パブリックイメージからの脱却

──安倍さんは今回の作品が初めてのオリジナル音源になりますが、上京したばかりの頃はどういった音楽性だったんでしょう。

最初はカバーばかりだったんです。普通に王道……ホイットニーとか、アリシア・キーズとか。それに飽きてくると、日本語の曲をやったほうがいいと思って久保田利伸さんの曲をカバーしたり。あとはMAXとかモーニング娘。の曲をソウルで歌う、みたいな遊びとかもやってた（笑）。

──それからオリジナル曲を作り出したのはどのあたり？

ライブハウスに出るようになってからですね。「オリジナル曲作らない？」って声をかけてくれる人や、作るために手伝ってくれる人たちと出会って。さらには「勉強としてコーラスやってみない？」って誘ってくれるような人にも出会えました。今のサポートメンバーもそういう人たちなんですけど。

──そうなんですね。

ただ、オリジナル曲を作り始めた頃は「安倍みなみの声はこういう感じだよね」「こういう曲が似合うよね」っていうイメージに囚われていて、ちょっとジャズっぽかったり、ソウルっぽい曲が多かったんです。依頼されるカバー曲もそういうジャンルのものが多かった。当時アレンジとかを手伝ってくれた人も、そういう方向性に持っていきたかったみたい。それに対して自分も「期待に応えなきゃ」「そう言ってくれているんだから、きっとそっちがいいんだろうな」って思っていて。

──実際のところブラックミュージックは？

別にそこまで意識はしてないんですよね。「オシャレに、カッコよく」みたいな曲は。それに悩んだ時期があって……Tokyo ROUGEの赤坂BLITZ公演のあとくらいかな。その頃に、それまでのオリジナル曲を全部封印して、曲の感じを一新させたんです。きれいではないかもしれないけど、そのときに感じたままの歌詞やメロディで作っていこうって。だから気兼ねなく相談したり、活動できるメンバーにサポートをお願いすることにしたんです。そうやって作ったのが、今回の作品に入っている楽曲ですね。

マジつまんねえ！

──安倍さんは昨年ライブバトル系のテレビ番組にも出演されて。そこでは決勝大会まで駒を進めましたが、優勝はできませんでした。でもそこでの活躍が現在のスタッフの目に止まって、今回のデビューにつながりました。

はい。テレビで歌うのも初めてだったから緊張しましたけど、楽しかったです。地元からも「観た」って連絡がきましたし。なにより、いつもは20時半くらいに寝ている父が、深夜の放送時間まで起きていたって話がうれしかった。決勝大会では負けちゃいましたけど、バンドが多い番組だったので、勝てるとも思っていなかった。

──そもそも安倍さんって、なりたいアーティスト像はあったのですか？

「誰々のように～」みたいなこと？

──どうなっていきたい、みたいな。

世の中の多くの人に「あ、この歌知ってる」って言ってもらえるようになるのは、絶対条件……と言うか目標ですかね。

──一方で、生活ができて、音楽が続けられればそれでいいというアーティストもいます。

そういう時期もありました。「自分は上がれないんじゃないか？」って思っていたときに、コーラスの仕事をたくさん受けていたときがあって。お金ももらえるし、歌えるし、勉強できるからいいかなって。そのときはなんか、「こういう感じでコーラスとかを仕事として続けていくのもいいのかな」って思っていました。でも続けていると、どんどん自分が死んでいくんですよ（笑）。

──どういう意味ですか？

コーラスって自分がメインになれないじゃないですか。しかもメインの歌手のイメージに合わせなきゃだし、そうすると自分の歌い方も変わる。あとはいつもの歌い方だと楽曲の中で浮いちゃったり。そうして自分を抑えていたら「マジつまんねえ！」ってなっちゃった（笑）。「ダメだ、これ続けるくらいなら歌やめよう」と。それからは「ステージの真ん中に立って、みんなに知られるような人になりたいな」って。