元Talking Headsのフロントマンであるデイヴィッド・バーンが出演し、スパイク・リーが監督を務めたライブ映画「アメリカン・ユートピア」が5月28日より公開される。
本作の原案となったのは、2018年にバーンが発表したアルバム「American Utopia」。同作のワールドツアー後、2019年の秋にはブロードウェイのショーとしてライブの世界観を再構築した舞台が上演され、その斬新な内容が好評を博す。バーンは舞台の映像化を考え、「ドゥ・ザ・ライト・シング」などで知られる映画監督スパイク・リーに声をかけ、いざ映画化がスタートした。本作でバーンは、総勢11人のミュージシャンとダンサーを従え、マイクスタンドやドラムセットはおろかアンプや配線をも排したシンプルな舞台で、ひたすらエネルギッシュに歌い、踊る。そしてMCでは、ウィットに富んだ口ぶりで選挙の重要性や人種問題など現代アメリカが抱えるさまざまな問題について観客に語りかける。
音楽ナタリーではスチャダラパーに「アメリカン・ユートピア」をひと足先に鑑賞してもらいインタビューを行った。1988年の結成以来、格差社会や高度資本主義など社会的なテーマを、時にシニカルに時にユーモアを交えラップしてきたスチャダラパー。3人は本作に込められたメッセージをどのように受け取ったのか?
取材・文 / 村尾泰郎 撮影 / 沼田学
真っ先に覚えた小沢健二とのシンクロ感
──まずは今作をご覧になられた感想をお伺いできればと思います。
SHINCO スパイク・リーの映画だなって(笑)。デイヴィッド・バーンのスタイリッシュな雰囲気も相まって、ニューヨーカーが作る映画だなって思いました。
Bose オープニングからすごかったよね。デイヴィッド・バーンが脳のオブジェを片手に語り出すっていう(笑)。
SHINCO 「突然なんの話をしてるんだ?」って。
Bose 「Stop Making Sense」(Talking Headsのライブ映画)は観てたけど、デイヴィッド・バーンの活動をずっと追っていたわけではなくて。それこそヒットした曲を知ってるくらいなんだけど、十分楽しめました。
ANI 「Burning Down The House」とか、ちょっと流行ったよね?
Bose いや大ヒットしてるよ!(笑) Talking Headsの曲、めちゃくちゃヒットしてる。
ANI そっか。デイヴィッド・バーンのこと、僕もほぼ知らないから。De La Soulのアルバム(2016年発表の「And The Anonymous Nobody」)にフィーチャーされてたよね。
Bose この映画って、僕らが若い頃、ラジカル・ガジベリビンバ・システム(1985年から1989年まで活動した演劇ユニット。宮沢章夫、シティボーイズ、中村ゆうじ、いとうせいこう、竹中直人らが参加していた)の舞台を観てたときに感じたようなおしゃれさもあるな、とも思った。
ANI 抽象的だしね。政治ネタを取り入れるにしても。
Bose あとデイヴィッド・バーンのパフォーマンスを観て、真っ先に感じたのが小沢(健二)くんとのシンクロね(笑)。うまく言葉にできないんだけど。
SHINCO でも、言わんとしてることはよくわかる。
Bose で、ルックス的には小澤征爾さんもチラついて。
ANI 確かに似てる(笑)。今のデイヴィッド・バーン、見た目はオザケンと小澤征爾の中間という感じ。
Bose MCで言ってることも小沢くんに似てるなと思った(笑)。デイヴィッド・バーンって今、何歳なんですか?
──1952年5月生まれなので、68歳ですね。
Bose まさにニューヨーク在住の賢いリベラル的な、あれぐらいの世代を代表する存在だよね。言ったらビートジェネレーションの精神を継承してる感じというか。ニューヨークの(音楽シーンの)文脈でいえば、Beastie Boysのちょっと前に登場した人だよね。ポストパンク〜ニューウェイブ〜ヒップホップみたいな。
バンドメンバー全員踊れるのはすごい
SHINCO ダンサーの存在感もよかったよね。ちょうどいいんだよね。らくちんに踊ってる感じで。
Bose バンドメンバーも踊って。演奏もダンスも両方できる。僕らが一緒にやってるバンドのメンバーにあれをやれと言っても絶対にできないでしょ。
SHINCO たぶん全員苦笑い(笑)。
Bose ああいうことができないから、黙々と演奏してるわけじゃん(笑)。
ANI はははは。
Bose 笹沼(位吉)くんとかKASHIFにあれを望んでも無理じゃん。そもそも踊りたくないわけだから(笑)。
ANI 間違いなくミスるし(笑)。
──ダンスはもちろん、隊列を組んでステージ上を移動したりするのも、ミュージシャンとしては大変なことですよね。
Bose 表情1つとってもそうですよ。演奏しながら、ちゃんと映されてる人の顔になってる。「楽しくやってます!」という顔ができるっていうね。日本のバンドマンにあれを求めるのは、かなりハードルが高いと思う。
SHINCO 全員踊れるっていうのはすごいよね。さらにダンサーが最後にピアニカを吹いて、「楽器も演奏するんだ!」って。コーラスもするし、なんでもできる。
──そのあたりはブロードウェイのクオリティなんでしょうね。
Bose ジェンダーフリーな編成も今っぽいよね。性別も年齢も国籍もバラバラなメンバーでバンドが構成されてる。
アジア系ミュージシャンが入るならば?
Bose ただ1つ気になったのは、バンドメンバーにアジア人が1人もいないっていうことで。
──撮影が行われたのは2019年ですが、アジアンヘイトが問題になっている今、新たにバンドを形成するとしたら、アジア系のミュージシャンを入れるかもしれないですね。
SHINCO 試写会で偶然隣の席がASA-CHANGだったんだけど、ASA-CHANGが入ってたらいいよね(笑)。
Bose デイヴィッド・バーンが今回のステージで表現しようとしてたことって、ASA-CHANG&巡礼に近いのかも。あのステージ構成って巡礼がやってたことにそっくりで。
SHINCO コンテンポラリーダンスも入ってるし。
Bose ANIがあそこで踊っててもおかしくないよね(笑)。
ANI 「アオイロ劇場」(2009年5月に東京・世田谷パブリックシアターにて開催された舞台芸術イベント。ASA-CHANGが総合演出を手がけた。ANIもダンサーとして出演)の感じね。確かに巡礼の世界観に似てるなと思った。
Bose アメリカ人の白人がやると哲学的になって、ASA-CHANGがやると仏教的な要素とかが入ってくるから、日本の土着的な雰囲気が出てくる。でも、すごく似てるよね。
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ダイナミックなようで緻密なパフォーマンス