秋山黄色インタビュー|2年半ぶりアルバム「Good Night Mare」の12曲で見せる“人生”とは (2/2)

「蛍」が導く答え

──アルバムにはここ2年半のドキュメントという側面も大きくあると思います。その意味では活動自粛期間のあとにリリースされた「蛍」は、秋山さんにとって大きなターニングポイントになった曲だと思いますが、どうでしょうか? 「このまま凍っていようかと 閉じた一重瞼には」という歌詞で始まるのも印象的です。

これもやっぱり尊い感情が表れているいうか。他者のためにここまで筆が走るということはなかったし、強い意味のある曲じゃないかと思います。「蛍」を作ったことでかなり自分が変わった実感がある。自粛期間はよくない記憶でもあるんですけど、なしにしたら嘘になる。この曲を入れることで、僕のリアルな部分をアルバムにすべて収録しなければならないと思いました。

──率直に聞きますが、活動が止まっていた時期はどういうことを考えていましたか?

基本的にはずっと「これからどうしていこうか」と考えている感じでした。実際に迷惑をかけた人たちもいるので、謝るのは当然で。でも問題は自分の人格としての部分で、「同じような生き方を貫くぞ」「自分の心を強く持って生きていくぞ」というそれまでと同じような気持ちでいると、また同じようなことが起こる。それまで一匹狼で生きているという感覚が僕の中にはあったんですけれど、他者と共生して活動しているので、その感覚は間違ってると気付いた。変わらなければいけないけど、今までのように変わらない強さみたいなものも歌っていきたい。自分の生き方や音楽活動に対して1つの答えを必ず出さなきゃいけない。その答えをずっと考えていた期間でした。

──結局答えは見つかったんでしょうか。

はい。それが結局、灯台下暗しだったんです。

──と言うと?

蛍には“走行性”という、光に向かっていく性質がある。「蛍」はそれがモチーフになっていて。蛍は水辺で棲息する生き物なので、灯台下暗しの灯台と、海にある灯台をかけて、「蛍」では「灯台の下で 仄暗く蹲る」という歌詞を書いたんです。自分で発光しているのに、より光ったものに向かっていくというところから、自分も「変化せずに柔軟になっていこう」というメッセージを込めて。

歌詞は宣言でもある

──「SKETCH」はどんなコンセプトで作ったんでしょうか。「僕のヒーローアカデミア」第6期のエンディングテーマで、アルバム収録曲の中ではかなり初期にできた曲だと思います。

この曲は自己犠牲について書かなきゃと思って作り始めました。制作を始めた当時は自分を犠牲にしながら生活していて、ある問題に直面したときに、あまりにも破滅的な解決の仕方ばかりを考えていたんです。自暴自棄になると、おおよそのことは解決する。全部投げ出せばいいし、自分のことを知ってる人がいないところに逃げればいい。僕はそういうことを考えがちなところがある。そういう手段を自衛策として持っておくのは全然いいんですけど、他者と関わり合っていくにはあまり考えてはいけないことで。自分を含めたそういう人間に対して、自分を大切にするという行動にまで移してもらうにはどうしたらいいんだろう、みたいなことを考えたんです。「周りの人が傷付くんだよ」とか「君が傷付くと心配」みたいなことを言っても、その言葉だけでは現状は1mmも変わらない。言葉だけの力ってその程度でしかない。みんな破滅的な手段を喜んで取ってるわけではなくて、自分の中にほかの手札がないからそれを選んでしまう。だったら、他人がブレーキにならなくちゃいけない。そのために必要なことは何かを考えた。

──必要なことというのは?

他人が自分にどれだけコストをかけてくれたかを知ることだと思うんです。打算的な話ですけど、その人に対しての思い入れがないといけない。「こいつが悲しむから止めよう」と思ってもらうためには、余裕のある人、ほかにもいろんな手段を持っている人になるしかない。なので、その人が切羽詰まってるとしたらそれを負担してあげることが大事だと思うんです。要するに、身の上話をして人を止めるんじゃなくて、身を切らないといけない。「お前は今こんなにつらそうなんだよ」と自覚してもらうのは鏡を見せるようなことで、そうやって他者を思いやる行為は、その人の似顔絵をスケッチしてあげるということだと思った。鏡を見せることの一歩先をいく行動がその象徴になると思い付いて、「SKETCH」という曲が生まれました。

──この曲の存在が自分を踏みとどまらせたり、逆に自分を追い込んだり、そういう何かしらの作用はありましたか?

はい。全部の曲に言えることですけど、曲を作って、適当にあり合わせで書いた歌詞じゃなくて、自分の身から出た歌詞を書いて歌う行為は宣言でもあるんです。楽曲の中で「悪である」「いいことである」と歌っていることって、今後、僕はその通りにしていきますということなので。例えば「ゴミのポイ捨てしてるやつなんかクソだ」と書いたら、自分は一生ポイ捨てしちゃいけない。その積み重ねで僕のキャラクターが伝わっていく。だから「生まれてよかったと思うこと」という小学生の作文みたいなタイトルの曲が、ほかの誰が言うより響くようになる。自分が書いた曲は、1つひとつが鎖であり、呪いであるという感じです。そして、そのときに僕が思ってる正しさの証明でもあったりします。

まだまだ書くと思います

──お話を聞いていて思ったんですが、「From DROPOUT」を作ったときの秋山さんは、もっとやさぐれていたというか、もっと刹那的で破滅的だったと思うんです。その刹那的で破滅的な部分は変わらずに持っていながら、より誠実に音楽を作っているのが今であると思いました。思うことを言葉にして、それを歌う、それを生き様として表現していくことを引き受けている。それが感覚としてすごく血肉化しているように感じます。

そういうふうに聴いていただければうれしい限りです。「歌なんか作ってる場合じゃねえ」という精神状態から離れれば離れるほど、「音楽を楽しもう、曲を作ろう」という気持ちになるんです。余裕があるというか。自分1人だけの世界により近い状態で作ったのが「From DROPOUT」で。その反対側で作ったのが「Good Night Mare」になった気がしますね。より暗いことを表現しているんですけど、語り手にちょっと余裕が感じられるのは僕自身の心境のせいというか。だいぶ絶望から距離を置いて書いている。ただ、まだまだ曲を書くと思います。自分自身について考え切ることが生きている目標の1つなのかもしれない。

──最後に10月27日に始まるこのアルバムのツアー「秋山黄色 NON-REM WALK TOUR」はどんなものにしたいですか?

このツアーならではの魅力を出したいと思います。このツアーだけでしか体験できないものを見せたい。アルバムを通して僕が伝えたかったことを、エンパシーというか、ちゃんと持って帰ってもらえるようにしたい。だから、来てくれる皆さんはきっとつらくなると思いますが、素敵なライブにしたいですね。

「秋山黄色 NON-REM WALK TOUR」ビジュアル

「秋山黄色 NON-REM WALK TOUR」ビジュアル

ライブ情報

秋山黄色 NON-REM WALK TOUR

  • 2024年10月27日(日)香川県 高松MONSTER
  • 2024年11月3日(日・祝)宮城県 Rensa
  • 2024年11月8日(金)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2024年11月10日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2024年11月15日(金)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2024年11月22日(金)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2024年11月23日(土・祝)新潟県 NIIGATA LOTS
  • 2024年11月28日(木)愛知県 DIAMOND HALL
  • 2024年11月29日(金)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
  • 2024年12月1日(日)東京都 豊洲PIT

プロフィール

秋山黄色(アキヤマキイロ)

1996年3月11日生まれ、栃木県出身のシンガーソングライター。高校1年生のときに初めてオリジナル曲を制作し、2017年12月から宇都宮と東京を中心にライブ活動をスタートさせる。2018年6月に1stシングル「やさぐれカイドー」を配信リリース。最新アルバムは2024年9月リリースの「Good Night Mare」。同年10月から12月にかけて全国ツアー「秋山黄色 NON-REM WALK TOUR」を行う。