有安杏果|ソロ活動、結婚、そしてコロナ……いくつもの転機を越えて選んだ音楽

恒例の“逆再生メドレー”

──このツアーでは新曲に加えて、各会場ごとに異なる選曲のカバーも披露されました。カバーは全7曲でしたが、どういう基準で選んだんですか?

ひさしぶりの全国ツアーだったので、各地で全部違う曲を選びたいなと思って……最初はその土地土地の出身のアーティストさんで選ぼうと思ったんですよ。それで、九州だったらWANIMAさんとか、北海道なら玉置浩二さんとか、なんとなくそういう感じで選んだんですけど、どちらかと言うとシンプルに自分が歌ってみたかった曲を選んでいます。

──音源ではツアーファイナルで歌われた斉藤和義さんのカバー「歌うたいのバラッド」のほか、大阪公演のEGO-WRAPPIN'「くちばしにチェリー」のカバーも収められています。

「くちばしにチェリー」は、初めてのソロライブ(2016年7月3日開催の神奈川・横浜アリーナ公演「ココロノセンリツ ~Feel a heartbeat~ Vol.0」)が決まったときに、実は歌おうと思っていたカバー曲なんです。昔から歌いたかった、ずっと温めていた曲でもありました。

有安杏果

──有安さんのライブと言えば、ライブ本編で演奏した全曲を、セットリストを逆にしてダイジェストでプレイする、しかもアレンジは曲ごとに大きく変えるという“逆再生メドレー”が恒例になっています。こちらはライブBlu-ray / DVDのほうで観ることができますが、そもそもこの逆再生メドレーはどういうきっかけでやり始めたんですか?

ぶっちゃけると、最初の頃はまだ自分の持ち曲が少なかったから始めたんです(笑)。自分の曲だけでライブを1本やるには曲が足りないな……と思っているときに「これなら20分ぐらい持つかな」って。

──聴き応えのあるメドレーですが、どうやってアイデアを固めたんですか?

逆再生メドレーは、昔KANさんがやっていたんです。それは3分ぐらいの中に早回しのように詰め込まれたメドレーで、本編で歌ってない曲も入ってたんです。それをもっと膨らませて、なおかつ自分の曲を全然違うアレンジでやってみるのはどうだろう?と思い付いて。最初にスタッフやバンドメンバーに伝えたときは、みんなポッカーンでしたけど(笑)。「何言ってんの?」みたいな感じで全然乗ってくれなくて。最初の骨格を作るまでは大変でした。あと、ツアーでセットリストが変わると逆再生もそれに合わせて変えなくちゃいけないから大変(笑)。

アレンジへの興味

──「Pop Step Zepp Tour」では中盤に披露された2つの新曲「LAST SCENE」「Do you know」も大きな見どころでした。どちらも大人っぽいムードで、「Do you know」では激しい動きのコンテンポラリーダンスも披露されるという。

有安杏果
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これがさっき話した、セットリストを早く考えすぎたがゆえにできた曲です(笑)。配信シングルで出した「Runaway」も同じで。ツアーは2DAYSで回る会場が多かったので、ロック寄りの日と、ジャズテイストの曲が多い日の2パターンできないかなと考えて、ロック寄りの新曲をと思って作ったのが「Runaway」。で、ジャズテイストで考えたのが「LAST SCENE」と「Do you know」の2曲なんです。すでにあるジャズテイストの「遠吠え」や「愛されたくて」(どちらも2017年10月発売の1stソロアルバム「ココロノオト」に収録)のようなポジションになる曲で、かつ踊れる曲。私が唯一小さい頃から続けているのがダンスだし、今でもレッスンに通っていて好きなので、なんというか、踊れるうちに踊っておきたいなって(笑)。

──なるほど(笑)。ソロでは歌と楽器に集中していると思っていたので、「Do you know」で激しく踊り出したときはちょっと驚きました。

ふふふ(笑)。「Do you know」はずっとストックしていた曲だったんです。特に世に出す予定もなく作った、ちょっとBoAさんみたいなイメージの曲が実は何曲かあって。その中で今歌ってみたい曲として「LAST SCENE」と「Do you know」の2曲を選びました。歌詞は「大人の恋の始まりと終わり」というテーマを決めて、2曲で始まりと終わりをそれぞれ描いてみました。

──この2曲、ライブではジャズに寄ったアレンジになっていましたけど、例えば先ほど挙がったBoAさんのように打ち込みを主体としたダンストラックでもいけそうですよね。

そうなんです。自粛期間中は楽器の演奏だけじゃなく、DAWの打ち込みにも挑戦していて。奥が深いからまだまだ全然わからないんですけど、だんだんアレンジに興味が湧いてきました。今までは漠然と「こういうアレンジにしたいな」と思っていたものが、「ここでこういうギターソロが欲しい」とか、もっと具体的に考えるようになって。とりあえず自分のイメージに近いデモを作ってみるという感じでDAWを試しています。

──アイドル時代はそれこそいろんなジャンルの音楽を提供されて、それを自分なりに表現するという挑戦がありましたよね。今は自ら方向性を定めて表現する立場ですが、その境界に大きな違いはありますか?

うーん、そこまでない気がします。アイドルを卒業してソロになって……そこで曲の方向性が大きく変わったり、歌い方が変わったり、なんなら容姿まで変わってたりしたら違うと思うんですけど(笑)、結局そんなに変わってないので。

──今はセルフプロデュースの状態ですけど、アイドル時代と同じように、例えば誰かプロデューサーを立てて、完全に手綱を預ける形で乗っかってみるというのも今やると面白いかもしれないですよね。

うんうん。そうですね。でも、なんだかんだと自分自身で考えてる時間がやっぱり一番楽しいんですよね。

ポジ子率が上がりました

──今春のツアーは結局中止になってしまいましたが、11月12日に「有安杏果 サクライブ 2020 “渋谷公会堂公演”」として1本に集中して開催されることが決定しました。LINE CUBE SHIBUYAで、観客を入れつつ配信も行うライブとなりますが、今はどのような心持ちでしょうか。

春のツアーでやろうと思っていたことを1本に凝縮するような形になるんですけど、さっきお話ししたように、ツアーのリハはめちゃくちゃやっていたので、準備は万端なんです。

──先ほどのお話で言うと、お客さんが歌わないバージョンのライブになる?

有安杏果

そうなりますね(笑)、おそらく。しっかりシミュレーション済みではあるので、大丈夫かな。全部で8本予定していて、一旦は延期ということで準備していたけど、結局全部中止になってしまって……跡形もなくなってしまっていた「サクライブ 2020」が1回だけでもやれるというのはやっぱりうれしいです。幸い、一緒にツアーを回るはずだった同じメンバー、同じチームで集まれるんですよ。まったく同じメンバーで集まるなんてなかなかできないと思うし、それが年内に1回だけでも実現できるのは本当によかったなって。

──さらには1月の東名阪ツアーも発表されました。

これもすでにセットリストはなんとなく考えてます(笑)。変わるとは思うんですけど、自分のモチベーションのためにもある程度は考えていて。このツアーのバンドメンバーと一緒に制作した新曲もいくつかやろうかなと思っています。

──おっ、それは楽しみですね。新曲の仕上がりはどんな感じでしょうか?

たぶん、みんながびっくりするような曲もあると思います(笑)。アレンジの細かいところまで自分の意見を伝えられるようになったぶん、曲への愛着も今まで以上に強くなったし、より胸を張って「これはいい」と自信が持てるようになりました。

──ちなみに、「Pop Step Zepp Tour」ではネガティブになりがちだった自分だけどこれからは「ポジ子」になる、という宣言がありました。今はどうですか?

春のツアーがなくなったときは「ここまでがんばったのになくなってしまった」という感じだったけど、むしろ熱い気持ちというか、ここでネガ子になるよりも「よし、いつかまた絶対にライブをやってやるぞ!」とストイックに自分を磨くほうに頭を切り替えられたので、すんごいポジ子だったんですよ。ただ、コロナ禍が長引くにつれだんだんネガ子も出てきちゃったんですけど(笑)、まあ繰り返しですね。

──そうそうスパッとは切り替わらないですよね。

でも、トータルで見ると明らかにポジ子のほうが勝っていて。それはやっぱり結婚したことが大きいと思います。結婚してポジ子率が上がりました(笑)。

公演情報

有安杏果 サクライブ 2020 “渋谷公会堂公演”
  • 2020年11月12日(木)東京都 LINE CUBE SHIBUYA
有安杏果 東名阪ツアー
  • 2021年1月9日(土)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2021年1月11日(月・祝)大阪府 なんばHatch
  • 2021年1月16日(土)東京都 チームスマイル・豊洲PIT
  • 2021年1月17日(日)東京都 チームスマイル・豊洲PIT

<バンドメンバー> 福原将宜(G) / 山口寛雄(B) / 玉田豊夢(Dr) / 宮崎裕介(Key)

有安杏果