秋山黄色「ONE MORE SHABON」インタビュー|夜にもがくみんなに報われてほしい、強がる生き方を肯定する3rdアルバム完成 (2/2)

夜にもがき苦しむのはダンスみたいだ

──ここからアルバムの収録曲について聞かせてください。まず「ナイトダンサー」は「BOAT RACE」のCMソングで青春をモチーフにした曲ですが、これはどういうふうに作っていったんでしょう?

CMソングといっても、CMの登場人物に対してじゃなく、実際にいるボートレースの実習生、養成所にいる人に向けての曲なので、彼らと自分を重ね合わせて書いていきました。ボートレーサー養成所の資料も見て、過酷な場所でもあるし、そこで夢を見ているたくさんの生徒さんがいる。だから、かつての自分がストレートに言われたかったことを思い返してみようという着想でした。いつも歌詞は嘘偽りなく書いているんですけど、その中でも誰かに強気に言ってほしい言葉を選ぼうと思って作りました。

──この曲のモチーフが“夜”になったのは?

基本的に、夜というのは1日を清算する時間だと思うんです。その日あったいろんな体験を振り返って、よかったらそれを噛み締めて、ダメだったら反省する。で、僕自身はあまりいい感情で眠っていないんですよね。音楽を作って発表するという活動において、フィードバックがないことのほうが多いので、当然のように未来は見えない。でも「やってやるぞ」という気持ちでもがいている。それは昼間じゃないんです。昼間はただがんばっている時間だから。で、夜は結果が出てないから体も心もとにかく痛いけど、でも「これしかないからやってやるぞ」と思ってもがいている。痛みに抗って、強がって、もがいている姿って、ダンスみたいだと思うんです。「ナイトダンサー」の「ナイト」というのは、クラブで夜踊るということではなくて、人間が夜にもがき苦しむのはダンスみたいだという意味です。僕は人がそうやってもがいてキツい生き方をしているときの強がりは本当に素敵だなと思う。もちろん、その姿は単なる過程だから、本来は評価されるべきことじゃないんですよね。そんなところを見せて「俺、がんばってるだろ」って、自分から言うべきようなことじゃない。でも僕は強がってがんばっているところが一番きれいな瞬間だと思うので、そこを書こうと思いました。みんな報われてほしいという気持ちはもちろんありますけど、苦しい生き方をしてくれというテーマがあるんだと思います。

──今語っていただいたような夜のイメージは、アルバムのいろんな曲に共通している気がします。「燦々と降り積もる夜は」や「Night park」のように、夜という言葉をタイトルにした曲もあるし、「うつつ」や「シャッターチャンス」のように夜を舞台にした曲もあります。

夜の曲は多いですね。

──そうなっている理由は?

単純に夜ばかり活動しているからだと思います。遮光カーテンを閉めて曲を作って、夕方からバイトして、深夜1時に終わって帰ってくるという生活って、世界がずっと夜なんです。そういう中で生きてきたので、今は夜の曲が多いですね。これから昼間の曲も増えていきそうな予感はありますけど。

──例えば「Night park」の歌詞に「不安」という言葉があったり、「シャッターチャンス」に「痛み」という言葉が出てきたりしますよね。これはさっき語っていただいたような、普遍的な孤独や虚無に対しての歌を作るということが夜のモチーフに結び付くのではと思ったのですが、そのあたりはどうでしょうか。

この話はアルバム全体の仕掛けになっていることなので、言ってしまうとネタバレにもなってしまうんですけど……夜に一旦何かを清算して、朝が来てリセットされる。自分自身も同じで、だからここまで夜にもがいている。その流れに人間は無意識のうちに頼っていて、そこで折り合いをつけたりする。で、アルバムは最終的に「白夜」という曲で終わるんですが、そこでは「夜がなかったらどうしよう」と歌っているんです。夜がなくなるくらいのことは地球上に平気で起こる。だからずっと夜について書いて、最後に「夜がない場所があるんですけれど、どう思いますか?」という曲で締めた。悩みは大きい絶望かとてつもない幸せのどちらかで中和するのがいいと思っていて。極端なことを考えることで、「FIZZY POP SYNDROME」のときに抱いていた炭酸の残りカスみたいなものが結果的になくなればいいなということですね。

──「見て呉れ」に関してはどうでしょう。これはドラマの主題歌ですが、どういうふうに書いていったんでしょうか。

これは楽器のパートから作っていった感じですね。どういうことを歌うかというより、ピアノを使いたいとか、そういうところから自由にトラックを構築していった。個人的には、ドラマが佳境を迎えたタイミングで、こういうハイトーンの声と、ちょっとチープな音で物語に入っていきたいという願望がありました。ドラマのエンディングでこういう曲が流れたらゾクッとするかもしれないという。それをイメージしてワンコーラス分を実験的に作っていった。歌詞はあとですね。珍しい作り方をしていると思います。タイアップでは基本的には何を歌うかということに引っ張られがちなんですけれど、この曲は歌詞ではなく音をメインに作っていった感じです。

──今作には「見て呉れ」や「アク」のように、テクニカルなアレンジで、かつ疾走感を生み出していくタイプの曲も多いと思います。ギターロックの方法論を更新するような発想もあるのかなと思ったんですが、そのあたりはどうでしょうか。

新境地を開拓してやろうという目論見はあんまりないんですよ。いわゆるギターロックの曲調を一新してやろうということでもない。単純に、世の中にもうあるんですよね。ボツになったものも、使えるものも、そういう曲調、そういうアレンジを使って歌っている楽曲を死ぬほど作ってきたので。飽きてしまっているから、自分が面白いと思うものを次々と試している感じです。

いまだに人前で歌うのが恥ずかしい

──「From DROPOUT」から「FIZZY POP SYNDROME」を経て、制作環境はどう変わってきましたか? 新作は打ち込みやトラックメイキングの手法で作られた曲も多いですし、DTMでできることが増えてきたんじゃないかと思いますが。

多少どころじゃなく、何もかも変わった感じですね。アウトプット自体が大幅に変わっているわけではないけれど、使う技法やエフェクトの役割も変わってきている。シンセサイザーを使うことも増えてきているし、特に今回のアルバムはサンプルが多いですね。「Night park」なんかは演奏しているパートが全然ない。なんのサンプルパックを使ってるか、気付く人は気付くと思います。ただ、シンセの音にしてもサンプルを使うにしても、加工して音の質感を変えることで「秋山黄色っぽい音」になればいいなと思いますね。スクラッチの音色も気に入っていてアルバムのいろんなところで使ってるんですけれど、「秋山黄色はこういう音も使う」という認識が広がっていったらいいなと。ギターはそこそこ「秋山黄色の音」が確立できていると思うので、ゆくゆくは全部そうなればと思います。

──僕としては、フレーズにしてもメロディにしても、濃くて饒舌なものが「秋山黄色らしさ」の源になっているように思います。

確かに語ってますよね。あんまり音に関して引き算してないというのもあるかもしれない。

──アルバム終盤の「シャッターチャンス」は先行配信リリースもされましたが、これはどういう位置付けの曲として作っていったんでしょうか。

自分の中で、こういうローテンポな曲調が流行っているんです。もともと曲を作るうえでリズムの気持ちよさは大事だと思っていたんですけれど、今までの楽曲ではそこまで打ち出してなかったし、忙しない曲が多かったんです。今はこれくらいのテンポ感で、トリッキーで、ひと筋縄ではいかないセッション的な楽曲を作るのにハマっていて。昔は「俺の言うことを聞け!」というワンマンスタイルな時期もあったんですけど、もともと地元のセッションバーに入り浸っていたということもあって、1人で作るより人と人が楽器でやり取りするような曲作りのほうが得意なんですよ。

──畳みかけるようなフロウが印象的ですが、歌詞や歌い方について意識したことは?

自分は羞恥心が半端なくて、いまだに人前で歌うのが恥ずかしいんです。プロとしてこんなこと言うのは絶対ダメなんですけど、でもそれは俺の持っている大事な要素でもあるので、これからもそうだと思うんです。なので歌い方で恥ずかしさを誤魔化す術を追求していくと、「シャッターチャンス」のようなフロウが自分の中でちょうどいい。歌詞には人の心に突き刺さるようなフレーズが必要で、これくらいの口調だと言えることの幅が増えるんですよね。軽口っぽくて説教くさくないし、そのほうが心地よく届く層もあるだろうなって。全部このスタイルにするとチャラくなるかもしれないけど、むしろそれがいいなと思うし、自由度を追求した結果、こうなった感じですね。

──では最後に、「ONE MORE SHABON」はどんなアルバムになったと思いますか。

これは完全に苦言なんですが、今は音楽が消費されすぎだと思うんです。レコードに針を落としてじっくり聴くような人が少なくなって、食べ物を摂取するみたいに、耳から音を食べてるような感じになっているなと。そういう中で「ONE MORE SHABON」はゆっくり向き合って聴けるアルバムになっているんじゃないかと思います。全部くだらない曲ですけど、1つひとつに役割があって、聴く意味のある曲が入っている。長く聴けるような、消費して消化して排泄されて終わらないアルバムになったんじゃないかと思います。

秋山黄色

ライブ情報

秋山黄色「一鬼一遊 PRE TOUR Lv.3」

2022年3月11日(金)栃木県 栃木県総合文化センター


秋山黄色「一鬼一遊TOUR Lv.3」

  • 2022年4月2日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2022年4月3日(日)北海道 札幌PENNY LANE24
  • 2022年4月9日(土)香川県 高松MONSTER
  • 2022年4月16日(土)新潟県 NIIGATA LOTS
  • 2022年4月17日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
  • 2022年4月23日(土)福岡県 DRUM LOGOS
  • 2022年4月24日(日)広島県 広島CLUB QUATTRO
  • 2022年5月26日(木)神奈川県 KT Zepp Yokohama
  • 2022年6月3日(金)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2022年6月4日(土)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2022年6月11日(土)宮城県 チームスマイル・仙台PIT

プロフィール

秋山黄色(アキヤマキイロ)

1996年3月11日生まれ、栃木県出身のシンガーソングライター。高校1年生のときに初めてオリジナル曲を制作し、2017年12月から宇都宮と東京を中心にライブ活動をスタートさせる。2018年6月に1stシングル「やさぐれカイドー」を配信リリース。2019年4月に「クソフラペチーノ」、6月に「クラッカー・シャドー」、8月に「夕暮れに映して」を3作連続リリースした。9月に東京・TSUTAYA O-Crestで初のワンマンライブ「登校の果て」を開催。2020年3月に1stフルアルバム「From DROPOUT」を発表した。同年11月にテレビ朝日系ドラマ「先生を消す方程式。」の主題歌「サーチライト」、12月に映画「えんとつ町のプペル」の挿入歌「夢の礫」を配信。2021年3月に2ndアルバム「FIZZY POP SYNDROME」をリリースしたのち、初の全国ツアー「一鬼一遊TOUR Lv.2」を行った。2022年3月に3rdアルバム「ONE MORE SHABON」をリリース。同月に地元・栃木で行う「一鬼一遊 PRE TOUR Lv.3」を皮切りに、4月から6月にかけて全国ツアー「一鬼一遊TOUR Lv.3」を開催する。