安斉かれん「ANTI HEROINE」「僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。」インタビュー|音楽で示す多彩なヒロインの姿 (2/2)

ドキンちゃんは私の中ではヒロイン

──1曲目の「へゔん」の歌詞からは現代社会でもがきながら生きる様を感じました。

最初曲を聴いたときに、天に昇りそうな感じとか、空から光が降ってくるような感じだなと思ったんです。人って何かあるとすぐ神様に頼るじゃないですか。「神様お願いします」って願ったり、何か悪いことが起きたときに「神様がこっちを向いてくれなかったな」って思ったり、見えないものにすがりたがる。それで、行き場のない思いや助けを求める気持ちを書いていきました。

──中盤、「セカイが私を観るからワタシも世界を視る」というセリフ調のパートがあります。これはどんなイメージだったんでしょう?

曲がほぼできあがった段階で、ディレクターと「ここは語ったほうがいいかもね」という話になったんです。それで「神とはなんだろう?」ということをどんどん考えながら紙に書いていきました。神様の視点の位置を考えて膨らませていきましたね。神様から見るとこの世界は狭いかもしれないけど、その逆もあるのかなとか。

──歌詞を書くときは視点が重要なんですね。

確かにそうですね。さっきの話に出てきた、主人公が自分だと恥ずかしいから別人格になりきろうとするっていう話にもつながりますね。そのほうが歌いやすいんです。

安斉かれん
安斉かれん

──逆に、自分が一番出ている曲というとどれだと思いますか?

自分1人で書いた歌詞じゃない曲のほうが、かえって自分が出てるなと思いますね。今回のアルバムでいうと、「ら・ら・らud・ラヴ」とカバー曲の「私はドキンちゃん」の2曲。「ら・ら・らud・ラヴ」は私にとって初めて歌詞を共作した曲なんですが、最初にOHTORAさんからいただいた歌詞がすごく私っぽいって思ったんです。「誰かに解ってもらえるほど 本当は単純で素直じゃないの」とか自分じゃ照れくさくて書けない歌詞なんです。でも、自分以外の方が書いてくれたことによってめっちゃ歌いやすかった。初めて「この歌詞のままがいい」ってディレクターに伝えましたね。それで、少し歌いづらかったところだけ自分で書かせてもらいました。最後のサビの「ほら、ぴったりHappiness」のところや、あと1番では「きっとキミ次第で この先の結末は変えられるはず」だったのを最後は「きっとキミ次第でこの音の結末は変えられるはず」に変えたり。ここはその前に「交響曲がなきゃ始まらないわ」というフレーズがあったので、“音”って言葉に変えたいなと思ったんです。

──「私はドキンちゃん」はどういう部分に安斉さんが出ているんですか?

私はTwitterに「ドキンちゃんになりたい」って書くほど、ドキンちゃんに憧れていて。ドキンちゃんは敵役でバイ菌なんだけど、しょくぱんまんに恋をする。でも、しょくぱんまんはパンだから、菌類のドキンちゃんとは結ばれない。それをわかりながら、一途に思う感じが超健気だなって。それに、ドキンちゃんは自分をかわいそうだと思ってない。見た目もキュートだし、性格もかわいいから、こういうワガママな歌詞の歌を歌っても嫌味に聞こえないんだと思うんですよね。人間でも、「この人が言うとウザイけど、同じことを違う人が言うとウザくない」みたいなことってあるじゃないですか。人間力とか、醸し出す雰囲気によって、受け取られ方が違いますよね。私もそういう人になりたいと思ったし、ドキンちゃんがめっちゃいい例だなと思ったからカバーさせてもらいました。オリジナルの曲は日本の童謡っぽい感じがありますが、ダークポップなすごくカッコいいアレンジにしてもらって「最高!」って感じです(笑)。ドキンちゃんは私の中ではヒロインなんですよね。

──確かに、ドキンちゃんって敵役だけど、嫌われないですよね。

そうなんです。真面目に悪をやってるからいいんだと思うんです。それがドキンちゃんにとっての正義だから。ドキンちゃんであることに誇りを持ってるし、かわいくて強い女子。プリキュアと同じですよね。

──敵役に惹かれるところもあるんですかね。

ああ、でも歌詞を書くようになってから、例えば「ハリー・ポッター」を題材にするならハリーの視点じゃなく、ドラコ・マルフォイの視点で書くとまた違うストーリーになるなって思うようになりました。やっぱり視点を変えて考えるのが好きで、昔からドキンちゃんの視点で「アンパンマン」を観ていたんだと思います。

最近は「全員味方にしちゃえばよくない?」みたいな感覚

──「僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。」にはデビュー3部作の“Re:プロデュースバージョン”などが収録されていますが、こちらのアルバムにはどんな思いがありますか?

最近よく聴いてますけど、エモいですね。懐かしさも感じますし、歌詞を読むと「がんばったな」「すごく考えてたんだな」って思います。

安斉かれん

──その頃と比べて一番変わった部分というと?

強くなったと思います。昔は敵を作りすぎてたというか、全員敵だと思ってましたね。最近は「全員味方にしちゃえばよくない?」みたいな感覚になった(笑)。一番ハッピーになれる方法を考えて生きてたら自然とそう思うようになりました。

──「キミとボクの歌」ではピアノを、「てくてくカレンダー」ではサックスをご自身で演奏しています。楽器のプレイヤーとしてはどう成長していきたいですか?

「ANTI HEROINE」のビジュアライザーの撮影場所にギターが置いてあって、「ギターめっちゃカッコいい」と思って弾き始めたんです。だから今爪を短くしてて。もともとサックスのインストラクターを目指してたくらい楽器を演奏するのが好きなので、今後もいろいろやってみたいですね。「てくてくカレンダー」でひさしぶりにサックスを吹いてみて、初めはうまく吹けなかったんですけど、やっぱり楽しかったですね。サックスはリード楽器なので、リードを買いに行って、「ひさしぶりだから薄いほうがいいかな」とか考えるのも楽しかった。サックスをレコーディングするのは初めてで、昔自分がずっとやっていたことが今に繋がったことがうれしくて。

音楽以外のことに興味が持てない

──2年前のインタビューでは「“安斉かれんらしさ”がまだわからない。『安斉かれんといえばこれ!』みたいなのはまだタイミング的にいらないと思うし、自然と出てくるはずだ」とおっしゃってました。今はどう思っていますか?

変わらないかもしれないです。まだわからない。そのままいろんなことをやっていけば、そのうち生まれるんじゃないかなと思ってます。別に“らしさ”を求めてるわけでもないし、あったらあったでいいんですけど、探ってる感じなのかな。本当にいろんなことがやりたいんですよね。今はアルバムを出して新しい曲がたくさん増えたのでライブがしたいです。バンドと一緒にライブハウスでやりたいですね。

──以前は「音楽は唯一続けているもので一番好きなものだ」ともおっしゃってましたけど、その気持ちに変化はありましたか?

やっぱりすごく好きなものですね。本当に唯一です。音楽以外のことにあまり興味が持てないんですよね。ずっと音楽聴いてるし、だからイヤフォンの充電が切れてるとめっちゃバッド(笑)。「じゃあ何すればいいの?」みたいな気持ちになります。

安斉かれん

プロフィール

安斉かれん(アンザイカレン)

1999年8月15日生まれ、神奈川県出身の歌手。2019年5月リリースのデジタルシングル「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた」でメジャーデビュー。以降コンスタントに作品を発表する傍ら、2020年4月から7月まで放送されたテレビ朝日とABEMAの共同制作ドラマ「M 愛すべき人がいて」にて主人公・アユ役を演じ、大きな話題となる。2023年3月に1stアルバムとして「ANTI HEROINE」と「僕らはきっと偽りだらけの世界で強くなる。」の2作を同時リリースした。