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ano「愛してる、なんてね。」ジャケ写

ano 愛してる、なんてね。

再び実現したクリープハイプ尾崎世界観とのコラボ、そこに込められた思いを考察

文 / 橋本尚平

anoの代表曲といえば「ちゅ、多様性。」なのは誰もが認めるところだと思うが、ファンにとって大切にされている曲、という意味で言えば「普変」は間違いなくその1つだろう。世の中の型にはまった“普通”に対してアゲインストな姿勢を貫いてきたanoが歌う「誰かが言う変なんて せいぜいたかが普通の変だ」という言葉が、どれほどたくさんの人の救いになったのかは計り知れない。

そしてもう1曲、かつてマクドナルドのサービスの代名詞だった「スマイル0円」を今の時代の接客に合わせて刷新した「スマイルあげない」。これもまた「自分らしく働こう」という時代の空気を反映しているのと同時に、現代のポップアイコンとなったanoの持ち味を発揮した曲と言える。

そんな「普変」を提供した尾崎世界観(クリープハイプ)が作曲、「スマイルあげない」を制作したケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)が編曲し、あのが作詞したのが「愛してる、なんてね。」だ。バンドマンとトラックメイカーという、別ジャンルで活躍する2人のコラボが実現したのは、ほかならぬanoの新曲だからこそだろう。

そしてそれ以上に注目すべきなのは、あのが書いた歌詞だ。これまでも「AIDA」のように広義の“愛”をテーマにした曲は存在したが、ここまではっきりと恋愛感情を描いているのはanoの曲としては珍しい。ここからはあくまで筆者の予想でしかないのだが、もしかしたらこの曲にはクリープハイプへのアンサー的な一面があるのではないだろうか。

anoはこの曲の翌週に発売されるクリープハイプのトリビュートアルバムに参加し、“急速に人気バンドになったクリープハイプに対するファンの愛憎”を描いた「社会の窓」を歌っている。「愛してる 今を愛してる」とシャウトするこの曲をカバーしながら、同時期に尾崎世界観の提供曲で「『愛してる』なんて嘘、吐きすぎて 誰にも許されなかったけど」とanoが歌っているのを聴くと、この2曲が対応しているように思えてしまう。また「愛してる、なんてね。」に出てくる「普通にしたら可愛いとかほざいてくる常連客」というフレーズは「社会の窓」で「曲も演奏も凄く良いのに なんかあの声が受け付けない もっと普通の声で歌えばいいのに」と歌うくだりを連想させる。もし「愛してる、なんてね。」が“急速に人気になったアーティストからの、それに戸惑うファンに向けてのメッセージ”なのだと仮定すると、ほかの部分の歌詞についてもいろいろと腑に落ちる点が多い。

もちろん、作詞した本人が何も言っていない以上、歌詞の意味は聴いた人の感じ方に委ねるべきで、正解はこれだと言って解釈の幅を狭めてしまうべきではない。ただ、そんなふうにリスナーに考察や深読みをさせてしまう力がこの曲にはあるのだ。

ano「愛してる、なんてね。」ミュージックビデオ

ano「愛してる、なんてね。」
2024年8月21日(水)配信開始 / TOY'S FACTORY
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作詞:あの
作曲:尾崎世界観(クリープハイプ)
編曲:ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)

ano「愛してる、なんてね。(初回生産限定盤)」
2024年8月21日(水)発売
税込3700円 / TFCC-89778~89779
ano「愛してる、なんてね。(通常盤)」
2024年8月21日(水)発売
税込1650円 / TFCC-89780

ano(アノ)

ano

2020年9月に配信シングル「デリート」をリリースし、「ano」名義でソロアーティストとしての音楽活動を開始した。2022年4月にNetflixアニメ「TIGER & BUNNY 2」のエンディングテーマ「AIDA」でTOY'S FACTORYよりメジャーデビュー。2022年11月にはアニメ「チェンソーマン」第7話エンディングテーマ「ちゅ、多様性。」が大きな話題になった。また、2024年いっぱいでの解散を発表している4人組バンド、I'sにてボーカル&ギターを担当。さらにアーティスト活動の傍ら、映画やドラマ、バラエティ番組などさまざまなフィールドでマルチに活躍する。