今こそEGOISTで得た引き出しを開けるとき

──レコーディングは順調でしたか？

Aimer　はい。今回は澤野さんがいつも使われているスタジオで、私とchellyさんが代わる代わるブースに入ってレコーディングしたんです。私はそのスタジオに何度もお邪魔したことがあったんですけど、chellyさんは初めてだったんですよね。だから、もし私がchellyさんの立場だったら、すごく緊張したと思うんですよ。慣れないスタジオで歌うのって、けっこう難しいので。

──他人の家の台所を借りるような感じでしょうか？

Aimer　それに近いかもしれません。やることは同じなんですけど、使い勝手が違うという点で。しかも、ほぼ初対面の澤野さんと、大勢の大人たちに囲まれて。それなのにchellyさんは、ブースに入るなり飄々と、流れるように歌っていて。

──EGOISTのプロデューサーであるryoさん（supercell）も、以前インタビュー（参照：EGOIST「Extra terrestrial Biological Entities」インタビュー）で、chellyさんはわりとムチャ振りしてもさらっとこなしてしまうみたいなことをおっしゃっていましたね。

chelly　それで慣れたのかもしれません（笑）。というか、それだけ表現の引き出しを与えてもらえたので、今こそその引き出しを開けるときだなって。私はEGOISTとして歌うときは、楪いのりというキャラクターに合わせて、声を押し殺し気味に歌っているところがあるんですけど、今回はあまりいのりに縛られず、chellyとして、自分が感じたことを素直にアウトプットしていいんだなって思ったあたりからエンジンかかったというか。はい、自由にやらせていただきました。

Aimer　今まではryoさんの作った曲でしかchellyさんの声を聴いていなかったので、澤野さんのメロディで聴くchellyさんの声は新鮮でした。

アニメに呼応した非常に熱量のある歌

──「ninelie」は、現在フジテレビのノイタミナ枠で放送中のアニメ「甲鉄城のカバネリ」のエンディングテーマでもあるわけですが、アニメからはどのようなイメージを？ 物語の設定は、ざっくり言うと和風スチームパンク×ゾンビパニックですよね。

Aimer　この作品は、極限状態の中で人は何を大切にすべきか、みたいなことを問う、非常に熱量のある作品だと思うんですね。そういう問いに向き合うことって、日常生活ではほとんどないし、あるいは言葉にしてしまうとすごく陳腐に聞こえてしまうかもしれないんですけど、フィクションの中では説得力を持って描かれるじゃないですか。だから私も、主人公をはじめとする登場人物たちが作中で感情をさらけ出すように、なんというか、歌を静かに爆発させることを意識しました。

──この曲はミニマル的というか、反復するメロディが徐々に熱を帯びていくような展開を見せますが、その過程はおっしゃる通り「静かに爆発」という言葉がぴったりですね。

chelly　レコーディングの時点では、私たちは当然アニメの第1話も観ていない状況なんですけど、先日、映画館で行われた先行上映会で音楽が流れるのを聴いて、安心したというか。

──ご自分の歌い方で合ってた？

chelly　合ってました（笑）。レコーディングのときに、いつものEGOISTとは少し違った歌い方だし「この熱さで大丈夫かな？」って、作品との誤差が出ないか心配ではあったんですけど、ぴったりハマっていて。そこはとってもうれしかったです。

──今Aimerさんが「甲鉄城のカバネリ」を「熱量のある作品」とおっしゃいましたが、テレビアニメなのに劇場版並みの作画クオリティですよね。

Aimer　ほんとに、毎週放送するとは思えない（笑）。

chelly　大スクリーンでの鑑賞にも耐えられるというか、「これをテレビで観られるのか！」っていう。

似てる声が引き立つ互いの違い

──お二人の歌声の相性という点では、どのように感じていますか？

Aimer　ジャケット撮影のとき、スタジオで大音量で「ninelie」を流していたんですけど、それを聴いてたメイクさんに「ずっとAimerちゃんだけが歌ってるんだと思ってた」って言われたのが、すごく印象に残ってるんですよね。つまり、この曲がコラボレーション作品だって知らなかったら、一聴した程度ではわからないくらい声が似てる部分があるんだなって。まあ、「似てる」なんて私が言うのはおこがましいと思いつつ、その似てる部分があるからこそ、お互いの違う部分が引き立っているのも感じたんですよ。

──「違う部分」とは、具体的には？

Aimer　うーん、声の抽出の仕方というか……。「ninelie」は“熱”を宿した曲になっているんですけれど、chellyさんの声は澄んだ水のようで、でもすごく光ってて燃えてるようなイメージなんです。一方で私の声は、あんまりクールじゃないというか、こう、暑苦しい？

──いや、暑苦しいというのとはちょっと違うと思いますけど、言わんとしてらっしゃることはわかります。“熱”の表現の仕方にもコントラストが見られると。

Aimer　そうですね。あと、私とchellyさんで同じメロディを歌っている部分もあるんですけど、歌い回しが違うとまったく印象が変わるというのも、面白い発見でした。

chelly　実を言うと私は、最初はAimerさんの曲にお邪魔するというか、Aimerさんがおっしゃるところの「大人たち」に見守られている中で「なるべく迷惑かけないようにがんばろう」っていう気持ちだったんです。でも、Aimerさんが先にブースに入って歌っているのを見て、「それじゃダメだ！」って思い直して。Aimerさんの歌に安心しつつ、でもお客様じゃいけないし「何かお土産を置いて帰らなきゃ」っていう、ちょっとした葛藤があったんですよ。

Aimer　それ、今初めて知りました（笑）。chellyさんはすごく堂々と歌われていたので、まさか「お邪魔する」という感覚があったとは。むしろ曲を乗っ取るぐらいの勢いで、素敵なお土産を置いてってくださいました。

感情をおびき出す澤野弘之の歌詞

──「ninelie」は、作詞も澤野さんがなさっていて、そこには「繰り返す陽の無い夜明けに崩れた朝」といった一節があります。先ほど、今回のシングルは3rdアルバム「DAWN」で“夜明け”を迎えたAimerさんにとって最初の作品というお話が出ましたが、澤野さんもそのことを意識されたのでしょうか？

Aimer　それがですね、私も聞けていないままで……。歌詞を拝見して私は「これは……」と思ったものの、言い出せず。でも、それがたとえ意識せずに澤野さんから生まれたものだとしても、その偶然を大事にしたいし、うれしいなって。

chelly　澤野さんの歌詞って、ryoさんが書くアップテンポな曲の歌詞とちょっと似てるんですよね。読み取れるようで読み取れないところが。なので、私も無理して読み取ろうとか、意味付けしようとか考えずに、感じたまま歌に乗せようと思いました。

Aimer　澤野さんの歌詞は確かに抽象的なところが多くて、ご本人も「音に合うように言葉を選んでいる」といつもおっしゃってるんですね。しかも、その選ぶ言葉っていうのが濃いというか、強いんです。それは字面だけじゃわからないんですけど、実際に声に出したときに、その強い言葉に引っ張られて、感情が“おびき出される”んですよ。

chelly　そのおびき出される感じは、私もなんとなくわかります。

Aimer　逆に言うと、私たちに対してそれを求めているというか、私たちの感情をおびき出すためにそういう言葉を選んでいるのかな、とも感じました。