「いいバンドなのに思ったほど売れてない」と言われた

──まず、今回ベストアルバムを出すことになったきっかけから教えていただけますか？

後藤正文（Vo, G）　最初、道彦さんから「メシ食いに行こう」って言われて「なんだろう？」と思いつつ会ったんです。マネージャーもいたけど、ほぼサシでじっくり話しました。

──普段はあんまり一緒に食事したりはしないんですか？

後藤　ほとんどないですね。打ち上げのときにちらっと話すくらいで。

──じゃあその席ではどんな会話を？

後藤　「おまえらいいバンドなのに、俺が思ってるほど売れてない」みたいな話から始まって。

──あはは（笑）。

後藤　「アジカンの魅力を改めて世に問いたい」って。そこから「ベストアルバム出さないか」って話になったんですよね。

──中山さんと後藤さんがその話をしたのはいつ頃のことですか？

中山道彦　震災直後くらいかなあ。改めて「今どんな気分？」とか「将来どうしていくの？」とか、そういうことを確認したかったんだよね。

──そういう話は、所属アーティストとはよくするんですか？

中山　いや、そんな頻繁にはしないですよ。あんまりすると社長命令になっちゃうから（笑）。そういう話は現場のスタッフがするべきであって、俺は本当に大事なポイントだけ、っていう感じ。

──そのときは最初からベストアルバムの話をしようと思って？

中山　それもあったけど、改めて「アジカンは素晴らしいバンドだ」っていうのを伝えたかったの。キューンのスタッフは全員アジカンのことが大好きだし、誇りに思ってるし、応援してるんだよっていうのを、改めて言いたくて。

──そして、それほど素晴らしいバンドなのに「思ってるより売れてない」という話も。

中山　もちろんそのジャンルではトップクラスで売れてるけれど、アジカンってバンドとしての評価が高いわりにね（笑）。こんなにいいバンドなんだから、もっと広がってもいいはずなのに。

──そうならないのはなぜなんでしょうか？

中山　やっぱりバンドがキャリアを重ねてくるにつれ、新しいファンが入りにくくなっていくっていう現象はあるんですよ。それで、このタイミングで新しいファンの入り口になるようなベストアルバムを出すのがいいんじゃないのっていう、そんな話をしたのかな。

ベスト盤にネガティブな印象はない

──中山さんからベストアルバムのリリースを提案されて、後藤さんはどう感じましたか？

後藤　ベストを出すことに関して異論は全くない。そろそろ出すべきかなっていう気持ちでした。

──それはどうして？

後藤　「マジックディスク」を作り終えて、ある種の達成感があったのが大きいですね。これまでアルバム6枚、「フィードバックファイル」（※カップリング曲を中心とした編集盤）を入れると7枚出してて、もうそろそろ新しく入ってくる子たちがどれから買えばいいか迷う頃だろうし。今がちょうどいいタイミングだなって。それに、レーベルから「もっと売りたい」って言われるのはやっぱりうれしいですよ。メジャーでやってる意味ってそこにあると思うし。

──ベストアルバムのリリースが発表された際に、ファンの人たちの反応で「アジカンはベストアルバムを出さないって言ってたのに」という声を聞いたりしたんですが、そういう話を公の場でしたことがあるんですか？

後藤　俺たち言ったことないんだけど、言ったってことになってるみたいなんですよね（笑）。多分ラジオとかで「デビューしてすぐベスト盤とか出すのとかはどうかと思いますよね」っていう話をしたことがあって、それがなぜか俺らの「出さない宣言」みたいな話になってる。

──そうだったんですね。

後藤　だって俺らもほかのアーティストのベスト盤をよく紹介してるし。例えば「NANO-MUGEN FES.」にある程度キャリアのあるバンドが来たら「ベスト盤から聴いたらいいんじゃないかな」ってファンに言うしね。だから俺は別にベスト盤にネガティブな印象はないですよ。