暁月凛×DJ和|深く心地のいい闇に沈んでいく……没入型アニソンカバーアルバム、ここに完成

私の心の本質に近い「oblivious」

──では、収録曲の中で特に印象に残っている曲をいくつか挙げてもらいながら、その楽曲との暁月さんの思い出や、和さんが感じる暁月さんの魅力を教えてもらえるとうれしいです。

左から暁月凛、DJ和。

暁月 思い入れのある曲ばかりですけど、最初に思い出すのはKalafinaさんの「oblivious」ですね。私は中学生のときに、アニメ「空の境界」がすごく好きだったんです。学校の教科書に自分の名前を書くスペースがあったんですが、当時の私は中二病がすごかったので、実はそこに「空の境界」のサブタイトルを書いていました。「俯瞰風景」とか、「忘却録音」とか……(笑)。

DJ和 ははは!(笑)

暁月 「空の境界」って、物語自体がすごく切ないじゃないですか。最初に観たのは「痛覚残留」だったんですけど、このお話って悲劇の中の悲劇という雰囲気で「これはすごいぞ!」と思いました。中学時代は “空の境界time”でしたね(笑)。本当に思い入れのあるアニメの曲なので、1人で家で歌ったり、心の中で何度も歌ったりしていた曲でした。私の心の本質に近い1曲!

DJ和 僕もこのアルバムには印象的な曲がたくさんありますけど、2曲目の「アンインストール」はその1つです。この曲は、暁月さんの歌を聴く前から「きっと合うだろうな」と思っていました。ほかの曲もそうですけど、暁月さんが歌うとまるで自分の曲のように聞こえるというか。自分の曲にするパワーを感じた曲でした。暁月さんって、もちろん声が綺麗で歌もうまいんですけど、スルッと声が入って通り過ぎていくというよりも、その声を聴いたときに、何かが引っかかって残るような魅力がある気がしていて。その声が通るだけじゃないという魅力は、今回の作品を通して印象的でした。器用さもあって、でも自分の軸もしっかり持っているような雰囲気を感じます。あとは、今回のように作品を通して影や闇のようなものを表現しても、それが一色にならない、いろいろな感情を表現できる人だとも思いました。

暁月 うれしいですけど、褒め過ぎじゃないですか……(笑)。ちなみに私は中国出身なのですが、「アンインストール」は中国ではアニソンと言えばこの曲が最初に挙がるような、かなり有名な曲なんです。

何でわかるんですか……?

暁月 KOTOKOさんの「Re-sublimity」も思い入れのある1曲です。この曲が使われていた「神無月の巫女」は、中学の頃、私が初めて観た百合アニメだったんですよ。

DJ和 なるほど、中学生の頃かあ。

暁月凛

暁月 小学校までは王道のアニメを観ていたんですけど、中学校になって「コードギアス 反逆のルルーシュ」のような作品を観るようになったり、「神無月の巫女」や「うた∽かた」のような、ちょっと普通とは違うテーマの作品に触れたりするようになって。そこで、アニメの真の魅力を知るようになっていった気がします。

──アニメの奥深さに気付いたということですね。

暁月 はい。そこで本当にアニメが好きになりました。「Re-sublimity」はKOTOKOさんの歌い方がアニメファンの間で定着していると思うので、「もしも私がKOTOKOさんの歌を聴いたことがなかったとしたら、自分はどう歌うんだろう?」と考えて歌いました。自分が歌うときに出てくる自然なクセを、そのまま出してみたんです。

DJ和 ほかの曲だと、僕は「美しき残酷な世界」(「進撃の巨人」エンディングテーマ)も印象的でした。この曲は、曲自体のイメージがそのまま暁月さんのイメージにつながるなと思っていて。暁月さんはきっと、争ったり、傷付いたりしながらも、人生の中で困難を乗り越えることや、それに直面する人たちに惹かれる人なんだろうなと思いました。

暁月 この曲を和さんが選んでくださったときに、「私のことを本当に理解してくださっているな」と思いました。「なんでわかるんですか……?」と思ったんです。ただ、最初は「ノンストップミックス作品として、ほかの曲とうまくつながるのかな?」とも思っていました。でも、和さんに作っていただいたデモを聴いたときに、全体の流れの中ですごく綺麗にハマっていて安心しました。

DJ和 今回はトラックのアレンジもノンストップミックス用に作り直していただいているので、ミックスCDとしてうまくまとまった感じがします。通して聴くことで、1曲ずつ聴いていくときとはまた違う聴こえ方がしたり、違う魅力が見つけられたりするのがミックスCDの面白さですし、曲ごとに暁月さんの声の違いも楽しめると思うので、どんどん暁月さんの歌の世界に深く入っていけるような作品になっていたらうれしく思っています。

暁月 私は普段は1曲をリピートして聴くことが多いタイプのリスナーなんですけど、今回のノンストップミックスを聴いて、20曲で世界観を構築するのって、和さんと一緒じゃないとできないことだと思いました。和さんのDJミックスはデビュー前から聴かせていただいていたんですけど、私自身はなかなかクラブに行く機会が少なくて。和さんのように流れで考えてくれる方がいたからこそ、作品として視野が広がったように思いました。

オリジナル曲以上に人となりがわかるもの

──2018年に発表された暁月さんの1stアルバム「Time Capsule」でも“1日の流れ”をテーマにしていましたが、今回はそれとはまた違う流れが生まれている雰囲気ですね。

暁月 「Time Capsule」のときは、自分の人生をイメージして時間の流れを考えたんですけど、今回の和さんの場合は、またゼロから私という人間をイメージして、曲を並べて、20曲で世界観を構築してくださって。すごく難しいことをしてくださったなと思います。

DJ和

DJ和 僕はそういう作業が好きなんです(笑)。それに、今回は暁月さんがやりたいことがかなり明確に伝わってきていました。実際に収録曲を見てもらっても、「ああ、暁月さんはこういうのが好きなんだな」「この作品って、こういうテーマなんだな」ということが伝わりやすいと思いますし、僕はこの作品って、もしかしたらオリジナル曲以上に暁月さんの人となりがわかるものなんじゃないかなと感じていて。「暁月さんはこういうものが好きで、こういうものに触れて生きてきたんだな」「こういった曲でアニソンの魅力に触れて、今の活動があるんだな」って、聴く人たちにも伝わるような作品になっていますよね。

暁月 まさにそうですよね……! わかっていらっしゃる(笑)。

DJ和 ノンストップミックスではありつつも、中にはフルで歌っていただいている曲もありますし、最後には暁月さんの2017年のオリジナル曲「コノ手デ」のセルフカバーも入っているので、暁月さんのこれまでの歌の変化が分かるものでもあるのかなと思います。特にファンの方は、きっと今回の「コノ手デ」を聴いたら、その変化を感じると思うんです。

暁月 自分自身では、どう変わっているのかわからないので、人からどんなふうに見えるのかは、私自身とても興味があります。「コノ手デ」は一番思い入れのある曲なんですよ。

──この曲は、暁月さんが敬愛してやまない、湊貴大さんによる提供曲ですね。

暁月 私は小さい頃から湊さんのことを神のように崇拝していて(笑)、中学生の一番孤独だった時期にも、湊さんがminato(流星P)名義で出されていた「朧月」が心の支えになっていました。そうやって尊敬していた方に自分の曲を書いてもらえて、しかもその曲が、もともと大好きだった「青の祓魔師 京都不浄王篇」のエンディングテーマになって……! 今回改めて歌ったものを自分で聴いてみて、「あれ? 昔より明るくなったのかな?」と思ったりもしました。いい意味で大人になったのかもしれないな、と。

DJ和 ああ、僕も今回のミックスを作る際に聴いていて、同じようなことを感じていたんです。何か階段を上った、今の暁月さんだからこその歌なのかなと思いました。