ナタリー PowerPush - AL familia

絶望&悲劇に酔いしれろ!規格外バンドの実像に迫る

学校をドロップアウトした者、不当に人格を踏みにじられた者、借金を背負い逃亡を繰り返す者……そんなメンバーたちで構成されるバンド、AL familia。想像していた未来と現実とのギャップに打ちのめされ、彼らの胸の内には常に「こんなはずじゃなかった」という思いが渦巻いていたという。そこにあったのは、犯罪に手を染めてしまうかもしれないという恐怖と、すぐ側に死を感じる絶望。だが、彼らはそこから抜け出すために、音楽という手段を使って自らを救うことを決意した。そして、その思いはやがて、同じ境遇にいる人たちへと向けられていくようになる──。

クラシック音楽をベースとした荘厳な世界の中、絶望を味わった者だからこそ紡げるリアルなメッセージを込めた楽曲群や、人生リセットライブ、家破壊ライブといった、既存のバンドとは一線を画す過激なライブ活動など、全く新しい表現方法とスタンスで活動を続けるAL familia。ナタリー初登場となる今回は、すべての楽曲のコンポーズを手掛けるリーダーのYamazaki Eisui(P)と、自社レーベルの代表取締役でありバンドの紅一点でもあるHama Hani(Sampler)にインタビューを実施。ホームタウンである六本木で、稀有なバンドの成り立ちを赤裸々に語ってもらった。

取材・文/もりひでゆき

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「人を殺すのはそれからでも遅くないんじゃない?」

──まず、AL familiaをスタートさせたきっかけから教えてください。

Yamazaki Eisui 自分がこのバンドを作ろうと思ったんですけど、その頃ってずっとバイトをやっていて、人じゃないような扱いばかりされてたんですよ。それで、他人のことがすごく怖くなって。最終的にものすごく精神的に追い詰められて、人を殺してやろうかなって思うようにもなっちゃったんですね。このままじゃ俺は人殺しになっちゃうなと思ったから、じゃあバンドをやって他人が怖くなくなるような曲を自分で作りたいなと思ったんです。

──Eisuiさんは首都圏有数の進学校に通っていたそうですが、気づけばフリーターになっていたとか。

Yamazaki 小さい頃からおまえはすげえ優秀だみたいなことを言われてたけど、私立の中学に入ったらもっと勉強ができる奴なんていくらでもいるわけですよ。そこで現実の壁にぶち当たって、1回目の挫折。プライドだけは高かったから、気づけばちやほやしてくれる人もいなくなって、悶々としながらひとりで引きこもるようになっちゃって。学校を出てからも、バイトでは学歴なんて関係ないからわけわかんねぇ扱いされるわけですよ。そこで2回目の挫折。こんなはずじゃなかったっていう人生の中、かなりギリギリな感じだったんですよね。そんなときにたまたま六本木に遊びに行ったら、スタンガンを振り回しながら黒人を追いかけまわしてる女がいて(笑)。

──それがHaniさんだったと。すごい出会いですが(笑)。

Hama Hani バーで飲んでたら黒人が寄ってきて、「君の首が好きだ」とか言って触ってきたんですよ。それで、イラッとして。追いかけまわしてたってのは言いすぎだけど(笑)。

Yamazaki いやいや、バチバチさせながら追いかけてたよ(笑)。なんだこいつと思いつつも、とりあえず話をしてみたんです。俺は他人が怖くなくなる音楽をやりたいんだっていうことを言ったら、過去の面白い話がいろいろ聞けたんで、じゃあ「バンドに入れ!」って。

Hama 私って子供の頃から転校が多かったんですよ。最初は人気者になれてウケがいい感じなんだけど、すぐ調子に乗って嫌われるみたいな系図ができあがっちゃって。大人になってからも、マンションの受付で1日10時間「いってらっしゃいませ」「おかえりなさいませ」って言い続けるバイトをして、「私って人間なのかな?」って相当悶々としてました。

Yamazaki 出会ったときって、Hamaも俺と同じように人を殺そうみたいな空気を出していて。だったら「その悶々としたものをバンドで吐き出してみたらどうかな。人を殺すのはそれからでも遅くないんじゃない?」って、バンドに誘ったんです。

外タレのロックスターみたいだけどニート

──他のメンバーはどうやって集めたんですか?

Yamazaki ボーカル(WMO)は中学・高校の同級生。そんなに仲は良くなかったけど、廊下ですれ違うといつもわけわかんない洋楽を口ずさんでいて。ずっと「なんなんだこいつは!?」って思ってたから、誘ってみました。ドラム(Yoshi Takashi)は借金だらけで常に逃げ回ってる奴なんですけど、たまたま連絡取れたときがあったんで、「おまえも入れ」って。

Hama 彼はほんとにヒドイですよ。今もまた連絡取れないし(笑)。MAOU(Model)はお出かけニート。中央線でよく目撃されるみたいで、半ば伝説になってるんですけど、いっつもすごい格好してる。

Yamazaki MAOUはバンドの中では煽り屋とかパフォーマーみたいな位置づけなんですけど、俺らの中でも一番変わった人間っていうか。外タレのロックスターみたいにかっこいい生き方をしてるけどニート(笑)。そういうところに魅力を感じたから、楽器なんてできなくてもいいから一緒にやっていきたいなって思ったんです。

Hama で、私が口説きに口説いて。

──それぞれ境遇は違いますけど、根底で同じ気持ちを共有できたからこそ集まった5人なんですかね?

Hama 共有できてんのかな?(笑) みんなフリースタイルだから、仲良しこよしな感じではないんですよね。

Yamazaki ただ、みんなそれぞれに悶々としたものを抱えていて、それをこの5人だったら打破できるんじゃないかなっていうパワーみたいなものはあった気はしますね。まぁ、実際はそんなに深く考えてないんですけど(笑)。

2nd CD「Freeter's anthem」 / 2010年4月1日発売 / 1890円(税込) / GOGOA-1001 / GOGGO&GOGGA

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CD収録曲
  1. intro
  2. 無力者の尊厳とjazz
  3. 世界の片隅のアンセム
  4. 粛清
  5. 慈愛
  6. knightley
  7. By the world
  8. 安らかな崩壊
  9. 世界の片隅のアンセム(acostic ver)
  10. Message from HANI(Voice)

※オフィシャルサイトでの購入者には

  • AL familiaとの飲み会招待券(Club AL)
  • 破壊用CD

2つの特典付き

AL familia(あるふぁみりあ)

2009年にYamazaki Eisui(P)を中心に結成された音楽ユニット。メンバーはYamazaki、Hama Hani(Sampler)、WMO(Vo)、Yoshi Takashi(Dr)、MAOU(Model)の5人編成。「他人が怖くなくなる音楽」をテーマに掲げ、クラシックをふんだんに取り入れたサウンドを、同じような境遇のリスナーに向けて発信していく。2009年に1st CD「independent bible」、翌2010年に2nd CD「Freeter's anthem」をリリース。ライブ活動は通常のライブハウスなどでは実施せず、家を出たい中高生を支援する家出キャンペーンや、ストレス発散を手助けする家破壊ライブ、自殺願望のある人のみ集めた人生リセットパーティなど常に攻撃的なイベントを行っている。