ちょっと悩んでいる人を明るく
──レコーディングはどうでした?
楽しかったです。スタジオを3、4日押さえていたんですけど、私、レコーディング初日に熱を出して。喉も微妙だったから、1曲しか録れなかった(笑)。それが「バイバイの意味」だったんですけど。でもこの曲はそんなに「ガーン!」って歌う必要がなかったから。ただ2曲録るのは無理でしたね。
──制作を終えてみて、安倍さんはこの最初の作品がどう聴かれると思いますか?
好き嫌いがわかれるんじゃないかな。どう思います?
──個人的には、歌声の熱という魅力はしっかりとたたえつつ、それでいて聴き手が受け取りやすい温度感にしっかりとチューニングされているなと。ちなみに“嫌い派”の人にはどこが嫌われると思っているのですか?
「え? こいつ誰だよ?」みたいな。
──曲の内容じゃないんですね(笑)。
あとはまあ、やっぱり歌詞はヘビーに思われたりするのかな。
──確かにアルバムタイトル「いい子ってなんですか」は、リード曲「質問があります。」の歌詞から取られていますが、この曲の歌詞は、捉え方によっては少し重く感じられるかもしれませんね。この作品は安倍さんの最初の音源なので、世間への自己紹介的な意味合いがあると思うのですが、そういう意味で誤解は与えそうです。
この曲、もともとはあるオーディションで感じた憤りを歌詞にした曲なんです。でも歌っているうちに、だんだんと「そんなに重く歌う必要がないな」って思うようになって、今回のレコーディングに際してアレンジなどでトーンを軽めにしていて。あまりシュールと言うか、重くなりすぎないように。子供とかが大人に向かって、本当に無邪気に「いい子って何?」って聞いているようなイメージ。重く捉えられたくなかったからジャケット写真もあんな感じの雰囲気にしたんですよね。
──そうだったんですね。そう言えば安倍さんって曲も作っていますけど、作曲はやりたくてやっているのですか? イメージ的には生粋のシンガーという感じで。
以前は歌うことのほうが好きだったんです。でも最近は作曲も「楽しいかも?」って感じていて。だから今は楽しみ途中。今後もっと好きになるかもしれないし。でもまだ歌のほうが大きい。6対4くらい。
──それでも、意外と作曲にかけるプライオリティが高いですね。
え、そうですか? 私、曲を作ることに苦手意識があって。抜群に「デーン!」って感じの曲は私には作れない。だけど今後続けていくうえで、アルバムの中には自分で作った曲も入れていきたいなっていう気持ちです。
──なるほど。では初めてのCDを作り終えた感想は?
イメージしていたものが形にできた印象はあります。力も発揮できたと思いますし。あとはやっぱり、うれしいですね。今回はCDでリリースするほかにも、BIG UP!も利用するんです。BIG UP!みたいなサイトがあるから今は気軽に多くの人に音楽を届けることはできるけど、自分が小さいときはCDが主流で、作品を出すなんて手の届かない行為でしたからね。
──BIG UP!って各配信サイトやサブスクリプションサービスと提携したプラットフォームですから、たくさんの人に届けるためのインフラがいよいよ整ったという感じですね。
そう。海外にも配信できますしね。それほど音楽に詳しいわけじゃないような人にも聴いてほしいです。みんな聴いてどう思うかな。楽しみだけど、緊張する。私、ライブとかでもけっこう「ここがいい」って言ってくれる人の「ここ」の部分がバラバラで。それを聞いていて面白いんです。「意図とは違うけど、そう解釈していいと思ってくれたんだ」みたいな。音源を全国にリリースするってことはそういうことがもっと広がるってことですよね。楽しみです。
──安倍さん自身は、「こういうふうに聴いてほしい」みたいなものはあるのですか?
そうですね、作品を通して、ちょっと悩んでいる人が明るくなれるような作品だといいなとは思っています。きっと引っかかる人もそういう人なんじゃないかなって。答えになっているかな。
途中で辞めなくて本当によかった
──ご自身が思い描いた通りかどうかはわかりませんが、トピックだけ取り上げていくと、ここまでのキャリアは順風満帆と言えそうです。大きな会場で歌ったり、テレビ番組で歌ったり。
うーん、でもずっと底辺で、「誰か……誰か……」と言い続けていたようにも思う。何回かは這い上がるタイミングがあったんですけど、結局全部ダメでしたから。オーディションもいいところで落ちるし、番組でも優勝できなかったし。
──それでも、続けているとどうなるかはわからないことを証明しましたね。
テレビに出る前に、1度だけ歌を辞めようと思ったことがあったんです。その時期、弟がレコード会社主催のオーディションを教えてくれて、それに応募したんですけど、そのときも“これが最後”くらいの気持ちで受けていて。「この規模で人の心を動かせられないならもう向いていない」「ここまでやっても状況が変わらないならもう辞めよう」って。そのオーディションって、月に1度ライブをやって投票数を競うというものだったんですけど、そのときに応援してくれている皆さんのパワーが強くなった感じがしたんですよね。
──それで思いとどまったところがある?
うん。人が持っている“押す力”みたいなもの? そういうものが運よく働いてくれたなあと。ありがとう、って感じです。
──それからトントン拍子でデビューまで進んでいったわけですね。“見つけてもらい方”みたいなものはいろいろですけど、地道にやっていないと見つけてはもらえません。
そうそう。だから途中でやめなくて本当によかった。今は「あ、まだやめなくていいんだ」みたいな感じです。ありがたい。
- 安倍みなみ「いい子ってなんですか」
- 2017年11月29日発売 / Meaz Inc.
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[CD] 1620円
CEME-10001
- 収録曲
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- LIFE
- 質問があります。
- ユメハナビ
- 蝶は蝶
- Tomorrow
- バイバイの意味
- 安倍みなみ(アベミナミ)
- 1992年、宮城県仙台市生まれの女性シンガーソングライター。フィリピン人の母と、日本人の父の間に生まれる。2011年、服飾系の専門学校への進学を機に上京し、歌手を志してボイストレーニングを始める。専門学校卒業後、都内を中心にした地道なライブ活動や、さまざまなオーディションへの参加などを経て、2016年にライブバトル番組に出演。この番組の決勝大会に出場したことがきっかけとなり、2017年11月にデビュー作の6曲入りCD「いい子ってなんですか」をリリースした。12月には東京・赤坂グラフィティでワンマンライブを実施する。