05アイドルになって失ったもの
──では次に、アイドルになって失ったと思うものについて聞かせてください。
渡辺 失ったものは、はっきりしています。「人としての感情」。
柏木 つらっ! しんどっ!(笑)
渡辺 失ったと言うか……自らなくしたと言ったほうがいいかもしれない。AKB48の中にいると本当にいろんなことが日々起きて、それを全部まともに受け止めたら、心が壊れちゃう。それで、どうするか考えたときに「そうだ! 感情をなくせばいい!」って気付いたんです。その日から感情をオフにしました……自分で話していても「つらっ!」って感じになるけど(笑)。
柏木 でも、私も同じだな。一度、この話はしたことあったよね。「2人共同じだね」って。
──「感情をなくす」というのは、アンチの意見を聞かないとか?
渡辺 うーん……私の場合、そこはまだいいんです。最初から見ないようにしているから。大組閣(※チーム間や姉妹グループの移動を伴う異動)がいい例ですけど、AKB48って急に大きなことがドーンと決まっていくじゃないですか。巻き込まれるメンバーとしては、たまったものじゃないんです。いちいち真面目に向き合っていたら、本当に心がどうにかなっちゃうので。逆に言うと、感情をなくしたからこそ11年間もAKB48を続けてくることができました。
06趣味と仕事
──渡辺さんは、アニメや宝塚など多趣味なことで知られていますよね。
渡辺 最近、アニメはご無沙汰です。趣味に関して言うと、ゆきりんとはまったく合わないです。と言うか、今さらだけどゆきりんの趣味ってなんなの?
柏木 え、なんだろう。携帯を見ることとか? それ、趣味って言わないか。あとはコスメを見ること。それにアイドルは小さい頃から大好きですね。ハロプロとか。
渡辺 私は自分の勉強も含めて舞台を観るのが好きなんですけど、ゆきりんはそうでもないし。笑いのツボ以外、何ひとつとして共通していないかも(笑)。
──趣味を仕事に生かしているってことは?
柏木 私はすごくありますね。幼少期からずっとアイドルにハマっていたからこそ、今もアイドルをやっている感じです。
渡辺 うん、そのへんはゆきりんを見ているとすごく感じる。自分が熱狂的に追いかけるファンだったからこそ、ステージの上での見せ方がわかっているんです。私なんかより、ずっとアイドルとしてプロフェッショナルだと思います。私なんかプロとは呼べないです。
柏木 プロじゃないからこそ、「天性」って言われるんじゃない? 面白いですよね。麻友は「天性のアイドル」。私は「プロのアイドル」。住み分けができているんじゃないですか。
渡辺 天性? プロ?(※と言いながら互いの顔を交互に指さして、「フヘヘ……」と2人で笑い合う)
スタッフ ほらほら、時間もないんだから。そういうことやめてくれる?
渡辺 あーあ、普通に怒られちゃった。
柏木 うちら、チームBでデビューした頃と同じような調子で怒られているね(笑)。成長していないなあ。
07握手会の思い出
──AKB48と言えば握手会。先日のイベントでは渡辺さんに会うために長蛇の列ができたとか。
渡辺 私たち、握手会では隣同士になることが多いんです。なので握手会中も、人と人が来る合間にふざけ合ったりしているんです。お互い、ちょっかいを出し合ったりして。
柏木 改めて思い返すと最近はいろんな年齢の方が来るようになったなって感じますね。赤ちゃんを抱っこしたお母さんとか。ファンの人同士が結婚して、「子供が産まれました」って見せてくれることもありますし。
渡辺 私は赤ちゃんが大好きだから、そういうファンの方を見ると「わあ! 赤ちゃんだ!」とか言いながら、ゆきりんのスペースまで連れていく(笑)。
柏木 でも、めっちゃ泣かせるんですよ、赤ちゃんのことを! 「ギャー!!」ってもうギャン泣きで(笑)。自分では「赤ちゃん大好き」とか言ってるクセに。
渡辺 愛情が強すぎるのかな。喜んでもらおうと思って変な顔を近付けると、ものすごい勢いで泣き出したりするから……トラウマを植え付けてしまったかもしれない(笑)。
柏木 でも赤ちゃん連れのファンの方が来ること自体、私たちが長く活動していることの証明だよね。すごいことだなって自分でも思います。
08コンプレックス
──コンプレックスはありますか?
渡辺 私、コンプレックスの塊です。むしろコンプレックスしかないくらいです。
柏木 えーっ!? またまた……。
渡辺 いや、本当だよ。見た目も中身も、まんべんなくコンプレックスがあるくらい。
──でも、芸能人って「私を見て!」って言う立場の職業じゃないですか。
渡辺 そうなんですよね。だから、そこは本当に悩みどころ。どうしても自分に自信が持てないんです。みんな、どうしているのかな? 今は私、自信が持てないなりに自分を励まして、なんとか舞台に立っているような状態なんですけど。
柏木 私もコンプレックスはめちゃくちゃあるほうです。顔とか体型もそうですし。ただ克服法っていうわけじゃないけど、自分にはファンの人がいるじゃないですか。だからファンの人のことだけを考えるようにするんです。一般の人たちからどう見られているかって考えると、めっちゃしんどくなりますからね。こんなにいっぱいかわいいメンバーがいる中で、わざわざ私のことを選んでくれた。そう考えると、もうちょっとだけがんばれるかなって思えるんですよね。
09選抜総選挙
──「AKB48選抜総選挙」ではこれまでにさまざまなドラマが生まれました。振り返ってみて、経験者としてどう思いますか?
渡辺 総選挙がなかったら、もう少し楽にアイドルをやれたと感じています。来年から出なくてもいいんだって考えると、正直、気持ち的にはホッとしている部分もあります。あの重圧は出馬経験のある当事者じゃないとわからないと思う。そういうことがあるからこそ、私も感情をなくさなくてはならなかったわけですけど。
──総選挙も今でこそ恒例化していますけど、冷静に考えると、かなり異色のイベントですよね。
柏木 確かに最初はここまで大きくなると思っていなかったんですよね。「へえ、そんなことやるんだ」って感覚で。
渡辺 メンバー間でも話題になっていなかったくらいだもんね。
柏木 そうそう。出たら出たで、「ふーん、これが私の順位なんだ」とか「だから何?」って受け止め方だったんです。だけど気が付いたら総選挙はどんどん大きな存在になっていて、「誰々とライバル関係」とか「今年の順位は?」とか、いろいろ言われるようになって。総選挙にはすごくいろんな思い出がありますけど、一番は麻友が1位を獲ったこと(※2014年の「AKB48 37thシングル選抜総選挙」)。あれは本当にうれしかった!
渡辺 ホントに? だけど、私もゆきりんが3位に大躍進したとき(※2011年の「AKB48 22ndシングル選抜総選挙」)はすごくうれしかった。本当に自分のことのようにうれしかった。
10世代交代
──渡辺さんが卒業すると、3期生は柏木さんだけになりますね。
渡辺 後輩がしっかりと育ったからこそ、私がいなくても大丈夫だなって卒業を決めた部分はあるんです。めきめき順調に育っていると思います。このまま、変な道に逸れることなくがんばってほしいなって思います。ゆきりん、特に気になる後輩とかいる?
柏木 それは言いにくいな。まだ中にいる身だからさ。
渡辺 そうだよね。じゃあ出ていく立場だから言わせてもらうと、私はチーム8の小栗有以ちゃんが気になっていて。ほかにも複数いるんですけど、特に注目しているメンバーって言うと、ゆいゆいになるかな。人気もうなぎ登りだし、本人のオーラもどんどん増していますし。このまま王道アイドルのド真ん中を突き進んでほしいなって期待しています。
柏木 おっ、とうとう後継者に指名かー。
渡辺 うん! 継いでほしいなって、それは真面目に思う。
11年齢を重ねるということ
──幼い頃からアイドルをやっていた2人ですが、大人になることで「アイドルの自分」にジレンマを感じたことはありませんでしたか?
柏木 私は昔からアイドルが大好きだったから、自分も王道アイドルを目指していたんです。だけど年齢を重ねると、どこかで切り替えが必要になってくるんですよね。「私は麻友みたいにはなれないんだな」って自然と気付くようになってきて。今でこそ最年長メンバーとして後輩からイジられまくっていますし、このポジションを楽に感じていますけど、最初からこうだったわけじゃないですからね。先輩がどんどん卒業していって、気が付いたら自分が上の世代になっていて……自然と年相応な振る舞いができるようになった感じかな。
渡辺 私の場合、髪型で変化を付けていった感じかもしれない。ツインテールとか、変な前髪も途中でやめたし。
柏木 別に“変な”ってことはないけどさ。
渡辺 やっぱり年齢と共に変わっていきますよね、自分の趣味、趣向も。そこを自然にシフトチェンジできれば、長くアイドルを続けることができると思うんですけど。
柏木 そう、私たちのようにね(※と真顔で発言したあと、なぜか吹き出す)。
渡辺 ドヤ顔で言って笑わないでよ(笑)。今、ちょっとカッコいいと思ったでしょ?
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入山杏奈、岡田奈々、岡部麟、小栗有以、柏木由紀、加藤玲奈、小嶋真子、高橋朱里、峯岸みなみ、向井地美音、横山由依、渡辺麻友、小畑優奈、須田亜香里、松井珠理奈、白間美瑠、山本彩加、山本彩、吉田朱里、兒玉遥、指原莉乃、田中美久、松岡はな、宮脇咲良、荻野由佳、北原里英、中井りか、瀧野由美子
- AKB48(エイケイビーフォーティエイト)
- 秋元康プロデュースのもと、2005年に始動したアイドルグループ。劇場に足を運べば毎日会える「会いに行けるアイドル」をコンセプトに、秋葉原にある専用劇場(AKB48劇場)で毎日ステージを行っている。楽曲の作詞はすべて秋元康が担当。2006年2月にシングル「桜の花びらたち」をインディーズからリリースし、オリコンウィークリーチャートでトップ10入りを果たす。同年10月にはシングル「会いたかった」でメジャーデビュー。2007年春には初の全国ツアーも開催されたほか、同年末の「NHK紅白歌合戦」に初出場を果たすなど、着実に知名度を上げていった。2011年1月には初のドキュメンタリー映画「DOCUMENTARY of AKB48 to be continued 10年後、少女たちは今の自分に何を思うのだろう?」が公開。同年8月には「AKB48 22ndシングル 選抜総選挙」での上位21名が歌う22ndシングル「フライングゲット」をリリースし、発売初日に100万枚を売り上げたことでも話題を集めた。以後、10月に東日本大震災復興応援ソング「風は吹いている」などでミリオンセールスを連発。2011年オリコン年間シングルチャートで1位から5位をAKB48が独占する結果となり、“国民的アイドル”と呼ばれる地位を確立した。また2009年から年に1回、シングル曲のメンバーをファン投票によって決める「AKB48 選抜総選挙」を行っており、2013年の「恋するフォーチュンクッキー」では指原莉乃が、2014年の「心のプラカード」では渡辺麻友が総選挙1位としてセンターを務めた。2017年8月に49thシングル「#好きなんだ」をリリースし、11月に50thシングル「11月のアンクレット」を発表。最新シングルでは2017年内をもってグループを卒業する渡辺麻友がセンターを務めている。