音楽ナタリー PowerPush - 96猫
自己満足ではなく、1人のアーティストとして
意識的に声を変えたいと思ってもできないんです
──96猫さんは歌い手として、自らのスキルをどうやって磨いてきたんですか?
私はボイトレをやったことがないので、とにかく自分で歌い続けてきただけなんですよ。昔は1日15時間とか、ただひたすら歌っている感じでしたからね。それがまったく苦じゃなかったし。だから「歌がうまくなるコツを教えてください」って聞かれると、「歌うしかない」って答えるしかないんですよ。「私も知りたいよ!」みたいな(笑)。
──現状、ご自身の歌に関してはどう感じています?
全然まだまだです。録音した歌を2日後くらいに聴くと、「うわ、これ録り直したい!」って思うことも多いですからね。なんかこう、「この人はこの人でしかないよね」みたいな、自分なりの世界観をもっと手に入れないとダメかなあって思うんですよ。そういう部分が自分にはまだまだ足りないと思うから。
──96猫さんらしい世界観はもうすでに確立している気もしますけどね。楽曲ごとに変幻自在の声色を使い分けるところなんて、他にない武器だと思いますし。
あー、ありがとうございます。私は昔からアニメのセリフの声マネをするのが好きだったので、それが今につながっているのかなとは思いますね。でも、自分で意識的に声を変えようと思っているわけではないんですよ。曲を聴き込んで、そこに合うイメージを想像すると自然と声が変わっているっていう。
──じゃあ、どうしてそんなにいろいろな声が出せるんですか、と聞かれても……。
答えられないんです。かと言って、「なんとなくそうなるんですよ」って答えると、なんだこいつ調子乗ってんぞみたいな感じに思われそうで怖いじゃないですか(笑)。できあがった曲を聴いても、自分の声がいろいろ変化しているっていうのが自分ではあまりわからないっていう部分もありますしね。
──え、めちゃくちゃたくさんの声色が出てますけど(笑)。
って言われても、「そう、なんですかね?」みたいな(笑)。だから逆に言うと、意識的に声を変えたいと思ってもできないんですよ。それがちょっとツラいなと思ったりはします。
──なんか面白いですね。
面白いですか。やった!(笑) 表現の仕方はレコーディングする前にかなり考えますけど、声色に関してはどれもが私の声、素の声だと思ってます、はい。
ニコニコ動画での活動は絶対に残しておきたい
──ニコニコ動画で着実に人気を獲得していく中、2012年8月には1stアルバム「memoReal」をリリースしましたね。その出来事はいかがでしたか?
大きな出来事でしたね。もともと、CDを出すなんて思っていなかったので、「いいのかなあ」っていう不安が大きくて。でも、実際にリリースしたことがきっかけで、もっといい歌を歌いたい、もっといいCDを作りたいって思えるようになりました。それに、CDをきっかけに私のことを知ってくれた方がいたのもうれしかったです。
──プロ意識がより明確にもなったでしょうし。
そうですね。曲を作ってくださる方や聴いてくださる方々への感謝の気持ちを忘れずに、向上心を持ってもっとがんばらなきゃなって思うようになりました。それまでは自分がよければいいかな、みたいなところがあったんですよ。でも、自分が楽しくても相手が楽しくなきゃダメだな、相手のこともちゃんと喜ばせたいなっていう欲が出てきましたね。
──それはライブという経験をしたことも大きく影響しているのかもしれないですね。
ライブは楽しいですよねえ(笑)。普段はコメントを通してしか感じられないリスナーさんの思いが、表情としてちゃんと目で見れるっていうのがうれしくて。それこそ自分の歌を聴いただけで泣いてくれる人とかを見ると、「マジか!」ってなりますね(笑)。そういう人たちすべてが活動していく支えになっています。
──96猫さんはネット発のシンガーではありますが、もっと外へと飛び出していきたいという思いも強いですか?
それは思いますね。ニコニコ動画を観てくれている人たちと一緒に、どんどん外へ出ていきたいなって思ってます。自分だけが外へ外へ、上へ上へっていうことではなく、みんなと一緒に前へ進んでいきたいんですよね。「あのときはあんなことがあったよね」とか、一緒に歩いてきてくれた人たちと思い出話ができるような関係でずっといられたらいいなと思っているので。
──ネットという場所はホームとして大事にしていきたいと。
はい。私の歌を聴いてもらえるようになったのはニコニコ動画がきっかけなので、そこは絶対に残しておきたいんです。極力、ファンと身近な存在でありたいっていう思いも強いですね。しっかりとしたアーティストとしての活動をしつつも、遠い存在にはなりたくないんです。それこそ思い出したように下ネタ曲をまた歌ってみたりとか(笑)、そういうことはこれからもしていきたいなと思ってます。
今までの自分を捨てて新しくなるのは違うなと思った
──そんな96猫さんが、2015年元日に通算4枚目となるアルバム「Brand New…」をリリースされます。
はい。今の96猫をしっかりと収めることができたアルバムになったと思います。
──制作にあたって思い描いていた作品像というのは?
一歩前に進む、ということをテーマにしていたので、いろんなチャレンジをしようと思っていました。結果、ジャケットでドーンと顔出しすることになりましたし、96猫のオリジナル曲を初めて収録させてもらったりもしました。
──このタイミングで“一歩前に進む”というテーマを掲げたのはどうしてですか?
自分の中でケジメをつけたかったんです。さっきも言いましたけど、今までは自己満足でやってきたんですよ。だから「将来どこに立ちたいんですか?」って聞かれても答えられなかった。でも、今は1人のアーティストとして、しっかりみんなを喜ばせたいし、楽しませたい。そういう気持ちで歌っていきたいなって思ったんですよね。ただ、今までの自分を捨てて新しくなるのは違うなと思ったので、これまでがあった上で真新しくなるという意味で「Brand New…」というタイトルをつけました。
──強い覚悟がそこにはあるわけですね。
そうですね。フラフラしてた自分が、やっとひとところに立ち止まったというか。立ち止まることを決めたというか。もう私から歌を取ったらテントで生活するしかなくなってしまうので(笑)。
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収録曲
- Shooting Star feat. HISASHI(GLAY)
- WAVE
- 純情フレーバー
- 聖槍爆裂ボーイ
- D・I・T・A
- chocolate
- +♂ 96猫ver
- OK
- 金曜日のおはよう
- 天樂
- Little Star
- 月光
- Thank You
96猫 LIVE TOUR“ちょこっと96猫お邪魔します2015春、略してチョコクロ' 15”
- 2015年3月24日(火)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2015年3月26日(木)大阪府 umeda AKASO
- 2015年3月30日(月)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
チケット料金:前売り3800円(ドリンク代別)
96猫(クロネコ)
2006年からニコニコ動画の「歌ってみた。」カテゴリで活動している女性歌い手。セクシーな女性の声から少年のような声までさまざまな声色を使って楽曲を表現し、15本もの「歌ってみた」投稿作品がミリオン(100万再生)を達成している。2012年に初のソロアルバム「memoReal」をリリースし、その後も定期的にアルバムを発表。2015年元日リリースのアルバム「Brand New...」では、リードトラック「Shooting Star」にHISASHI(GLAY)がギターで参加している。Twitterフォロワー数60万、ニコニコ動画累計再生数5000万回を超え、女性の歌い手の中でトップクラスの人気を誇っている。