「まな板の上の米良になります」
──作曲に関してTeddyさんにお聞きします。まず「Red Doors」はアニメ「18if」のオープニングテーマであるという、ある種の縛りがある。その中で米良さんを起用されることに関して、大変だった部分はありませんでしたか?
TeddyLoid それは全然なくて。なぜかと言うと、まず総監修の森本(晃司)さんから「巷にあふれているようなアニソンにはしたくない」「今まで聴いたことのないようなオープニングにしたい」「別にボーカルがずっと乗っていなくたっていい」といったオーダーをいただいたりして、森本さんと僕で楽曲のイメージをしっかり共有できていたので。そこで僕としては、やっぱり米良さんの声を最大限に生かしたくて。でも、それは普通の歌ではなくて、米良さんの声を楽器っぽく使ったりとか、切り刻んで再構築したりとか。最初は「そんなことしていいのかな?」って思ったんですけど(笑)。
──正直、「よくやるよな」と思いました(笑)。一聴して「えっ、いいの? ホントにいいの?」っていうくらい、米良さんの声がTeddyLoidの世界に組み込まれた感じがあります。
米良 ご本人も「いいんですか?」って気にしてらしたんですけど、「いいんです。まな板の上の米良になります」って。
──はっはっは(笑)。
米良 私はあらゆる意味で、いろいろ投げかけてもらうのが好きなので。例えばテレビでお笑い芸人の方とご一緒するときなんかに、いじってもらうようなスタイルが楽なんですよ(笑)。
TeddyLoid そうやって米良さんから「自由にやっていい」というひと言をいただけて、吹っ切れましたね。
米良 実際、できあがった音源を僕の友達や音楽仲間に聴かせたら、みんな「めちゃくちゃカッコいいじゃない」って言ってくれまして。
TeddyLoid さっき言ったように、普通のアニソンにはしたくなかったし、かと言ってクラブミュージックにもしたくなくて。もちろんクラブミュージックの要素は入ってますけど、より大きなEDMというくくりの中で新しいものを作りたかったんです。
才能は才能をリスペクトする
──「Red Doors」は乱暴に言えば“スローなEDM”なんですけど、ヘッドフォンで聴くとものすごい空間的な広がりを感じますね。かつ、その中で音がひゅんひゅん反射しているような、面白い聴感もあって。
TeddyLoid そこに気付いてくださるとうれしいですね。ちょっと技術的な話をすると、今回は新しいミックスの手法を取り入れていて、M/S処理で擬似サラウンドみたいな感じに仕上げてるんです。それを米良さんの声に使っていて。あと、メインのメロディにも、実は米良さんの声を加工した音をちょっと入れていたりとか。
米良 凝ってますねー。そうやってTeddyさんは、私が知らない私の可能性を引き出してくれて。もう1曲の、「18if」第12話のエンディングに使われた「白鳥は眠る」には、私の歌い回しを切ってつなげてくださったディミニューション(音価を分割してメロディを装飾する手法)があるんですけど、「こんなふうにやりやがったか!」と、ちょっと感動しました(笑)。
TeddyLoid 「白鳥は眠る」の間奏部分は米良さんに即興で歌っていただいて、それを僕が再構築しているんです。でも、それはただ単に声を切り刻んで電子音楽的に配置していくんじゃなくて、あくまで人間的に、あたかも米良さんが本当に歌ってるみたいな感じにしたかったんです。
米良 そう。歌った本人が「あれ? 私こんなにうまく歌ったっけ?」ってなりましたから。
TeddyLoid 中には「声をいじってほしくない」とおっしゃる方もいるんですけど、米良さんのような日本を代表する歌手が、僕の音楽制作手法に同調してくれるのは光栄だし、うれしかったです。そのほうが絶対に可能性が広がるし、よりよいものになると僕は思っているので。
米良 でもね、私だって誰にでも気を許すわけじゃなくて、やっぱりリスペクトがあるからなんですよ。それは年齢とか関係なく。こういう言い方するとちょっと自惚れてるみたいに聞こえちゃうかもしれないんですけど、才能は才能をリスペクトするものだと思うんです。
米良美一の声はAuto-Tuneがかからない
──Teddyさんの、米良さんの声を切り刻んで再構築する手法もすごいんですけど、そうされてなお聴き手に迫ってくる米良ボイスの強烈さもまたすごい。
米良 すみませんね、暑苦しくて(笑)。
TeddyLoid またちょっと音楽的な話になりますけど、米良さんの声はやっぱり特殊で、1つの発音の中に2音、3音混ざってたりするんですよ。
米良 何それ怖い。呪われてるんじゃない?
TeddyLoid あはは(笑)。そういう重厚な声なので、Auto-Tuneがかかりづらいんです。そこはすごく試行錯誤しました。
米良 ホントごめんなさいね、面倒臭い声で(笑)。
──その声とTeddyさんのトラックが合わさって、「Red Doors」は緩めのBPMながら非常に緊張感のある楽曲になっていますね。
TeddyLoid そう。ちょっとヒリヒリした、張り詰めた感じを出したくて。今回のトラックは全部ソフトシンセで作ってるんですけど、シンセサイザーは“ド”の音を押したら完璧な“ド”の音が鳴っちゃうんですよ、機械的に。だからほぼすべての楽器をデチューンして、わずかに音程をズラしてるんです。絶対音感がある方なら、そのズレに気付くと思います。
米良 すっごーい。計算し尽くされてるな。
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地声と裏声のサディスティックなチェンジ
- V.A.「TVアニメ『18if』主題歌集」
- 2017年10月4日発売 / EVIL LINE RECORDS
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[CD]
3200円 / KICA-3268
- 収録曲 / アーティスト
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- Red Doors feat. 米良美一 / TeddyLoid
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:TeddyLoid] - Wonderland / リリィ(CV:名塚佳織)
[作詞:マミヨ / 作曲:片山将太、藤末樹 / 編曲:片山将太] - Break The Doors feat. アイナ・ジ・エンド(BiSH)/ TeddyLoid
[作詞:MaryJane / 作曲:TeddyLoid、MaryJane / 編曲:TeddyLoid] - 夢恋花 / 杉崎佳世(CV:田村奈央)
[作詞:咲岡里奈 / 作・編曲:R・O・N] - ANGELNOIR / 青葉市子
[作詞・作曲:青葉市子 / 編曲:detune.] - プルメリア / 奥井亜紀
[作詞・作曲:じん / 編曲:ANANT-GARDE EYES] - 行方知レズ / 月蝕會議
[作詞・作曲・編曲:月蝕會議] - too late / ネネ(CV:水瀬いのり)
[作詞・作曲・編曲:CHI-MEY] - 空の音 / Ryu Miho
[作詞・作曲・編曲:長谷川智樹] - ツバサ / 美咲(CV:新田恵海)
[作詞・作曲・編曲:月蝕會議] - ファクター・ワード / 住友花子(CV:南波志帆)
[作詞:eNu / 作・編曲:長谷川智樹] - Salvation / TeddyLoid
[作・編曲:TeddyLoid] - 白鳥は眠る feat. 米良美一 / TeddyLoid
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:TeddyLoid] - if / 月城遥人(CV:島﨑信長)
[作詞・作曲:じん / 編曲:TeddyLoid]
<ボーナストラック>
- ファクター・ワード(A吉スタジオremix)/ 住友花子(CV:南波志帆)
[作詞:eNu / 作曲:長谷川智樹 / 編曲:A吉スタジオ]
- Red Doors feat. 米良美一 / TeddyLoid
- 米良美一(メラヨシカズ)
- 1971年5月21日、宮崎県生まれの歌手。1996年9月にアルバム「母の歌~日本歌曲集」でメジャーデビューを果たす。翌1997年には宮崎駿監督によるアニメーション作品「もののけ姫」で同タイトルの主題歌を歌唱し、高音域を歌うカウンターテナー歌手として大きな注目を集めた。1999年には映画「死国」主題歌「ぼくは雨となり星となる」を歌い、同年10月には初のオリジナルアルバム「I'll be there」を発表。その後、精神的重圧により歌手活動ができなくなる時期もあったが、2007年には自叙伝「天使の声~生きながら生まれ変わる」を出版し、波乱万丈な人生経験を元に全国各地で講演会を行うようになる。2014年末にくも膜下出血で入院し、その1カ月後に水頭症を発症するという大病を患うも、リハビリを経て音楽活動を再開。2017年夏放送のテレビアニメ「18if」ではTeddyLoidとのタッグでオープニングテーマを担当した。「18if」オープニングテーマ「Red Doors feat. 米良美一」および第12話エンディングテーマ「白鳥は眠る feat. 米良美一」を収めたアルバム「TVアニメ『18if』主題歌集」は2017年10月発売。
- TeddyLoid(テディロイド)
- 1989年8月23日生まれの男性アーティスト / 音楽プロデューサー / DJ。18歳でMIYAVIのメインDJ / サウンドプロデューサーとして13カ国を巡るワールドツアーに同行し、2010年には☆Taku Takahashi(block.fm / m-flo)と共にTVアニメ「Panty & Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックを担当。翌2011年には柴咲コウ、DECO*27とともにgalaxias!を結成しアルバムを発表。2013年のももいろクローバーZ「Neo STARGATE」のサウンドプロデュース、そしてライブでの共演をきっかけに、キングレコードEVIL LINE RECORDSより2014年9月に1stアルバム「BLACK MOON RISING」を発表し、ソロアーティストとしてメジャーデビューを果たす。2015年9月にはももいろクローバーZ初の公式リミックスアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」を手がけ、12月には中田ヤスタカ(CAPSULE)、HISASHI(GLAY)、小室哲哉、志磨遼平(ドレスコーズ)、佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)等の豪華ゲスト12組を迎えた2ndアルバム「SILENT PLANET」をリリース。2016年にはKOHH、ボンジュール鈴木、ちゃんみな、アイナ・ジ・エンド(BiSH)、Kダブシャインらを迎え、その続編となる「SILENT PLANET 2 EP」の配信リリースをスタートさせた。プロデューサー、リミキサーとしては、the GazettE、KOHH、HIKAKIN & SEIKIN、Crossfaith、米良美一ら多岐にわたるアーティストを手がけているほか、短編映像シリーズ配信企画「アニメ(ーター)見本市」の吉崎響監督作品「ME!ME!ME!」、専門学校HALの2016年度テレビCM「嫌い、でも、好き」篇の音楽をDAOKOと共に担当。そのほか、PlayStation4ソフト「Destiny 2」のプロモーションムービー「『Destiny 2』Live Action Dance Trailer "Freestyle Playground"」、SONY「EXTRA BASS」シリーズ、宮本亜門演出の「WRECKING CREW ORCHESTRA」による公演「SUPERLOSERZ SAVE THE EARTH 負け犬は世界を救う」など多岐にわたる分野で音楽を担当している。2017年夏には北米を中心に3カ国6都市に及ぶワールドツアーを敢行。海外でも大きな反響を呼んでいる。