ナタリー PowerPush - NOVELS

「TIGER & BUNNY」OPテーマも収録 メジャー1stアルバム「cardioid」

どこまで僕が作れば曲になるのかがわかった

──楽曲制作の話に戻りますが、竹内さんが作られた詞と曲をスタジオに持っていって、あとはみんなで作り上げていってると。では、どうやって竹内さんが持ってきた原石に肉づけをしていくんですか?

竹内 曲によって違うんですけど、だいたいは目の前で聴かせて、ドラムが付いてきて、みんな適当に弾き始めてっていうところから始まるんです。で、ワンコーラス弾いてみて、どうしてもこうしてほしいっていう部分があったらそれをみんなに伝えて、あとは各々自由にアレンジを。で、「これくらいの長さでやりたい」「ここにこういうの挟みたい」ってだいたいの構成を考えて、次のスタジオまでにそれぞれいろいろ練ってきて、また肉付けしていく感じ。

──竹内さんが作られるデモはどこまで作っていくことが多いんでしょう?

竹内 ものによってバラバラなんですよね。ほとんどできてるのもあり、サビとAメロができてるけどBメロがないのもあり、サビからメロがつながってないからどうつなげようとかっていうのもあり。ホント、バラバラですね。でも結局、ある程度形ができてないと制作までにすごく時間がかかってしまうので、ある程度の形まで作って結合の仕方を相談する感じです。単純にリズムがどうこうとか。そうそう、去年までに作った8曲の中でサビしかない曲もあったんですけど、それだけではやっぱり完成まで持っていけないですよね。サビの先のメロディを作っていかないと。でもそれも今回発見したことで。どこまで僕が作れば曲になるのかとか、どこからは全員でできるのかとか、いろいろ実験しながら今回のアルバムは作れたなあと。

──バンドとしてもやったことのない制作スタイルが試せたと。そのほか新しいチャレンジはありました?

NOVELS

竹内 新しいチャレンジもたくさんありましたね。例えば、1曲目の「遊星オペラサーカス」はいろいろきつかったかな。ハンドクラップが入ってるんですけど。最初に漠然と、ハンドクラップとか、ほかのリズム楽器を使いたいっていうのはみんなに伝えて、それが効果的に聞こえるためにどうやって入れようかと相談しながら進めて。ドラムをスティールパンみたいな音に加工してみたり、メロディの切れ方とかギターフレーズとか、それによってベースも変化するよね、とかいろいろ相談して。

──アルバム全体にあふれている“バンド感”はみんなで相談しながら作ったからこそなのかなと、今お話を聞いて思いました。アーティストによって曲の作り方はいろいろで、例えばPro Toolsを使ってきっちり作りこんでくるアーティストも入れば、仮歌にみんなで肉付けしていくアーティストもいますよね。で、NOVELSはどちらかと言えば後者で、竹内さんの曲という芯がしっかりあって、それにみんなでいろいろ話し合っていけるタイプなんだな、と。

竹内 アナログなんです(笑)。だってファイルの開き方わかんないし、みんな(笑)。

山田 その形が一番合ってるんですよね。どういう色を付けてどういう形にしていくっていう指針が、ちゃんと真央から出てくるボーカルと歌詞とメロディにあって、それに対してどう演奏するかっていう意見をみんなはっきり持ってるんで。ひとりで作りこんでくるんだったら演奏するのは僕らじゃなくてもいいと思うんですよ。そうではなくて、真央が出してきたものに対して、みんながどう思うかっていうのが大事で。着眼点が違うこともあるけど、それでよくなることもあるし。そういう進め方を真央も楽しんでるみたいだし(笑)。結構、「なんか思ってるんだろうけど言わねえなコイツ」みたいなことがあるんですよ。試してるのかな?って感じるときとかもあるし。

竹内 例えば、数人がひとつの物体を違った角度から写生すると、同じものを描いてるのに全く見え方が違うみたいな感じが良くて。後ろから描いてる人もいれば横から描いてる人もいる。でも実際はひとつのものを描いてる。そういう、切り口が違うものが見たい。違う視点の発想を知りたいんです。僕がひとりで作ってきたら、僕の目で見てる2Dでしかないんですよ。もちろん3Dにするときに……つまりバンドで曲に肉付けをしていくときに、たまにケンカになることはあるんですけど。僕が思ってるこの角度から描いてほしいっていう要求と違うものになったりして。車を描いてって言ったとして、それは外観を描いてって意味だったのに、メンバーは車の中を描いてたりするみたいな……。「こうじゃないのに……」っていう。

──でもそれは発展的なケンカですよね。

竹内 そうですね。結果、僕が予想してた角度と微妙に違う感じになってくれることもあって、僕も「あ、この物体はそういう形してたんだ」って知らされるっていうか。それが面白いですね。

バンドは写生クラブ

──ところで、「NOVELS」というバンド名を付けたのは竹内さんだと伺いました。それは本が好きだから?

竹内 そうですね、結構単純な理由です。

──だからなのか、竹内さんの紡がれる歌詞は、たくさん本を読んでることが感じられるものだと思いました。例えば「Wiz」は「オズの魔法使い」、「コーカス・レース」は「不思議の国のアリス」に出てくる言葉ですよね。

竹内 そうです。

──ただ、それぞれの歌詞の出発点になった小説を知らなくても、胸に刺さる、新しい世界が眼前に広がる歌詞だとも感じました。それは、竹内さんが先程「同じものを描いてるのに全く見え方が違う、それが面白い」って言っていたのと似てるなと思ったんです。

竹内 僕の見解では、バンドっていうのは写生クラブなんだなっていうのが如実になったと思ってるんです。今までは、「吉田はこの角度から描くのが得意だろうな」って考えが漠然と僕の中にあったんですよ。今回はその得意な角度が増えた、物をより立体に見せられる描き方ができるようになったというか。そのためには僕も成長しなきゃいけなかったし。あと、曲ができた後で書いた歌詞も結構あって。僕、歌入れ直前まで歌詞を変えたりするんですよ。単純に直したいっていうよりも、このままでは曲に負けてるって感じるときがあって。歌詞のせいで楽曲を潰せないから。想像以上の曲ができあがったのに、僕の歌詞でつぶれたら最悪だなと思って。うん、僕らは全員一緒に写生クラブをやってきたけれども、ちょっとずつ描けることが増えた、使う色が増えたんです。

──歌詞は完全にひとりで書くんですよね?

竹内 そうですね。今はプロデューサーと相談しながらですけど。とりあえず書けたら、小学生の作文コンクールみたいに、提出して、ここちょっと直してほしいなとか言われたり(笑)。「ミッシングリンク」のときはそのやりとりがすごくあったんです。僕、結構、最後をぼやかす歌詞を書くんですよ。答えを出す直前。答えって、僕の主観なんで。そうじゃなくてどうとでも取れるように、ギリギリのところで止めたりしてたんですけど、「ミッシングリンク」は「君の答えでいいから出せ」「『物語の僕らがその未来想う』のはなんでなのか、全部答えを出して」って言われて。

──今までは、答えとしてぼんやり竹内さんの心の中に浮かんでいたものはあっても、それを言葉という形にしないままだったと。

竹内 面白みがなくなっちゃうと思ってたんですよ、完成形に近づくと。もちろん答えを出した歌詞もあったんですけど、形にしない面白さへのこだわりはあって。それが今回、ちょっと変えられました。形にしてしまうぐらいじゃないとダメなんだって。形にしていてもわからない人がいるから、僕が出した答えを聴いて胸に刺さる人のほうが多いと思うから、っていうふうに言われて。そういうことを言ってくれる人は初めてで、いろいろ考えましたね。答えを出していいんだ、でも意外に出すのって難しいな、と。

──そんなふうに竹内さんが歌詞で奮闘しているとき、皆さんは「苦しんでるな」と感じたりします?

山田 思いますね。真央は根っからあんまりテンションが高いやつじゃないんですけど、もっとズンッと、落ちてるのがよくわかる。プロデューサーとのやり取りはあんまり聞いてないんですけど、「これはヤバそうだ」「戦ってるなー」っていうのはよく見てました。

──乗り越えたときもわかる?

山田 歌い終わったときに「できたー」って感じになってる気がします。

ニューアルバム「cardioid」 / 2011年10月12日発売 / 2800円(税込) /  TOY'S FACTORY / TFCC-86365

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CD収録曲
  1. 遊星オペラサーカス
  2. umbrella
  3. 双生児
  4. Wiz -Album ver.-
  5. 忘却事象閲覧所
  6. 心細胞学
  7. ミッシングリンク
  8. Mouth of providence
  9. コーカス・レース
  10. 星と君とマーブル模様のこと
  11. グーイグーワ
NOVELS(のべるず)

竹内真央(Vo, G)、楠本正明(G)、山田裕起(B)、吉田翔人(Dr)の4人からなるロックバンド。全員、現在も出身地である愛知県在住。2007年10月に結成され、インディーズでシングル「鏡の国の二人e.p.」「Wiz e.p.」、アルバム「From the bad lands for Mrs. Witherspoon」「My blood is Your blood.」をリリースし、歌詞の深遠な世界観と確かな演奏力で徐々に人気を博す。また2010年1月に発表したTSUTAYAレンタル限定シングル「レムリア e.p.」では、東海地区での当時のTSUTAYA無料レンタル記録を塗り替え、注目を集めた。

2011年8月に、テレビアニメ「TIGER & BUNNY」のオープニングテーマ曲「ミッシングリンク」にてトイズファクトリー / muff toneよりメジャーデビュー。10月にメジャー1stアルバム「cardioid」を発表する。