な作品となっている。

音楽ナタリーでは亜咲花にインタビューし、アニメをこよなく愛するアニソンシンガーとしての揺るぎない信念と、デビューから3年間での成長に迫った。

取材・文 / 須藤輝 撮影 / 星野耕作

オタクだからこそ歌えるアニソンがある

──亜咲花さんは2016年10月に17歳でデビューし、このたび20歳の誕生日に初のフルアルバムをリリースするわけですが、この3年間でシンガーとして自覚的な変化はありますか?

私はただの歌手ではなく“アニソン歌手”だけを目指していたので、それが叶ったときはもう歌えるだけで十分だと思っていたんです。そのうえ根がオタクなので、作品をリスペクトするあまり、その作品に染まりすぎてしまうんですね。でも、レコーディングを重ねていくうちに「もっと亜咲花らしさを出してもいいのでは?」と考えるようになって、今では自己主張するアーティスト・亜咲花と、アニメに身を捧げるアニソン歌手・亜咲花の配分をコントロールできるようになったんです。デビュー当初の音源を聴いていただければわかると思うんですけど、当時は“亜咲花らしさ”よりも、作品の世界観に重点を置いて歌っていました。

──でも、換言すればそれは当時の亜咲花さんにしか歌えなかった歌ということでもありますよね。

確かに。そういう意味では、このアルバムでは3年前の亜咲花から最新の亜咲花まで聴けるので、その変化も感じてもらえたらうれしいですね。

──逆に、デビューして3年経っても変わっていない部分はあります?

亜咲花

オタクなところですかね(笑)。とにかくアニメが大好きなので、さっき「アーティストとアニソン歌手の配合をコントロールできるようになった」と言ったんですけど、アニメソングを歌うとき、アーティストの比率が100%になったことは1回もなくて。なのでどの曲も、オタクだからこそ歌えるアニソンになっていると自分では思っています。

──ここまでのお話と被るかもしれませんが、今まで歌ってきたアニメ主題歌の中でターニングポイントになった曲を挙げるとすれば?

4枚目のシングル「SHINY DAYS」(2018年1月発売)ですね。テレビアニメ「ゆるキャン△」のオープニングテーマなんですけど、その「ゆるキャン△」がすごくヒットして、いろんな人に亜咲花を知ってもらえるきっかけになった曲でもあるので。あと、それまで私はEDMとかデジロックとか、素の自分とは正反対なクールな楽曲を歌うことが多くて、だからこそ「アニソンとは演じるものなんだ」と思っていたんですよ。でも「SHINY DAYS」で初めて等身大の自分に近い、明るくてポップな曲を歌ったことで「もっと自分をさらけ出していいんだ!」と気付けたんです。

──「SHINY DAYS」はソウル、R&Bテイストの楽曲で、亜咲花さんのハスキーな歌声とも非常に相性がいいですよね。

うれしいです。私はちっちゃい頃はちあきなおみさんや渡辺真知子さんのような歌謡曲をよく聴いていたんですよ。なので「SHINY DAYS」のような歌い上げる系のソウルフルな曲は歌っていても気持ちいいです。それから、私はデビューする前から「Animelo Summer Live」に出ることを目標にしてきたんですけど、「SHINY DAYS」のおかげでそのステージに立てたと言っても過言ではないんです。だからこの曲はアニソン歌手・亜咲花を語るうえで欠かせないし、これからも大切に歌い続けていきたいですね。

田淵節全開で!

──ここからはアルバムについて伺います。まず1曲目でリード曲の「Raise Your Heart!!」は、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)さん作曲、堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)さん編曲という、強力な布陣ですね。

もう、このタッグが実現したときは「マジか!」と。私はテレビアニメ「ナカノヒトゲノム」で「Code “Genius”?」という挿入歌を歌わせていただいたんですけど、その曲の作詞が田淵さんで、作曲・編曲がfhánaの佐藤純一さんだったんですよ。で、レコーディングが終わったあと、みんなでごはんを食べに行ったんです。そこで私が田淵さんに「曲を書いてくれませんか?」とお願いしたら快くOKしてくださって。

──直接ご自身でオファーされたんですね。

はい。私はオタクとして、LiSAさんや戸松遥さんを通して田淵アニソンを聴いてきたので「それを亜咲花が歌ったらどうなるのかな?」という好奇心から……というかまったく想像がつかなかったんですけど、絶対に楽しいはずだし、この機会を逃してはいけないなと。

──編曲の堀江さんは?

実はまだお会いしたことがなくて。田淵さんが「すごくいい曲できたら、堀江くん呼んじゃうね」とおっしゃって「ええー!」みたいな。私はPENGUIN RESEARCHも大好きなのでいつか共演したいと思っていたんですけど、自分の曲でご一緒できるなんて夢のようで。というか、まだ夢を見ている感じなんですけど(笑)。

──田淵さんに作曲をお願いするにあたって、何か具体的なオーダーを出したりは?

もう「田淵節全開で!」と。つまり田淵さんらしさがあふれるスピーディでアゲアゲなロックをお願いしつつ、自分の中で“ライブ当日の亜咲花”というテーマは決まっていたのでそれもお伝えしました。田淵さんに曲を作っていただくなら今まで歌ったことのない曲にしたくて、そこで「等身大すぎる亜咲花って、表現したことないんじゃないか?」と思ったんですよね。

──「Raise Your Heart!!」は亜咲花さんのオーダー通り“田淵節全開”な曲になっていますが、初めてデモを聴いたときの感想は?

「難しいな!」って。もちろん「カッコいい!」とも思ったんですけど、この田淵節に亜咲花が飲み込まれてしまうんじゃないかという不安もあったんです。でも、そこは負けじと亜咲花節もねじ込みつつ、いい感じにせめぎ合えたんじゃないかなって。あ、今思い出したんですけど、田淵さんに「コール&レスポンスを入れてほしい」というお願いもしていました。例えば内田真礼さんの「ギミー!レボリューション」みたいな、お客さんも一緒に乗っかれる一体感のある曲にしたかったので。そしたら、デモの時点でもう掛け声が入ってたんです。しかも田淵さんの声で。というか仮歌自体も田淵さんが歌ってくださって、「これは貴重だな」とニヤニヤしながら聴いてました(笑)。

大事なことなので3回言いました

──「Raise Your Heart!!」の作詞は亜咲花さんと田淵さんの共作ですが、どんなやりとりをなさったんですか?

まず、さっきお話しした“ライブ当日の亜咲花”というテーマに沿って、私がストーリーを最初から最後まで書いて、それを田淵さんに添削していただきました。「亜咲花ちゃんの気持ちはこういう言い回しにしたほうが伝わると思うよ」みたいなアドバイスをいただきつつ、例えば「とんでもないわ街角聞こえる Talk piece」とか「溢れる群集心理」とか、歌詞における田淵節も随所に入れていただいています。

──先ほど「等身大すぎる亜咲花」とおっしゃいましたが、1番Aメロの「鳴ってるだけスマホの Alarm 効果の無いスヌーズにWhat's?」からしてそういう感じですよね。ここ、すごく共感します。

そこは私の生態がモロに表れていて、私は低血圧なのでアラームが鳴っても寝ぼけて止めちゃうし、「ようやく瞼開けても ダルさは1000%」なんですよ。でも、そんなオフの私がお化粧したりしてライブに向けて仕上がっていくという。

──そして1番サビの直前で「キミを最高にアゲてしまうから、覚悟して!」と。

はい。やっぱり「Raise Your Heart!!」という曲名の通りみんなの気持ちもアゲアゲにしたいし、私もライブではいつも「イヤでも盛り上がってもらうぞ!」という気持ちでステージに立っているので。

──2番のサビで「大好きになる!」というフレーズを3回繰り返すのも効いていますよね。

お、うれしい! サビはほぼ私が書いた歌詞を採用してもらったんですけど、最初は3回とも違うことを言ってたんです。でも田淵さんに「おじさんはそんなに歌詞を覚えられないよ」と言われまして(笑)。

──ははは(笑)。

なおかつ「伝えたい言葉があるなら繰り返したほうがいい」とも言われて「確かに!」と思ったんです。私は自分の思いを伝えたいという気持ちが強すぎて前のめりになっていたというか、サビにいろんな言葉を詰め込もうとしていたんですね。でもそうじゃなくて、自分が本当に伝えたい大事なことなら3回でも4回でも言っていいんだなと。それも含めて、今回は田淵さんから作詞の仕方についてもたくさん学ばせてもらいました。