2017年7月より放送されたテレビアニメ「18if」は、個性あふれるさまざまなアーティストが週替わりでエンディングテーマを務め、音楽ファンの間でも話題を集めた。中でも大きな驚きを与えたのが、全話共通のオープニングテーマと第12話のエンディングテーマを担当した米良美一とTeddyLoidによるコラボレーション。大病を乗り越えて音楽活動再開を果たした米良にとって、オープニングテーマ「Red Doors feat. 米良美一」は復帰第1弾楽曲となった。
世界のクラブシーンで活躍するTeddyが米良とのタッグで作り上げたのは、緻密な音空間の中で機械的に刻まれた米良のカウンターテナーが浮遊する、異色のEDMナンバー。一方、第12話のエンディングテーマ「白鳥は眠る」は、米良のハイトーンボイスが清らかに鳴り響くアコースティックサウンドに仕上げられている。音楽ナタリーでは、世代もジャンルも飛び越えたこの異色コラボが実現するまでを探るべく、米良とTeddyに話を聞いた。
取材・文 / 須藤輝 撮影 / 佐藤類
米良美一がPerfumeやきゃりぱみゅを脅かす存在に
──今回のコラボはTeddyさんから米良さんへオファーを出される形で実現したそうですが、Teddyさんはなぜ米良さんを起用しようと?
TeddyLoid もう単純にファンだったので。すごいミーハーなんですけど、やっぱり「もののけ姫」(1997年公開の映画「もののけ姫」主題歌)を聴いて、当時7歳か8歳だった僕は衝撃を受けたんです。男性でありながら女性の音域を歌うカウンターテナーという声種があるというのを知ったのもこの曲がきっかけでしたし、とにかく「カッコいい!」と思って。そのあとに「ぼくは雨となり星となる」(1999年発表)という……。
米良 映画「死国」の主題歌ですね。
TeddyLoid その曲が、「もののけ姫」とはまた違った落ち着いたトーンでありながら、ものすごくメッセージ性の強い、スピリチュアルな雰囲気をたたえた歌で。それもやはり衝撃的だったんですよね。
米良 そのときまだ小学生でしょ? すごい感性と観察力。
TeddyLoid 僕は小学校の卒業文集に「音楽プロデューサーになりたい」と書いていて、実際なれたんですけど、まさか昔から大ファンだった米良さんをプロデュースできるとは思ってなくて。だから大変光栄です。
──米良さんとしては、クラブシーンの人であるTeddyさんから声がかかって、どんな反応をされたんですか?
米良 まず、オファーの際に一緒に送ってくださった「Red Doors」のデモを聴かせていただいて、「うお!」って思いましたね。と言っても、私はクラシック音楽を歌わせていただいていますけど、もともとは(松田)聖子ちゃんとかで育ってるんですよ。それからニグロスピリチュアルをはじめとする黒人音楽や、土着のフォークソングなんかも好きですし、つまり基本的にジャンルにこだわらず「いいものはいい」というスタンスで音楽を聴いてきたんです。だからTeddyさんの曲を歌うことは不可能だとは感じなかったんですけれど、「もしこれを私が歌ったら、Perfumeさんとかきゃりぱみゅ(きゃりーぱみゅぱみゅ)さんを脅かすことになるんじゃないか?」っていう……。
TeddyLoid ははは!(笑)
米良 勝手な妄想が膨らんで(笑)。
TeddyLoid (中田)ヤスタカさんも聴いてくれたと思います。
米良 あら! それはドキドキしますね。
「僕が米良さんの全盛期を取り戻す」
米良 それにしてもね、最先端の音楽シーンにいらっしゃる才能豊かなアーティストがですよ、私が二十代後半で歌わせていただいた歌のニュアンスや世界観を忘れずにいて、かつ四十代後半になった今の私に可能性を感じてくださるっていうのは、ありがたいことですよ。しかもその年月の間に、私の身体的、精神的な変化に伴って歌も変わってきているのに。それを知ってか、彼はレコーディングでも決して私に無理を強いずに、今の私にできることで、最大限に効果が現れるような表現を一緒に模索してくださったんです。だから立場が逆転してると言うか、私より18歳も歳下のTeddyさんのほうが大人なんじゃないかって。
TeddyLoid 僕も2歳からエレクトーンを始めて、クラシックで育って、音楽的に米良さんに共感できる部分はありますし、米良さんがご病気をされて(米良は2014年12月にクモ膜下出血で緊急入院し、翌年1月に水頭症を発症し再手術を行った)、懸命なリハビリを経て復帰なさったことも知っていたので。だから今回、僕が楽曲をプロデュースすることで、おこがましいのは承知で言いますけど「米良さんの全盛期を取り戻すぞ」という心意気で臨んだんです。実際、声を出していただいて、レコーディングもすんなり進んで……。
米良 いやいやいや、それは優しすぎ(笑)。ただ、Teddyさんはホントに、人のいいところを引き出してくださると言うか、とにかくポジティブなんですよ。似非じゃなくて、本物のポジティブ。魂が澄んでるんですよ。私はここ10年くらい「ポジティブな人になりたい」と思って生きているので、こうやって自分の目指す生き方をしてらっしゃる方とコラボレーションさせていただけて、幸せで、ときめいてるんです。ホントだから、(ゴマをする仕種で)これじゃないよ。
TeddyLoid あははは(笑)。ありがとうございます。
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「まな板の上の米良になります」
- V.A.「TVアニメ『18if』主題歌集」
- 2017年10月4日発売 / EVIL LINE RECORDS
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[CD]
3200円 / KICA-3268
- 収録曲 / アーティスト
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- Red Doors feat. 米良美一 / TeddyLoid
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:TeddyLoid] - Wonderland / リリィ(CV:名塚佳織)
[作詞:マミヨ / 作曲:片山将太、藤末樹 / 編曲:片山将太] - Break The Doors feat. アイナ・ジ・エンド(BiSH)/ TeddyLoid
[作詞:MaryJane / 作曲:TeddyLoid、MaryJane / 編曲:TeddyLoid] - 夢恋花 / 杉崎佳世(CV:田村奈央)
[作詞:咲岡里奈 / 作・編曲:R・O・N] - ANGELNOIR / 青葉市子
[作詞・作曲:青葉市子 / 編曲:detune.] - プルメリア / 奥井亜紀
[作詞・作曲:じん / 編曲:ANANT-GARDE EYES] - 行方知レズ / 月蝕會議
[作詞・作曲・編曲:月蝕會議] - too late / ネネ(CV:水瀬いのり)
[作詞・作曲・編曲:CHI-MEY] - 空の音 / Ryu Miho
[作詞・作曲・編曲:長谷川智樹] - ツバサ / 美咲(CV:新田恵海)
[作詞・作曲・編曲:月蝕會議] - ファクター・ワード / 住友花子(CV:南波志帆)
[作詞:eNu / 作・編曲:長谷川智樹] - Salvation / TeddyLoid
[作・編曲:TeddyLoid] - 白鳥は眠る feat. 米良美一 / TeddyLoid
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:TeddyLoid] - if / 月城遥人(CV:島﨑信長)
[作詞・作曲:じん / 編曲:TeddyLoid]
<ボーナストラック>
- ファクター・ワード(A吉スタジオremix)/ 住友花子(CV:南波志帆)
[作詞:eNu / 作曲:長谷川智樹 / 編曲:A吉スタジオ]
- Red Doors feat. 米良美一 / TeddyLoid
- 米良美一(メラヨシカズ)
- 1971年5月21日、宮崎県生まれの歌手。1996年9月にアルバム「母の歌~日本歌曲集」でメジャーデビューを果たす。翌1997年には宮崎駿監督によるアニメーション作品「もののけ姫」で同タイトルの主題歌を歌唱し、高音域を歌うカウンターテナー歌手として大きな注目を集めた。1999年には映画「死国」主題歌「ぼくは雨となり星となる」を歌い、同年10月には初のオリジナルアルバム「I'll be there」を発表。その後、精神的重圧により歌手活動ができなくなる時期もあったが、2007年には自叙伝「天使の声~生きながら生まれ変わる」を出版し、波乱万丈な人生経験を元に全国各地で講演会を行うようになる。2014年末にくも膜下出血で入院し、その1カ月後に水頭症を発症するという大病を患うも、リハビリを経て音楽活動を再開。2017年夏放送のテレビアニメ「18if」ではTeddyLoidとのタッグでオープニングテーマを担当した。「18if」オープニングテーマ「Red Doors feat. 米良美一」および第12話エンディングテーマ「白鳥は眠る feat. 米良美一」を収めたアルバム「TVアニメ『18if』主題歌集」は2017年10月発売。
- TeddyLoid(テディロイド)
- 1989年8月23日生まれの男性アーティスト / 音楽プロデューサー / DJ。18歳でMIYAVIのメインDJ / サウンドプロデューサーとして13カ国を巡るワールドツアーに同行し、2010年には☆Taku Takahashi(block.fm / m-flo)と共にTVアニメ「Panty & Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックを担当。翌2011年には柴咲コウ、DECO*27とともにgalaxias!を結成しアルバムを発表。2013年のももいろクローバーZ「Neo STARGATE」のサウンドプロデュース、そしてライブでの共演をきっかけに、キングレコードEVIL LINE RECORDSより2014年9月に1stアルバム「BLACK MOON RISING」を発表し、ソロアーティストとしてメジャーデビューを果たす。2015年9月にはももいろクローバーZ初の公式リミックスアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」を手がけ、12月には中田ヤスタカ(CAPSULE)、HISASHI(GLAY)、小室哲哉、志磨遼平(ドレスコーズ)、佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)等の豪華ゲスト12組を迎えた2ndアルバム「SILENT PLANET」をリリース。2016年にはKOHH、ボンジュール鈴木、ちゃんみな、アイナ・ジ・エンド(BiSH)、Kダブシャインらを迎え、その続編となる「SILENT PLANET 2 EP」の配信リリースをスタートさせた。プロデューサー、リミキサーとしては、the GazettE、KOHH、HIKAKIN & SEIKIN、Crossfaith、米良美一ら多岐にわたるアーティストを手がけているほか、短編映像シリーズ配信企画「アニメ(ーター)見本市」の吉崎響監督作品「ME!ME!ME!」、専門学校HALの2016年度テレビCM「嫌い、でも、好き」篇の音楽をDAOKOと共に担当。そのほか、PlayStation4ソフト「Destiny 2」のプロモーションムービー「『Destiny 2』Live Action Dance Trailer "Freestyle Playground"」、SONY「EXTRA BASS」シリーズ、宮本亜門演出の「WRECKING CREW ORCHESTRA」による公演「SUPERLOSERZ SAVE THE EARTH 負け犬は世界を救う」など多岐にわたる分野で音楽を担当している。2017年夏には北米を中心に3カ国6都市に及ぶワールドツアーを敢行。海外でも大きな反響を呼んでいる。