10-FEET TAKUMA×高橋茂雄(サバンナ)|同世代、異業種の2人が惹かれ合う理由

拳を突き上げながら泣ける1曲

──新作「シエラのように」の話も聞かせていただければと思います。高橋さんにはリリースに先駆けていち早く新曲を聴いていただきました。

高橋茂雄(サバンナ)

高橋 発売前の新曲を聴かせてもらえただけでもすごくうれしくて。「シエラのように」を聴いたとき、拳を突き上げて歌いながら泣いてしまうようなライブの情景が思い浮かびました。

TAKUMA すごくうれしい。

高橋 世の中にはいろんな「泣ける音楽」があると思うんですけど、拳を突き上げながら泣ける曲って10-FEETの1つの武器だと思うんです。最近はライブができていなかったけど、きっとライブハウスでNAOKIくんがベースを弾いて、KOUICHIくんがドラム叩いて、TAKUMAくんがこの曲を歌ったとき、ファンのみんなはきっと泣くんだろうなって思いました。この曲は自粛期間に作ったものなの?

TAKUMA 本格的な自粛期間に入るちょっと前かな。2月か3月ぐらいの、新型コロナウイルスの情報が出始めた頃。無性に曲が作りたくなった時期があって、10-FEETで演奏する曲なのか、弾き語りで歌う曲なのか、自分が歌わない誰かへの提供曲なのか、そういうことを何も考えず、とにかく「曲を作りたい」という思いの純度が一番高い形で曲作りをしてみようと思って。特にテーマとかも設定しなかったし、何かに向けて歌うわけでもない。それで作った5、6曲の中に「シエラのように」があったんです。自分の中から自然と湧き出てきた形やね。

高橋 「シエラ」というのはどこから出てきた言葉なの?

TAKUMA(10-FEET)

TAKUMA まずメロディが浮かんで、それと一緒に出てきた言葉が「シエラ、シエラ」だったんかな。「シエラ」というのは20年ぐらい前に知って、いつか曲に使おうと思い続けてきた言葉なんです。

高橋 20年も温めてたんだ。

TAKUMA うん。シエラネバダっていう山脈があって、そのシエラにまつわるアウトドアのブランドがあるんだよね。当時僕は服屋で働いていたからいろんな服の勉強をしとって、そのブランドは2人の青年が作ったものなんだよ。2人は登山に行ったときに遭難して、「もう助からない」と思うところまで追いつめられたらしくて。「もし生きて帰れたら安くて命を助ける機能性の高い服を一緒に作ろう」と言って励まし合いながらがんばって、奇跡的に助けられたことがきっかけで、そのブランドが作られたんだよね。そのときからずっと「シエラ」という言葉を覚えていた。

高橋 比喩的なもの、TAKUMAくんの造語的なものかなと勝手に思っていたんですけど、今聞いていろいろ腑に落ちました。でも文脈を理解してなくてもグッと来てたから、音楽ってやっぱりすごいなあ。

TAKUMA 最初は「シエラ」という言葉をタイトルにしようとまで思っていなかったんだよね。ただ「山あり谷あり」みたいなことを歌詞でも書いていたから、いろいろしっくりきて「シエラのように」というタイトルになりました。

高橋 僕はメロディのエモさと演奏のカッコよさだけでもグッと来てたので、今歌詞の意味を知ってもっとこの曲のことが好きになりました。

TAKUMA 曲を作るとき、何も考えないようにしてはいたんだけど、やっぱりなんか落ち込んでいた時期だったんだよね。すごく落ち込んでた。ただその落ち込んでる気持ちを持ってグズグズ泣きたいんじゃなくて「まぶしいところに向かって思いっきり叫びたい」と思ったんだよね。

左からTAKUMA(10-FEET))、高橋茂雄(サバンナ)。

高橋 TAKUMAくんが曲を作ってデモを渡すとき、NAOKIくんとKOUICHIくんには歌詞の意味とかは説明するの?

TAKUMA あんまりしないかもなあ。デモのときは歌詞も全部は入ってなくて。「シエラ、シエラ」と歌っている部分はあったと思うけど、特に聞かれたりもせえへんし。

高橋 それは昔から? 「この歌詞、どういう意味?」みたいに聞かれることもないんや。

TAKUMA あんまりないかもね。あったとしても、たまにかな。

高橋 それはきっとTAKUMAくんへの信頼が表れているんやろうね。TAKUMAくんが言いたいこと、言葉にしたいことを自分で咀嚼しようってことなのかな。

TAKUMA 初期の頃は歌詞の意味とかも説明したこともあるんだけど、なんか照れくさくて(笑)。最近は曲に関する説明とか随分したことないなあ。

高橋 いやあ、面白い関係性やなあ。

感じるままに収録曲を決めたのは初めて

高橋 カップリングの2曲はどうやって生まれた曲なの?

TAKUMA 「あなたは今どこで誰ですか?」という曲は1、2年前に家のリビングで酔っ払いながら作った曲で。近所迷惑にならないぐらいのギターの音量でフォークソングっぽい寂しげな曲を作っていたんです。それがボイスメモに残っていて、ある日「この曲、10-FEETでガッとやったらええ感じになるな」と思って仕上げた曲ですね。「彗星」のほうはそういう曲の種みたいなものはなくて。

高橋 じゃあシングルのレコーディングに合わせて作った曲なんや。

TAKUMA うん。おぼろげに「こういう曲やろかな」と思っていたくらい。

高橋 ということは「彗星」がTAKUMAくんから出てきた一番新しい曲ということやね。3曲以外にもたくさん曲を作っていたみたいやけど、この3曲を選んだ理由は?

TAKUMA(10-FEET)

TAKUMA 今までのシングルだったらもっとジャンルの違う曲を入れていたと思うんやけど、今回はたまたま3部作みたいな共通項の多い曲が3曲そろった感覚があって。テンポ感は全然違うけど、歌詞で書かれていることとか、コードワークが似ているんだよね。だから収録曲のバランスとかもとにかく考えず、今入れたい3曲を詰め込んだシングルになったかな。余計なことを考えずに思うまま、感じるままに収録曲を決めたのは今回が初めてかもなあ。

高橋 バンドが新曲を出すときって、ライブで披露することを念頭に置いていると思うんです。だから3曲入りのシングルだとしたら、例えば激しめな曲を一発入れて、みたいなライブでの役割を考えていると思っていたんやけど、今回は……。

TAKUMA ライブのことはそんなに考えていなかったね。特にシングルのときはあまりライブのことは考えていないかな。逆にアルバムだと、ゆっくりめな曲、速めな曲、重い曲、跳ねる曲みたいな感じにバリエーションを持たせて、ライブでアルバムそのままやってもいい感じにするかも。

高橋 なるほど。打線を組むのはアルバムで、シングルは好きに作るってことか。

TAKUMA そうそう。シングルのときは自由に個性を持たせて「あとはがんばってくれたまえ!」って感じかな。