全部爆破しちゃったけどね
──そんな中で1stミニアルバム「BOUNDARIES -SET A-」が完成しました。収録された6曲はすべてアルバム用の新曲ですか?
Alisa すべてこの1年の間に書いた曲です。オーストラリアはロックダウンが厳しくてずっと家にいたので、部屋にこもってマイクの前に立っていました。胸の中に溜まっていた気持ちを、全部音楽で形にしたんです。
Alisa そうですね。3年半ぐらい付き合っている恋人がいるんですけど、コロナのせいで会う予定がどんどん延期になって、いつ会えるのかわからない。そのときの気持ちをもとにした曲ですね。
──そんなふうに実体験をもとにした曲が多いのでしょうか。
Alisa そうじゃないと書けないかもしれない。映画に刺激を受けて三角関係みたいな曲を書いたことがあるんですけど、実体験をもとにした曲を書くほうが楽しかったです。想像した物語をもとに曲を作っても、しっくりこないというか。
──監督はこの曲のミュージックビデオを手がけられていますが、映像のイメージは歌詞から思い付かれたのでしょうか。
Alisa 監督のイメージを聞いてびっくりしました。前半はかわいい感じなので、そのまま行くのかな、と思っていたらダイナミックな展開で「こんなふうになるんだ!」って。
──撮影はいかがでした?
Alisa 楽しかったです。セットがかわいくて、ビンテージみたいな小道具もあって。
──燃やすのがもったいないくらい、こだわりを感じさせる美術でしたね。
Alisa MVに出てくる切手は、お父さんに頼んで地元の郵便局で買ってきてもらったんです。
──そうだったんですか。ほかの曲も監督にMVを作ってほしいですね。
Alisa ぜひ、お願いしたいです。
──1曲で1本の映画が! すごいですね。ちなみにAlisaさんは、どんな思いでこの曲を書いたのでしょうか。
Alisa 仲がいい友達なんだけど、それ以上のことを求められたら関係が崩れてしまう。友情が壊れてほしくないから、もう言わないで、みたいな気持ちを曲にしました。
──それが監督の頭の中で新しい物語を生み出したんですね。
──今度は19世紀のイギリスが舞台ですか。この曲はどんな思いで書いた曲ですか?
Alisa これまで書いた曲の中で一番自分を掘り下げた曲で、自分がつらかったときのことを書いてます。
──そんなこと言われたら泣いちゃいますね(笑)。
Alisa 発想がすごいです。
デヴィッド・リンチに通じる毒と棘
──監督は普段から、そんなふうに音楽に刺激を受けて物語を生み出すことが多いんですか?
──Alisaさんも栓抜き効果があるのかもしれないですね。聴く人のイマジネーションの栓を抜く。
Alisa 監督にそう言っていただいたので、ちょっとやってみようかなと思っています。
──歌詞とはまた違った世界が広がりそうですね。監督からみてAlisaさんの歌詞の魅力はどんなところですか?
──先ほどおっしゃっていた“棘”みたいなもの?
Alisa うれしいです。そういう棘の部分が自分でも好きなので。普段はそういうところは音楽でしか出していない。今、向こう(オーストラリア)で流れている曲より、暗いところはあるのかなと思います。
──棘のルーツに心当たりはありますか?
Alisa 小さい頃から、お母さんに「いつもハッピーね」と言われ続けて来たんです。そのうち、「あれ、私ってそんなにハッピーだったっけ?」と思うようになって。そして、大人になるにつれて「常にハッピーではいられないな」と思うようになったんです。だから「ハッピーじゃないといけない」と思っていた子供の頃と今の性格は違うかもしれないですね。いつもハッピーなんて不自然だし、どこかでアウトプットしないといけない。それが音楽なのかなと思います。
Alisa どうでしょう……。今回のアルバムに関して言えば、コロナ前、日本に留学しているときに思ったことをいろいろと溜め込んで、それをオーストラリアに持ち帰って、ロックダウン中に消化してできたのが今回の作品なんです。最近、自分はストレスの発散が得意じゃないと気付いたんですよね。これまで、あんまり健康的な発散の仕方をしてないなかったなって(笑)。
──監督もそういうことはあります? 溜め込んだストレスを作品で発散するという。
──2人は棘の部分で共通してるんですね。
Alisa お話を聞いてそう思いました(笑)。
──棘って大事なんですね。
Alisa 私は嫌なことを避けちゃうタイプなので、曲を書くことを通じて、以前は全然向き合えてなかったことを集中して考えるようになりました。そういえば、留学中にできた友達が、いつも「Alisa、大丈夫?」って聞いてくるんですよ。私は毎日楽しんでいるつもりだったんですけど、その友達は「この子、逃げてるんだろうな」と見抜いていたのかもしれない。そこからいろいろ考えるようになりました。私、本当は大丈夫じゃないのかなって。
Alisa しつこいくらい聞かれたんですよ、「大丈夫?」って。「大丈夫だから!」って何度も言ってるのに(笑)。
世界の舞台で歌う姿が見たい。それが僕の“最後の希望”。
──Alisaさんにとって歌は自分自身と向き合うことでもあるんですね。今後、Alisaさんがシンガーソングライターとして目指していることはありますか?
Alisa 私、運だけには自信があるんですよ。これまで、いろんな出会いや縁に恵まれてこの場にいるので。だから「これをしたい」というより、自分を信じてやっていればいいことがあるんじゃないかなと思っています。何が起こるかわからないのを楽しみにしているというか。スティーヴ・アオキさんと「ULTRA JAPAN 2019」に出られたのも思いがけないことだったし。
──というと?
Alisa 「キャロル&チューズデイ」というアニメで、アンジェラというキャラクターのボーカルを担当したんです(参照:「キャロル&チューズデイ」オーディション合格者・Alisaが劇中歌歌唱、キャストに坂本真綾)。そのときに歌った曲のうち1曲をアオキさんがプロデュースされていて。日本でアオキさんの握手会があると聞いたので挨拶をしに行ったんです。それで2時間くらいに行列に並んで……。
──えっ、普通にお客さんとして?
Alisa はい。自分の番が来たときに挨拶したら、「あ、あの歌を歌ってる人?」とアオキさんが気付いてくれて。それで「このあと、ちょっとあるから歌う?」と言われて、住所を渡されてタクシーで向かったんです。私はイベントの打ち上げなのかなと思っていたらフェスで。そこでいきなり打ち合わせをしてステージに上がって歌ったんです。
──さっきまで握手会の列に並んでいたのが、気が付いたらフェスのステージで歌っていた。すごい展開ですね。堤監督との出会いといい、才能だけじゃなくて強運も持っている。
Alisa だからあえて目標を決めずに、運命に身を任せたいと思っているんです。どんな出会いが待っているのかを楽しみにしながら。
Alisa すごいプレッシャー(笑)。でもがんばります!