表面的に真似してもああいうふうにならない
SHINCO デイヴィッド・バーンって、ベースにブラックミュージックがあるんだけど、ファンキーに振り切れないじゃん。スタイリッシュな感じもあって、絶妙なところをキープしてるというか。
Bose ベースがブリブリだったり、サウンドは超ファンキーなんだけど、本人はファンキーに行ききってない。白人っぽいっていうか、すごい独特だよね。
SHINCO あのヘタウマっぽいボーカルスタイルも影響してるのかな。Tom Tom Club(Talking Headsのリズム隊が1981年に結成したサイドプロジェクト)もヘタウマ感あるじゃん。ラップをやるにしても、そのまんまはやらないというか。あのへんの人たちはルーツに独特の距離感を持ってる感じがする。
──デイヴィッド・バーンはアフリカ音楽やラテン音楽とか、そういったワールドミュージックのリズムも早い時期から取り入れていますが、ルーツを探求する方向に行くのではなく、巧みに自分のスタイルに取り入れていますね。
Bose いや、本人としては超ファンキーにやってるつもりだけど、結果としてああなってるのかも。実は天然で、一生懸命やったらああなってるっていう(笑)。そこがカッコイイなと思って。それは、ずっと同じことをやりながら進化してるアーティスト全員に感じることで、表面的に真似しても絶対にああいうふうにならないと思う。そういう意味でもASA-CHANG&巡礼にすごく似てるのかも。タブラボンゴを叩いたりしてるけど、インドの人から見たら「インドにこんな音楽ないよ!」みたいな感じかも。
ANI 滲み出る演歌感みたいな(笑)。
Bose そうそう。日本人だったら、そういうものが出るんだろうなって。「日本海が見える」みたいな(笑)。それが正しいんだろうなと思うし。そして襟を正して、見えない作務衣を着る(笑)。
ANI・SHINCO はははは(笑)。
ポール・オースターの小説を読んでるような感覚
SHINCO ちょっとミュージシャンにしては芝居がかってる感じもあるじゃん。日本でいうとKERAさんタイプというか(笑)。
Bose ステージに立ってるときは、別人格みたいな。確かにそういう感じはあるね。
──デイヴィッド・バーンは美大に通っているときから、演劇的なパフォーマンスとバンドのライブを融合させるような試みをやっていたみたいです。
Bose 歌詞なんかも面白い。映画ではテロップで翻訳が出るから「歌い出し、これか!」みたいな曲がたくさんありましたね。知ってる曲でも、「こんな歌詞だったんだ!」とか。歌詞もアメリカ人的というか、日本の歌にはない感じだよね。ポール・オースターの小説を読んでるような感じというか。
ANI ああ、確かに。
Bose 正確に言うと、ポール・オースターの小説を柴田元幸先生が日本語訳したようなイメージ(笑)。アメリカ文学ってこういう感じなんだろうなっていう。
──選曲にも演出を感じましたね。1つの大きな物語が見えてくるような曲の並びになってるというか。
ANI ちょうど真ん中ぐらいに「Once In A Life Time」を歌って。
──半分くらいが2018年にリリースしたアルバム「American Utopia」からの曲なんですけど、ここぞというところに「Burning Down The House」を入れたり、ヒット曲を随所にちりばめながら。
Bose そういうのもちゃんとやるんですよね。言ってることが一貫してるから、昔の曲と今の曲が混じっても違和感がない。
クリエイターを名乗る者への問いかけでしょ、これは?
──では最後に、皆さんのグッと来たポイントを教えていただけますか?
Bose 僕は、まさに今現在2021年に、あの年齢までさまざまな経験を重ねたデイヴィッド・バーンとスパイク・リーが「これが最新のエンタメですよ!」って提示してる気がしましたね。「これが結局、世界のスタンダードになっていくからねッ!」って。
SHINCO 「都市伝説」のセキルバーグばりに(笑)。
Bose そう。これが最先端だよって。
ANI っていうことだよね。
Bose 「どうですか? 世界の皆さん」って。一番上に存在するエンタメって感じがする。「ここから、どう影響を受けて違うものを作っていけばいいのか?」っていうことを感じながら……クリエイターを名乗る者への問いかけでしょ、これは?
──最新型のエンタテインメント?
Bose 「ついに来ました!」っていう。ただ皆さん、表面を真似するのはやめてください(笑)。この映画みたいなこと、CMとかでやりそうだけど、それはクソダサくなるから。
ANI・SHINCO はははは。
──SHINCOさんはいかがですか?
SHINCO (音楽と映画の)2大巨頭が想像を超えたコラボを展開していてすごくよかったですけど、全編的にすごくポジティブだなと思って。ぶっとくて力強いメッセージが込められてるなって。すごく前向き。
──「アメリカン・ユートピア」というタイトルを初めて聞いたとき、たぶん皮肉っぽい作品なんだろうなと思ったんですけど違いましたね。
Bose ね!
SHINCO 僕もディストピアみたいな意味で使ってるのかなと思った(笑)。
Bose 基本は皮肉なんだろうけど、その先だよね。
ANI 年を重ねて、ユートピアを目指すのは無理だとは思いつつ……。
Bose でも、きちんと理想を言い続けるのが偉いよね。本当は絶望してるかもしれないけど、あえてポジティブなメッセージを発信し続けるっていう。
ANI 偉いよね。
──ANIさんはいかがでした?
ANI エンタテインメントとしてしっかり面白い作品になってるのがすごいと思いました。デイヴィッド・バーンの底力を見せられた感じがしますね。力強いメッセージがある半面、ちゃんとユーモアもあって。
Bose 笑えるしね。でも、すごすぎて落ち込むよね。ピクサーの映画を観たときのような落ち込み(笑)。どうやってこういうものを作るんだろう、みたいな。
──トランプ政権の樹立みたいな大変なことが起こる一方で、アートやエンタテインメント側からしっかりリアクションがある。そこがアメリカの底力ですね。
Bose 都会の人たちは、トランプのことをやっぱりいいなんて思ってないんだなっていうことが、この映画で改めてわかるっていう。
SHINCO MCでお客さんのウケるポイントとかでね。
Bose 政治の話なんかをライブでしたら、日本だとちょっと硬くなっちゃうから。やっぱり面白おかしくやらないと。政治的なメッセージを発信してるアーティストはいるけど、笑えたりするようなところまでは行けてないっていう。
──この作品から、いろいろとヒントがもらえるかもしれないですね。
Bose この映画を観て、「こんなのは古い!」と思って、若い人たちが自分たちなりのやり方で何かを表現するようにもなればいいと思うし。そういうエネルギーにもつながる作品だと思いますね。