地声と裏声のサディスティックなチェンジ
──米良さんは「Red Doors」を発表した際のコメントで「ファルセット(裏声)と地声を使って、二つの世界の危うい所を行き来するかの様に歌いました」とおっしゃっていましたが(参照:アニメ「18if」オープニング、TeddyLoid曲を米良美一が歌う)、そのお話を具体的に伺ってもいいですか?
米良 私はずっと“境界歌手”と言いますか、ボーダーライン上の存在であり続けてるんですよね。一般的なミュージシャンだとはっきりジャンル分けなさるじゃないですか。だから定住地があるんですけど、私はどのジャンルに入れていただいても座りが悪い人間で、一緒にくくられる方々も私が居ることで困ると言うか。早い話が私だけ浮いちゃうようなところがあって。それが私の1つの個性であり、私が存在する意味だったりするのかなって思うところがまず1点。
──1つの決まった世界に属せない、と。
米良 それから、カウンターテナーは地声と裏声を使い分ける技術を皆さんに楽しんでいただくのがだいご味の1つなんです。私はその技術の高さを評価されて今までやらせていただいてきたので、その意味でも、表(地声)と裏(裏声)という2つの世界を表現することが、今回の楽曲には求められているんだろうと。
──「18if」も、現実世界と夢世界という2つの世界を行き来する物語ですからね。
米良 そうなんですよ。Teddyさんの音楽も、神聖なものと世俗的なもの、あるいは時として破滅的なものを意識して作られているのか、非常に二面性とレンジの広さを感じさせるんです。そこが魅力的だし、ならば私も持てる技術を駆使して、地声と裏声を上手に生かさねばと特に神経を使いました。
TeddyLoid まさに今回、米良さんと一緒にやらせていただく中で、地声と裏声のスイッチングはもっとも重要視した部分で……。
米良 もうね、やらしいんですよ。チェンジ(地声と裏声の切り替え)がものすっごく難しいの。サディスティックと言ってもいいくらい。
TeddyLoid いや、そこが米良さんの魅力で、最大限に生かしたかったので(笑)。かつて米良さんが取り上げられたヘンデルの「今、トランペットが勝利の歌を」とかも地声と裏声を巧みに行き来する曲で、やっぱり当時の僕は衝撃を受けたんですよ。なので、その要素は絶対に入れたいなと。
──Teddyさんはただミーハーなだけじゃないですよね。米良さんの歌のすごさを理解したうえで「自分だったらこう扱いたい」という明確な意図がある。
TeddyLoid はい。そこはおっしゃる通り明確にありました。
米良 お若いのにねえ。私が聖子ちゃんの歌をただボーッと聴いてたのとは全然違う。
「現代版『もののけ姫』を作ってやろう」
──今回のコラボで、米良さんはずいぶんと新しい経験をなさって。
米良 全部が初めての経験ですよ。私、今年でアニメーションの仕事に関わって20周年なんです……あの、誰も「おめでとう」と言ってくれませんけど。
TeddyLoid おめでとうございます!
──おめでとうございます!
米良 いやいや、冗談ですよ(笑)。和ませるために言ったつもりだったんですけど、場の空気が一瞬にして……。
──「しまった!」という感じに(笑)。
米良 要はね、20年も活動してるのに「まだこんなに新鮮な気持ちで音楽と向き合えるんだ」と思えたことがうれしくて。文字通りTeddyさんが新しいドアを開けてくれたんです。
TeddyLoid そう思ってくださったのなら、これほどうれしいことはないですね。プロデューサーとして。
米良 うん。蘇りましたもん、若い頃の感覚が。不思議なんですけど、新しいことにチャレンジしてるはずなのに、なんだか懐かしい気持ちになってね。
TeddyLoid 「白鳥は眠る」は、まさにそんなテーマで書いた曲なんですよ。米良さんを若返らせようと(笑)。
──「白鳥は眠る」は、アコースティックギターをフィーチャーしたバラード。いわばストレートな歌モノですね。
TeddyLoid 「Red Doors」では米良さんの声を楽器のように扱う電子音楽的なアプローチを取ったので、「白鳥は眠る」では米良さんのメロディセンスだったりとか、そういった歌唱の部分を生かしたくて。言ってみれば、カラオケでも歌える曲ですよね。こちらは「現代版『もののけ姫』を作ってやろう」ぐらいの気持ちで臨みました。
──現代版「もののけ姫」。
米良 すごい方ですね。「Red Doors」も「白鳥は眠る」も共通して、彼の曲は澄んでいるんですよね。だからホントに、こういう表現がふさわしいかわからないんですけど、「もののけ姫」で描かれていたような禁足地に足を踏み入れているような、聖なる場所で歌っているような気持ちになるんです。「白鳥は眠る」は神社の神主さんの上げる祝詞のようにも感じるし、「Red Doors」は西洋的な教会音楽のニュアンスを感じるし、いずれにしても神を意識させるんですね。でも、神様ばっかりに意識が向かうんじゃなくて、ちゃんと地上で蠢いてる人間たちの息吹みたいなものも感じる。なおかつ「18if」というアニメにも寄り添っている。だから彼はすべてを見抜いて作ってるわけです。千里眼かな。
TeddyLoid いや、むしろ僕のほうこそ、この対談中に米良さんの言われることがすべてその通りでちょっと驚いてます。例えば僕のバックボーンはフレンチエレクトロで、中でもDaft Punkと共に特に影響を受けたJusticeは、まさに教会音楽をエレクトロニックミュージックに持ち込んでるんです。そこまで感じ取っていただけるっていうのは、ただただすごいですね。
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TeddyLoidは無駄なレコーディングはしない
- V.A.「TVアニメ『18if』主題歌集」
- 2017年10月4日発売 / EVIL LINE RECORDS
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[CD]
3200円 / KICA-3268
- 収録曲 / アーティスト
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- Red Doors feat. 米良美一 / TeddyLoid
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:TeddyLoid] - Wonderland / リリィ(CV:名塚佳織)
[作詞:マミヨ / 作曲:片山将太、藤末樹 / 編曲:片山将太] - Break The Doors feat. アイナ・ジ・エンド(BiSH)/ TeddyLoid
[作詞:MaryJane / 作曲:TeddyLoid、MaryJane / 編曲:TeddyLoid] - 夢恋花 / 杉崎佳世(CV:田村奈央)
[作詞:咲岡里奈 / 作・編曲:R・O・N] - ANGELNOIR / 青葉市子
[作詞・作曲:青葉市子 / 編曲:detune.] - プルメリア / 奥井亜紀
[作詞・作曲:じん / 編曲:ANANT-GARDE EYES] - 行方知レズ / 月蝕會議
[作詞・作曲・編曲:月蝕會議] - too late / ネネ(CV:水瀬いのり)
[作詞・作曲・編曲:CHI-MEY] - 空の音 / Ryu Miho
[作詞・作曲・編曲:長谷川智樹] - ツバサ / 美咲(CV:新田恵海)
[作詞・作曲・編曲:月蝕會議] - ファクター・ワード / 住友花子(CV:南波志帆)
[作詞:eNu / 作・編曲:長谷川智樹] - Salvation / TeddyLoid
[作・編曲:TeddyLoid] - 白鳥は眠る feat. 米良美一 / TeddyLoid
[作詞:岩里祐穂 / 作・編曲:TeddyLoid] - if / 月城遥人(CV:島﨑信長)
[作詞・作曲:じん / 編曲:TeddyLoid]
<ボーナストラック>
- ファクター・ワード(A吉スタジオremix)/ 住友花子(CV:南波志帆)
[作詞:eNu / 作曲:長谷川智樹 / 編曲:A吉スタジオ]
- Red Doors feat. 米良美一 / TeddyLoid
- 米良美一(メラヨシカズ)
- 1971年5月21日、宮崎県生まれの歌手。1996年9月にアルバム「母の歌~日本歌曲集」でメジャーデビューを果たす。翌1997年には宮崎駿監督によるアニメーション作品「もののけ姫」で同タイトルの主題歌を歌唱し、高音域を歌うカウンターテナー歌手として大きな注目を集めた。1999年には映画「死国」主題歌「ぼくは雨となり星となる」を歌い、同年10月には初のオリジナルアルバム「I'll be there」を発表。その後、精神的重圧により歌手活動ができなくなる時期もあったが、2007年には自叙伝「天使の声~生きながら生まれ変わる」を出版し、波乱万丈な人生経験を元に全国各地で講演会を行うようになる。2014年末にくも膜下出血で入院し、その1カ月後に水頭症を発症するという大病を患うも、リハビリを経て音楽活動を再開。2017年夏放送のテレビアニメ「18if」ではTeddyLoidとのタッグでオープニングテーマを担当した。「18if」オープニングテーマ「Red Doors feat. 米良美一」および第12話エンディングテーマ「白鳥は眠る feat. 米良美一」を収めたアルバム「TVアニメ『18if』主題歌集」は2017年10月発売。
- TeddyLoid(テディロイド)
- 1989年8月23日生まれの男性アーティスト / 音楽プロデューサー / DJ。18歳でMIYAVIのメインDJ / サウンドプロデューサーとして13カ国を巡るワールドツアーに同行し、2010年には☆Taku Takahashi(block.fm / m-flo)と共にTVアニメ「Panty & Stocking with Garterbelt」のサウンドトラックを担当。翌2011年には柴咲コウ、DECO*27とともにgalaxias!を結成しアルバムを発表。2013年のももいろクローバーZ「Neo STARGATE」のサウンドプロデュース、そしてライブでの共演をきっかけに、キングレコードEVIL LINE RECORDSより2014年9月に1stアルバム「BLACK MOON RISING」を発表し、ソロアーティストとしてメジャーデビューを果たす。2015年9月にはももいろクローバーZ初の公式リミックスアルバム「Re:MOMOIRO CLOVER Z」を手がけ、12月には中田ヤスタカ(CAPSULE)、HISASHI(GLAY)、小室哲哉、志磨遼平(ドレスコーズ)、佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)等の豪華ゲスト12組を迎えた2ndアルバム「SILENT PLANET」をリリース。2016年にはKOHH、ボンジュール鈴木、ちゃんみな、アイナ・ジ・エンド(BiSH)、Kダブシャインらを迎え、その続編となる「SILENT PLANET 2 EP」の配信リリースをスタートさせた。プロデューサー、リミキサーとしては、the GazettE、KOHH、HIKAKIN & SEIKIN、Crossfaith、米良美一ら多岐にわたるアーティストを手がけているほか、短編映像シリーズ配信企画「アニメ(ーター)見本市」の吉崎響監督作品「ME!ME!ME!」、専門学校HALの2016年度テレビCM「嫌い、でも、好き」篇の音楽をDAOKOと共に担当。そのほか、PlayStation4ソフト「Destiny 2」のプロモーションムービー「『Destiny 2』Live Action Dance Trailer "Freestyle Playground"」、SONY「EXTRA BASS」シリーズ、宮本亜門演出の「WRECKING CREW ORCHESTRA」による公演「SUPERLOSERZ SAVE THE EARTH 負け犬は世界を救う」など多岐にわたる分野で音楽を担当している。2017年夏には北米を中心に3カ国6都市に及ぶワールドツアーを敢行。海外でも大きな反響を呼んでいる。