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金子ノブアキ Keraunos
観察者としての批評眼を宿した、DTM +生ドラムによる緊迫感あふれるインストゥルメンタル
文 / 内田正樹
グリッターなシンセサウンドとドラムが轟く。22秒頃から42秒頃までの間で聴かせる、シフトしていくメロディ、ピアノ、ベースラインの妙の中で、オルタナティブロックとブレイクビーツのエッセンスが融合したかのような性急なビートが、せきを切ったように鳴らされる。
解読不能なボーカルのマテリアルが響く。近未来感をたたえたようなその響きは、どこか啓示的もある。そして風雲急を告げるような緊張感に満ちたリズムから、クライマックスへと疾走していく。あっという間に駆け抜けるおよそ3分半。幾重も形態を変えていく展開とメロディが、ひたすら激しく、流麗で美しい。
「Keraunos」は、金子ノブアキの最新アルバムのタイトルチューンだ。“Keraunos(ケラウノス)”とは、古代ギリシア語で雷。ギリシア神話における絶対王・ゼウスが操る武器の名称でもある。
金子はなぜこの曲に、ひいてはアルバムに「Keraunos」と名付けたのか? 彼はアルバムの中で、SNS時代やAIの到来を背景とする現代の群集心理の正体やその起源と未来について、“観察者”たる独自の批評眼で考察し、あらゆる意味で“過渡期”とも捉えられる今日をインストゥルメンタルによって雄弁かつラジカルにドキュメントするという表現に臨んでいる。その象徴的なナンバーが、過渡期の今日を生きる群衆のうごめきを、暴発寸前の鼓動を、今この瞬間の疾走を、雷霆の如き鮮烈なサウンドで表現した、この「Keraunos」なのだ。
この曲は、金子の盟友・清水康彦の手によるミュージックビデオも必見だ。「KERAUNOS 2500 AD」と銘打たれたファッションショー。雷が走るモードなクロージングでランウェイを闊歩するモデルたちの顔にはモザイクが。前述の楽曲のテーマを、技アリのディレクションで映像化している。
DTMプラス生のドラムというスタイルもまた、今や金子にとっての絶対的な“武器”と言える。2016年のアルバム「Fauve」から本格的に着手したDTMのスキルを駆使し、ドラムはもちろん、作曲、ビート&トラックメイク、レコーディングまでのすべてを自ら手がけたそのサウンドは、ミクスチャーかつマッシヴで、ひたすら“アガる”DTMとしての機能美までもが備わっている。トラックメイカーとしての進化もたくましい、アーティスト・金子ノブアキを象徴するシグネチャーチューンの誕生である。
金子ノブアキ「Keraunos」MV
金子ノブアキ(カネコノブアキ)
1981年生まれ、東京都出身。ロックバンドRIZEのドラマーとして2000年にメジャーデビューし、2009年にソロ活動をスタートさせた。ソロライブでは音楽、映像、照明を駆使し総合芸術として表現するスタイルが高い評価を得ている。2019年よりバンドRED ORCAを始動させ、精力的に活動を展開中。俳優としても映画、ドラマ、CMに出演している。2024年9月にソロとしては8年ぶりのフルアルバム「Keraunos」を発表。9月19日に同作を携えて東京・Shibuya WOMBにてショーケースライブ「Nobuaki Kaneko Showcase 2024 "Keraunos"」を行う。
金子ノブアキ | Nobuaki Kaneko Official Site
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